110 マールからの手紙(後)
どうぞよろしくお願いします。
ただ魔王に憑りつかれ、王国に宣戦布告したとなれば、自分の意思ではなくても、王国への帰還は難しいかもしれない。
だから、バートはひとりで、秘密裏に兄を救えないかと動いていたのよね。
そして、魔王を倒す直前にひとりになるために、私達を城から出し、魔王に最後の攻撃を。
仮説が間違っていたら、バートは兄を殺すことになる。
手が震えたと言っていたわ……。
魔王オベリウスはバートの兄から離れ、魔王の力が無力化されたと同時に城が崩れ始めた。
そしてバートと兄は強制的な転移魔法で飛ばされた。
仮説は合っていた。
どこだかわからない森の中でバートは瀕死の兄を抱えていたそうよ。
すぐに治療魔法を施したけれど、心がとても弱っていたバートの兄はなかなか意識がはっきりせず。
苦労して森を抜け、村にたどり着いて、そこが魔王城のあった辺境とは反対側の隣国との境の村であることに気がついたそう。
そこで、名を偽り、旅をしていた魔法使いの兄弟ということにして暮らし始めた。
バートが世話をして、ゆっくりと兄は健康を取り戻していったそう。
王都に帰りたい、私に会って話したいという焦る気持ちもあったそうなのだけれど、辺境のため王都の情報が届くのは遅く、連絡を取ろうとするのは危険だと判断したそう。
しばらくして、アレックスとアルファードが貴族になり領地をもらい、私はそのまま教会の大聖女として王国に仕えるという話を聞いた時は、待っていてくれていると、うれしかったと言われた。
けれども、健康になればなるほど、バートの兄は自分が魔王に憑りつかれて人を手にかけ、非道を行っていたことを思い出すようになり、心の症状は一進一退。
バートは根気よく、兄に付き添い、兄は何も悪くない、それは全て憑りついていた魔王オベリスクのしたことなのだと言い聞かせ続けた。
そして、兄は気力を持ち直し、村に大切な女性ができ、結婚を考えるくらいまで回復したそう。
兄からミュラー子爵家をバートに任せる、自分はミュラー子爵家と縁を切るという話をされ、バートは反対した。
兄が王都に、ミュラー子爵家に帰れるようにと、何もかも秘密にしていたのだから。
でも、兄はもう王都には帰りたくないと、アルレディオ王子もまだいるし、お会いしたら、自分はどうなるかわからないと。
その時、アルレディオ王子と大聖女が結婚するのではという話が王都から流れてきて、兄はまた心のバランスを崩してしまい、バートは決心した。
兄の願いを受け入れ、この地で生きていけるようにと。
ミュラー子爵家は自分が引き受け、兄はいなかった者として王家や子爵家には報告しようと。
お兄様は本当に安心されたのでしょう。回復されて、村で結婚し、女性の家に入られたそう。
バートが王都に戻ると、私はアルレディオ王子とではなく、アレックスと結婚し魔王城のあった辺境の地にいた。
バートは、魔王城の崩壊時の強制転移魔法と同時に意識を惑わせる魔法も発動してたようで、記憶喪失になり、王国の各地を放浪していたが、やっと記憶が戻ったという話で、5年ぶりに帰還できたと。
そう、私とアレックスにはもうガイオンがいた。
アルレディオ王子と結婚していたら、もしかしたら、別れてバートと再婚できたかもしれない、なんて後からならいくらでも言える。
私もバートもアレックスも自分のしたことに後悔はしていないの。
うまく、タイミングが合わなかっただけ。秘密にしなければならなかったこと、悲しいこと、はあったけれど、それは仕方がなかった……。
だから、ミレーヌ、あなたには伝えておきたいの。
カイエンはバートからこのことを聞いていると思う。
もし、また魔王が復活するようなことがあれば、カイエンはバートと同じようにその魔法使いを救おうとするでしょう。救えると知っているのだから。
その時、愛しているミレーヌを巻き込むのを恐れて秘密にするかもしれない。
だから、伝えます。
あなたは離れないで。
ミレーヌのことだから、知らなくてもそうするかも、とは思うのよ。
でも、あなた、アレックスに似て変に素直なところがあるから、カイエンに一時的に離れるように言われたら、信じて離れてしまいそうで……。
私もアレックスもあなたに何かとてつもないものを背負わせてしまったんじゃないかとそれだけが気がかりで。でも、カイエンと一緒に幸せになって欲しいの。
あなたらしくいれば、聖女マールと勇者アレックスの血を濃く受け継ぐあなたなら、何とかなるんじゃないかと思うのよね。
愛してるわ、ミレーヌ。
この先、あなたとカイエンの行く末に幸せな光が満ちていることを願って……。
読んで下さり、ありがとうございます。
長ーい手紙になってしまった!!
さあ、これでカイエンとミレーヌはそれぞれのひい爺さんとひい婆様から、過去のことを聞いたわけです。
カイエンはミレーヌが知ったことを知りません。
無事に帰宅しました。
今回は息子に下町の銭湯体験をさせてあげることができました。
入口まで一緒に行きましたが、なかなか風情のある昔ながらのいい感じなところでした。屋根とかタイル絵、ペンキ絵とかもある所!
息子にとっての祖父と一緒に入ってきたのですが、家で入るよりは熱めだったけど、大丈夫だった! 面白かった! そうです。
さすがに湯上りのコーヒー牛乳はもう紙パックだったと。
幼い頃の私は牛乳瓶の蜂蜜色の透明なリンゴジュースが大好きでした。
銭湯、小説やマンガやアニメ作品に登場することがあるし、ザ・日本文化って感じで、一度体験して欲しかったんですよね。
銭湯大好きな私の父が昔から行きつけだった銭湯はどんどん廃業してしまい、今回この銭湯を逆に教えてもらい良かったと言われました。
うふふ、また、里帰りする時の楽しみができました。




