127 聖女か悪女か
どうぞよろしくお願いします。
カイエンとマリアも自分の部屋に戻った。
ミレーヌはパラパラ古書をめくりながら、ため息をついた。
「うーん、なかなか見つからないな」
そこへアルベルトが入ってきた。
「苦戦してるね。
まあ、王室書庫にあった本がここにあるとは思えないし」
「でも、レーニアだからこその記述が載っている本があるかもしれない!」
「……確かに王都から離れた地だから、正史から逃れた本がね」
「ええ、レーニアはずっと辺境ですし、魔王城も近くで……」
「そうだな。昔はモルドバはなかったはずだ」
「そうなんですか?」
アルベルトが目を細めた。
「レーニア……、なぜ、この街はレーニアなんだ?」
「……レーニア?
街の名の由来ですか?
ある女性の名が由来だと聞いています。
昔々、この地方へひとりの女性がやって来て、小さな村だったこの場所にこの街の基礎を作ったそうです」
「女性?」
「ええ、もしかしたら、何かの神話や昔話の例えかもしれないけれど……。
ひとりで、息子を産んで育てていたそうですよ」
「そうか、肝っ玉母さんか?」
「ふふふ、女傑という方がいいのでは」
「ミレーヌのような、か?」
「えっ、私、肝っ玉母さん、ですか!?」
「そのレーニアはどうしたんだ? 息子は?」
「さあ……。確か、この街を去ることになり……、残された住人が彼女の功績を残すために街の名にしたとか?
そうですね。息子と、彼女はどうしたんだろう? そう言われると気になります」
ミレーヌは苦笑して、小さな本を取り上げた。
「これがレーニアの街の起源やその後のことをまとめた本みたいです。
かなり昔、曾祖父の代より前に書かれた本なので、手書きで読みにくいけど、読んでみます。
読んだら、神官様にもお貸ししますね」
ミレーヌはため息をついて、立ち上がった。
「もう行くのか?」
「はい。
……神官様、なぜ、カイエンにだけ、話があったのですか?」
アルベルトが微笑んだ。
「カイエンにだけはもう少し細かい所までいろいろ説明しておきたかったので、ね」
「……あ、私は聖女という柄ではないので、この討伐が済んだら、お役御免にしてくれませんか?
マリアとコーラスもパーティに参加してくれることになりました」
「それはいいね。楽しみだ」
ミレーヌはじっとアルベルトを見た。
「楽しみ……? その言葉は言わない方がいいと思います。
家や土地を追われた者も大勢います。
命を落とし、怪我した者も……。
仮説や仮定を実証する……、楽しみがあるのかもしれませんが……。
命じる側の人に言われたら、いい気持ちはしません」
「……わかった。
気をつけることにする。
ミレーヌ、君はやはり聖女に向いていると思うよ。
オベリウスの恋人であった聖女も……、君のような強い人だったんだろうな。
王妃になり、廃妃になったことで名はもう消されてしまっているが……」
ミレーヌは礼をして図書室を出て行った。
アルベルトはミレーヌが見ていた古書の棚に近寄ると呟いた。
「聖女は聖女だったのか、それとも、正史が断罪しているように悪女だったのか……」
読んで下さり、ありがとうございます。




