EP.08 家族会議─後編─
思春期の葛藤やすれ違いの中で、家族の絆を見つめ直すセルディスたち。セルディスとダルクのやり取りを通して、リリアーナの覚醒に向けて新たな一歩が踏み出される。
部屋の中、カーテンの隙間から洩れる月明かりだけが、少年の影を静かに浮かび上がらせていた。
ベッドに腰を下ろしたセルディスは、握った拳を何度も膝に打ち付けながら、ぽつりと呟く。
「……俺だけ、仲間はずれみたいじゃん……」
言葉が消えそうなほどに小さく、でも確かに、胸の奥から絞り出された声だった。
しばしの沈黙。息遣いが、月明かりに揺れる。
「姉さんのこと……俺も、ちゃんと応援したかったのに……」
唇を噛みしめ、視線を伏せる少年の瞳には、悔しさと情けなさ、そして、姉への想いがにじんでいた。
そんな時、部屋の扉をノックする音が聞こえ、ドア越しで怒鳴りつける。
「誰だ!!」
その声に応えるように、扉越しに聞こえたのは、ダルク義兄さんだった。
扉を少しだけ開け、泣き腫らしたであろう目を伏せながら、会話をする。
「よっ、セルディス。姉ちゃんのことで泣いてんのか?」
彼の不貞腐れた態度に、軽い調子で話しかける。
「うるさい!!アンタに何がわかんのさ!!」
扉を開け、怒りの矛先をダルクにぶつける。
ダルクは驚きこそせず、ただその場に静かに立っていた。
一瞬、廊下が静まり返る。
「……わかんねぇよ。俺だって、誰かの本音なんて、全部は見えねぇし。」
少しため息混じりなダルクは、セルディスを宥めるかのように語り始める。
「俺だって相談されたかったのに、リリアは全部自分で決めちまったしな。」
セルディスはその言葉に息を呑み、先程の怒りが少しずつ緩んでいく…
「とりあえず、入れば?」
まだ少し不貞腐れた表情を見せるも、部屋の中へ招く。
ダルクはゆっくりと部屋に入り、床に腰を下ろした。
「セルディス……俺にできることはあんまねぇけどさ、お前の気持ちは伝えてやりたいと思ってる。」
セルディスは黙ってダルクを見つめる。
「姉ちゃん、頑張り屋だけどさ、本当は辛いんだ。お前と同じようにな……」
少し言葉を詰まらせて、ダルクは拳を握った。
「だから、諦めんな。応援する気持ちは、形にしたほうがいい。」
セルディスはその言葉をじっと受け止めるように頷く。
「わかったよ……」
そう言って、ポケットから小さな箱を取り出した。
「これ……姉さんに渡してくれ」
ダルクが箱を開けると、中には透き通るような青い魔法石がはめ込まれたブレスレットが収まっていた。
「これ……龍の涙か?」
「うん。俺が大事にしてたものだ。姉ちゃんにこれで少しでも力になってほしいんだ。」
ダルクは静かに頷き、箱を大事そうに抱きしめた。
「わかったー。お前の想いを、姉ちゃんにちゃんと伝えてやる!」
「は!?待てよ!余計な事言うきか!?…変な事言ったらぶっ飛ばすからな!!」
二人の声が部屋からワイワイ聞こえ、リリアーナは思わず微笑んだ。