第1話 邪気眼の書
帝都近くの砦、ゲオテア盗賊団のアジトに、叫び声が響き渡った。
「お頭、大変です!侵入者により、三幹部が全員捕らえられた模様!」
「なに!?何者だ!?我々を脅かすような帝都の実力者は全て裏から懐柔されていたのではなかったのか!?」
「そ、それが、リストに居ない人物で……!単独で、砦を突破するつもりのようです!」
「バ、バカな……百人規模を相手に一人で……?」
ザンッ――。
その部屋のドアが、赤い刃によって切断される。
ドアを蹴破り、一人の男が侵入する。
「あ、アイツです、お頭!」
「キサマ、何者だ!名を名乗れ!」
「お見知りおき願おう。オレこそが、混沌の堕天使――。」
✟✟✟
話は、少し前に遡る。
関西の私立大学、仲間社大学。
そのキャンパスの一角、文学部棟の建屋の裏にある喫煙所に、一本の自動販売機がある。そこではコーラが80円で買えるということで、地味に大学生たちの人気スポットになっていた。
今日もその自販機前のベンチで、ひとりの男子学生がコーラを飲んでいる。
それがボク、超山井 忠二、二十歳。仲間社大学経済学部、二回生。
身長は平均より少し低め、髪は伸ばしっぱなしで前髪がややうっとうしい。
ファッションセンスは必要十分くらいってところで、不審者には見えないが、典型的な「地味オタ」に分類されるタイプの大学生だ。
そんなボクの趣味は、ゲーム、アニメ、漫画。
平凡で無害な日常を送りながら、毎日のように漫画サイトやアニメをチェックし、面白そうなゲームがあれば買って遊ぶ。
薄めにサブカルを巡回する、見た目と違わぬ地味オタ生活をしている。
そして、表向きには誰にも言っていない、ある“秘められた趣味”がもうひとつある。
――厨二病。
それは、誰しもが一度は通る黒歴史。
え?通ってない?そうか、まぁ、そういう人もいるだろうね。
大丈夫、恥じることはないよ。
それで、罹ったら、まぁそのうちに治るもの、なんだけど。
だがボク、忠二は違った。今も、こっそり、その病と共存して生きている。
さて、糖分とカフェインをチャージしたところで、学生アパートに帰ることにしよう。
✟✟✟
「決め台詞をもうちょっと増やしたいなぁ。『フッ……世界は未だ、真の力に目覚めぬ者どもによって閉ざされている……』うーん、今のキャラクター設定とは、ちょっとズレるかな?どうだろう……。」
家に帰り、机に向かって、自室で呟くボクの眼差しは、真剣そのものだ。
机の上においた、信楽焼のタヌキに見られながら、ボクは、アイデアを練り上げていた。
ボクは、自分だけのオリジナルキャラクターを創造し、彼らの設定を“邪気眼の書”と呼ばれるノートに記録している。
それも一冊や二冊ではない。
一冊目は小学生の頃に作った『じゃ気がんの書』。
魔界皇子レイ・スーパーノヴァが、人間界に転生して戦うという、勇気と友情の物語、その設定である。
ちなみに敵は全員クラスメイトをモデルにしていた。
小学生の頃に書いたものだから、キャラクターの力がすごくインフレしているけど、それも良い思い出だ。
二冊目は中学生時代の『邪気眼の書Ⅱ〜The requiem of moonless night〜』。
この頃にはもう英語を多用し始めており、主人公の名前はヴォイド=フェンリル・オブ・カース。
厨二ワードの大渋滞だったが、これはこれで、中学二年生がやる中二病だし、“これが本物だ”と言ってもいいんじゃないだろうか。
そして今、大学生になったボクは三冊目のノート、『邪気眼の書 参』を執筆中である。
このノートはちょっとこだわって探したデザイン。
パッと見だけなら、本物の黒魔術の書に見えるかもしれない。
ページ数はまだ半分も埋まっていないが、その一文字一文字には、過去最高の熱量が込められていた。
諸君は、邪気眼と言えば、左手に包帯を巻いて隠した能力で、痛みという代償とともに発揮するとお思いだろうか。
でも、ボクの考えはちょっと違う。
真にカッコいい存在は、代償無く能力を使うべきなのだ。
でも、「邪気眼」って名前はイイ感じだから、書物の名前に採用させてもらっている。
厨二病の先輩たちへのリスペクトだ。
そんなボクが目指すのは、“純粋にカッコイイ”キャラだ。
力を持つ理由? それは天命だから。
敵を倒す理由? 正義だから。
ごちゃごちゃ言い訳せずに、ただ真っ直ぐに強い。そしてカッコイイ。
そして、絶対に勝つ。どんな相手にも負けない。
そんなキャラクターが、理想だ。
そんな感じで、日々、自分の想像を「邪気眼の書 参」に書き連ねている。
キャラクターの名前、武器、能力、必殺技。
その材料にするのは、読んだ本や漫画、アニメ、遊んだゲーム。誰に見せるものでも、まして出版するものでもないから、恥ずかしげもなく、パクりと気にすることもなく、自由に創作が出来た。
新しい設定に出会える、邪気眼の書がもっと輝く糧となると思うと、どんな駄作でも、クソゲーでも、宝探しのように楽しめるのだ。
面白そうだと思ったなら、あなたもやるといい。
だが、これは誰にも見せるつもりはない。
あくまで“自分だけのための世界”。
日の目を見ることはない、ダークヒーロー。
だけど、ボクの中では誰よりも輝いている。
はずだったんだけど。
そんな「邪気眼の書」に、最近読んだマンガを元にした、新しい設定を書き込んでいた、その刹那。
運命は、静かに動き出そうとしていたんだ。
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あと、前に書いた作品もぜひぜひ
読んでみてくださいね(宣伝)
なろうモノ嫌いの異世界記
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