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第2話 混沌の堕天使――カデンツァ・ナイトハウル

 そのとき、ボク、超山井(ちょうやまい)忠二(ちゅうじ)は、いつものようにアパートの自室にこもり、机に向かっていた。

 先日、漫画喫茶で読んだばかりのバトルファンタジー漫画に触発されて、新しい設定を邪気眼の書に書き加えたくなったのだ。


「錬金術って、やっぱり今、熱いよな……。」


 最近では、転生錬金術師モノがちょっとしたブームになっていて、スローライフ系から戦闘特化まで、さまざまな作品が出ている。だが、ボクはただの模倣では満足できない。アレンジしなければ意味がない。


「単に素材を組み合わせるだけじゃ弱い……もっと、こう……ダークヒーローっぽく振り切った感じ……。」


 しばし沈思黙考し、やがて筆を取った。


暗黒の(ダークネス)錬金術師(パラケルスス)】:

 黒衣をまとったフード付きの召喚獣が、素材からアイテムを錬成する。ただし、錬金されたアイテムは全て漆黒に染まる。


 このスキルの魅力は、通常のアイテム製作とは異なり、錬金によって生まれるものが全て“禍々しく染まる”という点にある。

 赤いポーションですら、黒く濁った液体になり、魔剣でさえ、刃こぼれしていそうなダークメタル調になる。


「うんうん、結構いいんじゃないかな?これでこそ、ダークヒーローってもんだよ……。自分の色に染め上げてしまう、うん、うん。」


 自画自賛しながら、ページを最初の方に戻す。

 そこには、この書の主役の設定が書かれている。


【邪気眼の書 参】の主役であり、このスキルの使い手でもある、オリジナルキャラクター。


 ――『混沌の(ケイオス)堕天使(フォールン) カデンツァ・ナイトハウル』。


 名前に込めた意味は、混沌に満ちた世界を、自らの色とし降臨する、圧倒的な存在感。

 そして名前に関した「カデンツァ」という音楽用語は、曲の終わりに入る自由な即興演奏部分から引っ張ってきて、何者にも縛られない自由な感じをイメージ。

「ナイトハウル」は闇に響く遠吠え、その孤独さを表現する。


 二十歳が全力で考えた、厨二病の集大成。完璧とは言わないまでも、厨二病グランプリがあったとしたら、少なく見積もっても上位30%には入る、極めて高い質なんじゃないかと思う。


 カデンツァの設定を読み返す。

「性格は……クール、表には出さないが、実は仲間想い。孤独を好むが、完全な一匹狼ではない……。過去は、公にしない、ミステリアス……。」


 脳内に湧くイメージとともに、ボクはだんだんとテンションが上がっていった。

 絵は書けないから、ビジュアルの設定はまだちゃんと書いていなかったけど、今はAIで絵を書いてもらえるし、そろそろ外見のイメージも固めてみてもいいかもしれない。


 素案はどんな感じになるだろう。

 ちょっと長めなミディアムな金髪、黒、赤、紺を交えた厨二病カラーの衣装、もちろんマントつき。

 眼帯も厨二病にはつきものだが、あえて視野を狭くする感じは、万能な感じを求めるボクの美学とは相容れない。

 そのかわり、赤と紺のオッドアイで、厨二病成分を積み増す――。


 妄想が最高潮に捗ってくる。


 だが、そのときだった。


 ――ガタリ。


 机の上の信楽焼のタヌキが、小さく音を立てて動いた。


「……え?」


 目の錯覚かと思って瞬きをする。だが、次の瞬間――


『やっと……やっと完成したんですね!』


「!?」


 タヌキが喋った。


「お、おい……ど、どういうこと……?」


『忠二さん、あなたの“創造”こそ、我々が求めているものです!』


 信楽焼の、明らかに陶器製のタヌキが、ぺこりとお辞儀をする。


『わたしたちの世界を助けるために、オリジナルキャラクターに変身して戦ってくれる人が必要なんです』


「ちょ、ちょっと待ってくれ……意味がわからな……」


『ご安心を。超山井忠二さんは選ばれし者です。ある程度大人で、社会性を持ち、妄想力に長けていて、オリジナルキャラクターの設定を一冊にまとめている……理想的な適格者なんです』


 なんですか、その選考基準。

 妄想力で世界を救えるって、そんな馬鹿な話があるんですか。今からでも入れる保険はありますか。


 だが、目の前のタヌキの声のトーンは真剣そのものに聞こえた。


『忠二さん。どうか、わたしたちのために、あなたのキャラクターになって戦っていただけませんか?』


 とんでもない話だった。

 でも……どこかで、ボクはこの展開を、少しだけ“待っていた”のかもしれない。


「……わかった。でも、普段の生活はどうすればいい?授業もあるし、バイトもあるし……」


『問題ありません。異世界へ移動する前に、“設定”を書き加えてください。

 あなたの現実世界で【邪気眼の書】に書いたことは、異世界で現実のスキルとして発動できます。

 ですから、現実世界に問題が起きないような仕組みを……あなたの妄想力で。』


 ボクは息を整え、シャーペンを握る。


「なるほど……なら、これだ」


導かれよ(ロウオブ)螺旋する魂(スパイラルソウル)】:

 自らの魂を分割し、現実世界と異世界でそれぞれ意識を保つことができる。

 異世界から帰還した際には、両方の記憶と経験が統合される。


 書き終えたその瞬間――


 タヌキが急に大きな声を出す。


『書から手を離さないでくださいね!それは、あなたの大切な武器ですから!』


 ノートが震え出し、強い光が放たれる。


「な、なにこれ……!?うわっ、まぶっ……!!」


 光に包まれた視界の中で、ボクは確かに聞いた。


『あなたの“創造”が、世界を変えるのです――』


 次の瞬間、ボクは――“カデンツァ・ナイトハウル”として、異世界に立っていた。


各話、気軽にぜひ、


感想、あるいは反応(スタンプ的なの)ください。


前に書いた作品が無反応過ぎて寂しかったんです。




✟✟✟


作者の他の作品も、ぜひぜひ読んでみてくださいね(宣伝)

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