山岡と一郎(その13)
ある日、山岡は朔日会にて、目の移植を行った。手術台に横たわるのは男だった。男の説明が書かれた書類に目を通す。
「遠藤 一郎」
名前の欄にそう記されていた。いつもは空白の職業欄にめずらしく記入があった
「カガワエンジニアリング」
ドクター山岡の心拍数は上がった。目の前の男はカガワエンジンの技術者だということだ。カガワエンジンには、未だにブラックボックスが存在する。のどから手が出るほどに欲しい情報をこの男は持っている。
目を奪えないか。
瞬間的に山岡は思った。
今から移植する動駆を改造する。
自分の作るタイムスピリッツ(精神を過去に送るところから山岡はタイムスピリッツと呼んでいる)に、この男の目は使えるのではないか……
山岡は動駆にバイパス部品を組み込んだ。とりあえず目を奪うことは可能になったと山岡は手応えを感じていた。
無事、移植手術はおわり、遠藤 一郎を送り返した。
「ドクター山岡、一度うちのボスとお会いになられますか」
オペ室の外にいたユーリがドクター山岡に話しかけた。
憂いをおびた瞳は意味ありげに山岡を見ている。今行った工作がばれてはいないかとひやひやしながらも、平静を装って返答するしかなかった。
「ぜひ」




