106 マリアの勘
どうぞよろしくお願いします。
「ウィリアム様がいなくなった?」
マリアは自分の部屋でハチと一緒に過ごしていたのだが、報告に来てくれたメイドのアンナに聞き返した。
「ええ、ウィリアム様の姿が見えなくて、探しています」
ウィリアム様、ジョルジュ王子の元に戻り、何か言われたか……、された!?
マリアはあって窓に駆け寄り外を見渡す。
いつもと同じ平和なレーニアの景色。
なのに、心がざわざわする。
「ウィリアム様……」
ウィリアムは義兄になるカイエンの実弟なのだから。
マリアにとっても兄弟のような……。
いや、マリアの中では真面目なウィリアムの存在は、それ以上に大きくなってきている。
マリアは父の執務室に向かった。
「もう三人とも城を出た!?
昨夜のことはウィリアムがジョルジュ王子と私を唆してさせたことなのです。
ウィリアムにそれを指摘し、注意したのですが、彼は姿を消しました。
どうか、昨夜の謹慎云々の話はなかったことにして頂きたい」
ラルフの声が部屋の中から聞こえた。
それは嘘だ。ウィリアムは朝までこんなことになってるとは知らなかったと言っていた!!
マリアはドアの前で身を翻して、庭へ出た。
ジョナサンとミレーヌとカイエン、コーラスとシーラもいない。
マリアは急に心細くなった。
でも、自分で動かないといけない!
心を落ち着けてウィリアムのことを思う。
マリアにもミレーヌと同じくヒーラーの力がある。
修行すれば『聖女』と呼ばれる存在になれるかもしれない。しかし、マールのこともあり『聖女』となると教会や国に仕えさせられ、個人の幸せとは縁遠くなるとわかっていた。
そのためレイオス辺境伯爵家ではあえて、ヒーラーということで留めている。
能力には個人差があり、マリアは幼い時から探し物の勘が鋭い。
目を閉じて、ウィリアムのことを思うマリアの閉じた視界に何かキラキラした光を感じる。
暗闇に浮かぶかすかな光。
マリアは目を開けて、その光の感覚を追う。
ペンダントが中庭の木の枝に揺れている。
「あれは……!」
少し躊躇したが悪い気配はない。
ウィリアムが服の上に見えるように身に付けていた家門入りのペンダントだ。
ミュラー子爵家の家紋である杖と剣と鳥……。
ペンダントを枝から外して手に取るとウィリアムの顔が頭に浮かんだ。
苦しげである。
『私は……、私が乗っ取られる……!
頼む! 兄さんに……!』
そう呟きながらペンダントを外して枝に掛けるウィリアムの手と必死そうな表情。
そのまま、よろめきながら遠ざかって行く背中……。
ウィリアムが『何か』に乗っ取られる?
その時、ミレーヌとカイエンの会話が思い出された。
ジョルジュ王子のお供でカイエンやコーラスが魔王城の遺跡を観に行き、帰って来た時のことだ。
カイエンが言っていた。
『ああ、魔王とは……、心が弱る、つまり病んだ状態になり、心身ともに弱った魔法使いに邪悪なもの……、うーん、身体のない魔物みたいなものを想像して欲しいんだけど、それが憑りつく。
そして魔王となる……』
『え……、じゃあ、ひい爺様達が戦った魔王も、憑りつかれる前は普通の魔法使いだったってこと?』
『ああ、力の強い魔法使いが憑りつかれるほど厄介だよな』
乗っ取られるということは憑りつかれるということではないか?
では、ウィリアムは……。
その後にミレーヌと手合わせをする時に聞いたジョルジュ王子の言葉。
『寂しい所だったよ。
魔王は、魔王に憑りつかれた男は何を考えていたのだろう。
自分の意識は残っていたのだろうか。それならば、とてもつらいだろうに……と』
『どうだろうな……。憑りつかれ、魔王として共に消滅する運命なのだろう。
しかし、魔王はその後も、時折、現れるのだ。いったい、何者なんだろうな』
「そんな!!
ウィリアム様はもしかして、魔王に憑りつかれてしまった!?」
マリアはペンダントを震える手で握りしめ、自分の首に掛けると服の中に隠した。
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