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第4話 襲撃

 宿屋の扉を開け、キヌとともに外に出た瞬間だった。


「くたばれぇぇぇぇ!」


 屋根の上から叫び声とともに影が舞い降り、殺意のこもった一撃がオレ……いや、カデンツァに襲いかかってきた。


(あ、終わった。)


 ほとんど無意識にそう思った。


 相手の武器が鉄の棒?バールのような何かってやつ?とか、そんな思考をしている間に、もう殴られそうだった。


 まだ右も左もわからない異世界で、何の準備もなく外に出て、速攻で終了。読者なら「はやっ」って笑うような展開だ。


 カデンツァにはそんな死に方して欲しくないッ!


 ところが――。


 ガキィィン!


 音とともに、オレの目の前に、紅く輝く透明な壁のようなものが現れ、敵の武器を弾き飛ばした。


「っ!?」


 敵が一瞬たじろぎ、距離を取る。


 そのタイミングで、熱を感じた自分の左手の人指し指に視線を落とすと、そこには赤い宝石がはめこまれた金の指輪が光を放っていた。


「あ……『不死鳥の(フェニックス)寵愛フェイヴァー』……」


 思い出す。

 そういえば、そんな設定、書いてたな。

 自動防御と死からの復活を兼ね備えた、カデンツァの“最強の保険”。


 暗殺とか不意打ちで死ぬのはダサいと、自分でつけた“チート設定”だった。


(ふぅ……。つまり、それなら、“チュートリアルバトル”くらいの難易度で済むかな)

(とはいえ、こんなところで無限蘇生でゴリ押しするのは、やっぱり「カデンツァぽくない」けれど。)


 ボクは、ちょっと気持ちを落ち着けることが出来た。

 オレは、敵の姿から分析する。敵は、フードを被った筋肉質でやや背の高い体格、武器を握るその手の動きは素早く、RPGで言えば、”シーフ”のビジュアル。


「その武器……変わってるな。俺によこせよ。」


 フードの下から、低い声が響いた。


(武器か……どんな設定にしてたっけ?)


 不意打ちを食らい、また「カデンツァ」が抜ける。抜けたので、入れ直す。


「これか?見るだけで満足出来ないなら、食らってもらうしかないんだがな。」


 ボクは余裕ぶって左右の武器を両方抜いた。

 右手用の小さい鞘から剣と、左手用のホルスターから銃を、それぞれ握りしめる。

 抜いた剣は、刀身が無く、柄だけだった。


 あー、なんだっけ、どんな装備だっけ、これ。完全に忘れてしまった。

 すると、右手に持っていた何の変哲もない柄が、赤い光を放ちながら刀身を形成しはじめる。

 光の尾を引きながら、彗星のように伸びる赤い剣。

 そうだ、思い出した。


真紅の(ブラッディ)彗星コメットソード。普段は柄のみだが、オレの魔力に呼応して刀身が顕現する……。これが、使い手を選ぶ。力無き者は喰われるだけだぞ?」


 力無きものは喰われる、なんて設定は書いてないが、勢いで口走ってしまった。


 だが、シーフは少したじろいだ。

 うん、うん、いい感じの雰囲気になってきたぞ。


 次に、左腰のホルスターから抜いた銃を眺める。

 銀色に光るバレルに、龍の意匠が刻まれていた。


 こっちも思い出した。


セイントドラゴンガン。聖なる龍を宿す、生ける神罰の銃だ」


 うん、カッコいい。確かにカッコいい。過去のボク、よくやった。

 よし、距離もあるし、ここは銃でキメよう。


 撃ち抜くのは頭がいいか、あるいは心臓、それとも肩、いや、腕……?

 だが同時に、ボクの脳裏には不安も走っていた。


(当たりどころが悪くていきなり殺すのは後味悪いし、あっちの事情もわかんないし……)


 そこで、シーフの手元に目を向け、銃口をそっと向ける。


「悪いが、獲物をいただくのは、こっちだ。」


 パンッッ。


 聖龍銃から弾丸が放たれる。

 だけど、撃ってから気付いた。

 武器なんか狙い撃ちしたら、外れる可能性高いし、結局跳弾したり武器が跳ねたりしたらうっかり致命傷にならないか……?


 しかし、その不安は、「設定の方が」救ってくれた。放たれた弾丸は小さな白いドラゴンに変身し、相手から武器を奪い去り、そして手元へ帰ってきた。

 オレの両手が塞がっているのを見るや、奪った鉄の棒をキヌに渡す。


「なっ……!?」


 そうだ、銃に宿りし聖なる(セイント)ドラゴン、ヴァレンティーナ。


 闇属性で固まりがちな厨二病キャラに、光属性要素を入れて最強に見せるために入れた、良心枠。銃自身が「龍そのもの」であり、自律して、自らの判断で動いてくれる。


 ついでに、厨二病には欠かせない、「ヴ」で「V」の発音枠。

 下唇を軽く噛んで、ほら、「ヴ」。


 そんなヴァレンティーナの、ファインプレー、ナーイス!

 オレが一番カッコよく見える形で収拾をつけてくれた。


 一方、武器を奪われた敵はたじろぎ、足をもつれさせながら後退。

 そして、カツン、と足音を響かせながらフードを外した。


「――ふぅ。大したものだな。お見通しか。」


 そこにいたのは、先ほどの敵ではなく、やけに軽い雰囲気をまとった若い男性だった。

 茶髪に黒いメッシュ、笑いを堪えているような目元。完全に「味方顔」だ。


「試させてもらったぜ。オレはマシリス。“ぽんぽこクラブ”の斥候だ」


 ……え?


「いやはや、命を狙われる事態も想定していたから、防御の準備も仕込んでいたし、いざとなればキヌちゃんが守ってくれるはずだったんだが……。」

「まさか、あんたにこんなに簡単に全てバレて、しかも完封されるとは思わなかったよ」


「フン。」


 見た目はクールに返すが、内心では悲鳴を上げていた。


(うっわー!あっぶな!殺されていたかもしれなかったし、殺していたかもしれなかった!!)


 オレの、カデンツァの冒険は……想像よりも、ずっとイタくて、笑えて、そしてなぜか気持ちいい。

 まだ始まったばかりだ。


 けれども、化けの皮が剥がれるかどうかは紙一重だ。

 帰ってきて、銃に収まったヴァレンティーナに、こっそり囁く。


「この後の会話で、正体がバレるのは避けたい。とりあえず、キヌさんに伝えてくれ」

「ボクが『好きにしろ』と言ったら、『YES』の意味、『勝手なことを』と言ったら、『THANK YOU』の意味だと。」


『わかったわ、マスター。』


 ヴァレンティーナがテレパシーで答えてくれる。

 今度は、弾丸だけでなく、銃ごと、小さな白いドラゴンに変身すると、キヌの方に飛んでいった。


 マシリスが続ける。


「さて、アジトを出てきてもらったところ悪いが、もう一度戻ってもらえるか。あんたに、今回やってもらいたいミッションの説明がある。」

「それと、さっきからあんたのドラゴン、なんかふわふわ往復して飛んでるが、あれはなんだ?」


「説明の必要が?」


 オレは、あえて不機嫌っぽく答えた。


「ああいや、気を悪くしないでくれ。職業柄、つい聞いちまうんだ。」


「すまなかったな、美味しい茶菓子を出すからよ、気を取り直して会議させてくれよ。」



 そうして、オレは、マシリスからミッションの説明を聞くことになるのだった。


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