17 素の姿
どうぞよろしくお願いします。
急いでいたという商人はこの地方のことは詳しくなかったようだ。
商人というには商人らしくない。
バルドとカイトも冒険者らしい服を着ているが……。
急いでいたというし、なんか訳ありな貴族とかかな?
ミレーヌはカイエンをちらりと見ると、カイエンも怪訝そうな顔でミレーヌを見た。
その商人は「ここで馬に残りの人参を食べさせてから出発したいので、一緒に護衛を頼みたい」と依頼してきて銀貨1枚出すという。
こちらの商人が承知してくれたのでコーラスが銀貨1枚を受け取り、この場は荷馬車3台を護衛することになる。
ちょうど昼時だ。
焚火を作り、シーラとミレーヌが料理の準備を始めると、バルドが人参を3本くれた。
「いいの!?」
「ああ、少しでも減らしたいんだとさ」
バルドが主人である商人の方を見て笑った。
人参を刻んで塩で揉み、水分を少し抜いてから酢と砂糖と油と木の実を混ぜてサラダにした。
それとパンと目玉焼きが昼食だ。
商人達は助けてくれたお礼にと向こうの主人に昼食をお呼ばれしているみたい。
カイトとバルドが何やら給仕のようなことをしていた。
「あいつら……、貴族と従者かな?」
コーラスが言った。
「うん、私もそうじゃないかなと思う。
わざと変装しているよね?」
ミレーヌが答えるとシーラがくすくす笑う。
「人のこと言えない……」
「ま、それはそうだな。
向こうも変に思ってるかも……」
カイエンが言いながら、視線をミレーヌに戻した。
「ミレーヌ、魔法も使えるんだな」
「あ、うん、少しは。
でも、剣とか何か依り代っていうの、そういうのがないと難しい。
カイエンみたいに、自在に操るとか、そういうのはできない」
「ふーん、練習してみたらできるかも。
時間を作ってやってみよう」
「うん、教えて欲しい!」
楽しそうに話をするふたりをコーラスがじとっと見ている。
シーラが苦笑いしてから言った。
「カイエン、これで私達の実力というか戦い方を見れたでしょ。
どう?」
「あー、今の護衛の最中はペアで動くことが多いから。
シーラだけは必ず誰かと組むようにすれば、大丈夫だな」
「それは、私だけ攻撃力が足りないってこと?」
「まあ、そういうこと。
シーラはヒーラーに専念してもらって、コーラス、ミレーヌ、俺……、いや私が攻撃するというのが一番……」
「カイエン、俺でいいよ」
ミレーヌが笑う。
「『私』って言うの、貴族の嫡男として、自分自身を、素の自分を隠す時の呼称でしょ。
ここではそういうのなしで」
「あ……」
カイエンがミレーヌの笑顔を見ながら、年相応な感じの少年らしい狼狽を見せ、赤くなる。
「ミレーヌの前じゃ、大人ぶりたかったんだよな」
コーラスが言うと、カイエンは悔しそうに俯いた。
「うう、だって……」
「私は素のカイエンを知りたいな。
だから、俺って言ってくれた時、なんだかうれしかった」
読んで下さり、ありがとうございます。
なんかいい感じじゃないですか。




