114 ずれていく
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部屋に戻ったジョルジュはラルフに「頭を下げたのに『許す』と言われなかったのだが?」と不満げに言った。
ラルフは後悔していた。
ジョルジュ王子の護衛騎士としてレイオス辺境伯爵家へ行くとなった時、両親に頼まれた。
長兄がその隣のローレウス伯爵令嬢に一目惚れをして婚約を打診し続けているのだが良い返事をもらえないのだと。
どうやらローレウス伯爵家はレイオス辺境伯爵家と代々親しくしていて、今もそのシーラ嬢はレイオス領にいるらしいと。
もし会えたら、長兄の、家の思いを伝えてくれまいかと。
「まあ伝えるくらいなら」と請け負ったものの……。
到着してみたら、レイオス辺境伯爵家の後継のジョナサンとローレウス伯爵家のシーラ嬢の婚約が内定したと。その状態で長兄のことも言い出せぬまま……。
ジョナサンに腹が立った。
辺境伯爵家の政務に関りながら、順調に業績を伸ばし、美しい婚約者を、他家が長年申し込み続けている女性を搔っ攫っていき、そして、身体的にも才能にも恵まれて……。
自分達をもてなしてくれる、手際の良さ、堂々とした態度、それでいて傲慢さもなく、穏やかな……。
このような人物と親しくなりたいという気持ちと、何もかも恵まれているジョナサンへの嫉妬。
困らせたり、慌てさせてやりたいという気持ち。
ジョルジュ王子の我儘や八つ当たりでは!? という行動にお諫めせず、行動を正当化するような言葉を掛けてしまったり、些細なことをあえて大きくしてみたり……、してしまった。
そしてそれが内輪の話では済まなくなり、外部へ出てしまいそうになって、それを抑えるために年下のおとなしいウィリアムのせいにしてしまった。
ひとつボタンを嵌め違えたために、その後みんなずれていってしまう……、そんな感覚だった。
小さくなり閉じこもってしまうと思ったウィリアムは姿を消し、こんな大事になってしまった。
まあ、ウィリアムがいなければ、反論されることもなく、このまま乗り切れるかもしれない……、と思っていたのだが。
確かに王都に出られて、いろいろ先に吹聴されたら、面倒なことになりそうだ。
「ウィルは王都に向かったのかもしれません。
ジョルジュ王子も戻られた方がいいかと」
ジョルジュは顔をしかめ、口籠る。
「ウィルが、確実に王都へ向かった、なら、だが……」
そうだ、ウィリアムの行方がわからないのに、それを捨て置いて王都に帰るというのも外聞が悪い。
しかし、このままここにいても……。
「ただ、このことを王都に報告に行く者がいなくてはならないということはわかる。
ラルフか、アルバート……、どちらか……」
ラルフがアルバートを見る。ジョルジュ王子の従者。無口で何を考えているかわからない。淡々と世話をしているという印象だ。
ラルフが言った。
「私が参りましょう。
ここは騎士団もおりますし、ジョナサン殿もコーラス殿も戻ってきた。
護衛は充分でしょう」
「そうだな、では、ラルフ。王都へ行き、いいように報告してきてくれ」
ラルフは頷いて用意をするために自分の部屋に下がる。
それを見送ってジョルジュはため息をついた。
「どうして、こう、何もかも、うまくいかない。
ウィル……、どこへ行ったんだ……」
アルバートが無言で礼をして部屋から出て行く。
「ひとりで考えろ、と、言うことか……」
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