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第2話 日常の頂点と、歪みのはじまり

 

昼休みのチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が一気にゆるむ。

そしてその中心にいるのは、やはり田中太郎だった。


「太郎くん、今日お弁当作ってきたんだけど…よかったら一緒に食べない?」

「え、ずるい! 私も誘おうと思ってたのに!」


机の周りに集まる女子たち。笑顔、視線、距離の近さ。

それらすべてが、太郎に向けられている。


「じゃあ、みんなで食べるか」


太郎は軽く笑いながらそう言った。その一言で場の空気がさらに明るくなる。

誰もが自然と彼の言葉に従い、中心に集まる。


――これが、田中太郎の日常だった。


特別なことをしているわけではない。

ただ、勉強も運動もそつなくこなし、人当たりもいい。

それだけで、彼はいつの間にか「クラスの中心」に立っていた。


「太郎くんってさ、ほんとすごいよね」

「なんでもできるし、優しいし…」


そんな言葉を向けられても、太郎は軽く笑うだけだった。

だがその内心では、別の感情が静かに芽を出していた。


(……当たり前だろ)


誰にも聞こえない心の声。

それは、少しずつ膨らんでいく“優越感”だった。


自分が中心であること。

周りが自分を求めていること。

それが当然だと感じ始めていた。


そのときだった。


ガタン、と小さな音がした。


太郎の足元――机の下に置いてあった鞄が、なぜか倒れていた。

「あれ?」


拾い上げると、じんわりと湿っている。

中を確認すると、教科書の端が濡れていた。


「え、なにこれ…」


女子たちも心配そうに覗き込む。

「大丈夫?こぼれたの?」

「誰か踏んじゃったとか?」


だが太郎は違和感を覚えていた。

ペットボトルの蓋は閉まっている。

自然に濡れるはずがない。


ふと、視線を上げる。


教室の端。

窓際の席。


そこに、一人の男子がいた。


高城翼。


特別目立つわけではない。

だが静かに周囲を観察しているような、どこか冷静な目をしている。


その視線が、一瞬だけ太郎と交わった。


(……なんだ?)


ほんの一瞬。

だが太郎の胸に、小さな引っかかりが残る。


すぐに翼は視線を外し、何事もなかったかのように本に目を落とした。


「太郎くん?」

「あ、ああ。大丈夫だ」


太郎は笑顔を取り戻す。

だが、さっきまでの“完璧な中心”の感覚が、わずかに揺らいでいた。


――誰かが、自分を見ている。


しかも、それは憧れでも尊敬でもない。

もっと別の、測るような視線。


(気のせいか…?)


そう思い直し、太郎は再び輪の中へ戻る。

女子たちは相変わらず楽しそうに話し、笑い、彼を中心に回っている。


その光景は変わらない。

何も問題はないはずだ。


それでも――


太郎の中で、何かがわずかにズレ始めていた。


自分は完璧だ。

自分は選ばれる側だ。


そう思っていたはずなのに。


「……つまらないな」


ぽつりと、誰にも聞こえない声が漏れる。


その言葉の意味を、太郎自身もまだ理解していなかった。


だがそれは確かに――


この後訪れる「転生」と「崩壊」、

そして“ラスボス”へと変わっていく未来の、最初の歪みだった。

 

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