よし子の心労(その20)
よし子の集合住宅は浮遊型の建物だった。外骨格のフレームに各部屋のユニットが浮かぶように収まっている。上下の騒音問題を嫌う住人の要望によって近年建築が進んでいる。独立したユニットで構成されているため、入室には直通のボール型エスカレーターによって玄関に向かう事となる。
ミツオと三山は集合住宅前の地上にビーグルを降ろし、よし子の部屋を呼び出す。
「どうぞ」
午前四時。
一郎の帰りを待つよし子は、まだ起きている。
巨大で、丸い物体が二人の前に降り立った。継ぎ目のない表面がドア状に開く。乗り込む二人。三山が部屋番号を告げると、音もなくドアは閉まり、足下の接地感は無くなる。 泣きはらしたよし子の目と鼻は赤らんでいる。
「ご主人は帰ってきましたか」
ミツオの問いによし子は無言で首を振る。
「そちらの方は」
「私は捜査部ゼロ課の捜査官 三山たくみと申します」
三山は手帳型の身分証明書を開く。警察関係者を表すホログラムが浮かび上がる。
「警察の方ですか。夫は一体何をしたのですか」
よし子は立っているのがやっとだったが、気丈に問う。
「未遂です。しかしご主人は大きな悪意に巻き込まれています」
緊張の糸が切れたようにその場に泣き崩れた。
見下ろす形で三山とミツオはどうすることも出来ないでいた。
その時、玄関ホールに戻っていったボール型エレベーターが部屋の前で停止した。
三人は息を飲んでエレベータを凝視した。




