EP.04婚約破棄されたので、冒険者になろうと思います
偽りの悪役令嬢として糾弾される夜会。
けれどこれは、すべて私の計画通り──。
冤罪、罵倒、追放宣言。その全てを受け入れたふりをして、私は“自由”を選ぶ。
守ってくれる人がいて、覚悟があれば、恐れるものはない。
さあ、茶番はここまで。
“悪女”は舞台を降り、冒険者リリアとして新たな物語を始める。
「婚約破棄――これをもって、我々の婚約は終わりだ!」
いきなりの宣言に、会場内はざわめきが広がった。私も驚いたふりをしてみせる。
すると、その瞬間を狙ったかのように、影のような者たちがスッと動き出す。
彼らの動きを確認しながら、私は淡々と、しかし呆れた表情でありもしない冤罪の内容を聞き流した。
——それは、悪役令嬢がよくやるような、陳腐でくだらないいじめの類。
教室に行くと机が汚され、教科書は破られ、他の令嬢を使って囲い込み、私に別れを迫る――そんなことらしい。
「これが、お前の悪逆非道な所業か!まだ一部に過ぎんぞ!俺とシャルロッテ様の仲を妬み、ここまで卑劣なことをするとはな。もしお前がシャルのようにお淑やかで愛らしければ、婚約は破棄されなかっただろうにな!」
自己陶酔気味な王太子の言葉に、心の中で冷ややかに呆れつつ、私は反撃の狼煙を上げる。
「ふん。私が“可愛くない”?おかしなことをおっしゃるわね。」
ツンと鼻をつまみ、悪役令嬢そのものの表情で答えた。
「そもそも、私が殿下を愛してなどおりませんの。だから、そのいじめ騒動も知らなければ、シャルロッテ嬢に嫉妬など微塵もないのですわ。」
私の冷静な言葉に会場はざわつき、隣のダルクは肩を震わせて笑っている。
「はっ!?なっ!?!」
殿下は顔を真っ赤にし、言葉が詰まって何も言い返せない。
そこへ割り込むように、シャルロッテが怒鳴り声をあげる。
「はああ!?殿下を愛してないだと!?ふざけんな!」
ドレスの裾をぎゅっと握りしめ、鼻息荒く私を睨みつけてきた。
「うるさ…。」
耳を塞ぐ仕草をしながら、ダルクが私にだけ聞こえる声で呟き、思わず私は笑みをこぼした。
シャルロッテは私とダルクの距離を引き離そうと、ドタドタと近づいてきてはわざと転ぶが、ダルクは軽くかわす。
「ダルク様ひどい…私を避けるなんて…泣」
見事な嘘泣きにこちらも呆れ、ダルクは冷たい視線を向ける。
「ダルクさーん!怖いですよー!?」
さて、この茶番もそろそろ終わりだろう。
「ねぇ、殿下。この話、そろそろお開きにしません?」
私は静かに、だが強い意志で切り出した。
何せここまでの時間稼ぎは終わり。ついに陛下から婚約解消の許可が下りたのだ。
「そうだな。お前がシャルに謝罪し、反省を示すなら、側妃くらいにはしてやってもいいぞ!」
得意げな表情の殿下に、私は冷たく告げた。
「その申し出は、お断りします。今しがた陛下より、私と殿下の婚約解消が正式に認められましたので!」
その声に会場は驚きに包まれた。
殿下とシャルロッテは一瞬、時間が止まったように動きを止めたが、殿下が怒りを爆発させる。
「何だと!?婚約解消だと!?そんなことが認められるわけがない!」
信じられない、と目を見開き私を睨みつける殿下。
——こんなに目が合うのは久しぶりね。
「何もかも、事前に陛下に謁見し、もし殿下が一方的に婚約を破棄したら、即座に解消を認めていただくよう根回し済みですの。」
安堵の息をつきつつ、私は静かに言い放つ。
「な、何故だ…!俺に相談もなしに勝手に決めるとは!身勝手にも程がある!」
怒りに震える殿下に、私は鋭く言い返した。
「その言葉は殿下に返しますわ。話し合いを拒み、私を無視し続けたのは殿下でしょう?どこに相談する余地がありました?」
追い詰められ、ついに殿下の口から望みの言葉が飛び出す。
「ふざけるな!お前なんぞ、もう知らん!この国には不要だ!追放してやる!」
肩を震わせ、顔を真っ赤にして私を指差した。
ありがとう、その言葉を待っていたの!
私はニヤリと笑いながら、咳払いをし、頭を下げる。
「かしこまりました。国外追放の件、正式に受け入れます。」あわてる殿下を見て、私は確信した。
「な、なに!?ほんとに出てくのか!? 国外追放なんだぞ!?」
「構いませんわ。陛下から正式に国々を巡る旅の許可を得ておりますから。ですので、殿下の国外追放も無効です。」
これで、ようやく「冒険者リリア」として自由に行動できる。
最後に、会場へ丁寧に挨拶をする。
「皆様、本日はお騒がせしました。この後の夜会もどうぞ楽しんでくださいね。ダルク、行きましょう?」
私はダルクの腕に自分の腕を絡め、微笑みかけた。
「ああ、そうだな。用は済んだし、君を家まで送ろう。」
彼は無邪気な笑顔を見せ、二人で会場にお辞儀をしながら後にした。
——これで、やっと終わったのだ——