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EP.25 若き冒険者たちの約束

「いつか思い出すだろう。あの日、あの夜のことを──。」


仲間と出会い、初めての敵とぶつかり、そして命の重みを知る。

誰にでもある“はじまり”の一歩。

そして、その一歩が“信念”へと変わる瞬間がある。


今回のEP.25では、ジルとバースの“原点”を描いています。

これが後に続く数々の冒険の“起点”であり、彼らが変わり、別れ、再会する未来へとつながっていく──そのための“誓い”の物語です。


派手なバトルはなくても、心に残る出会いと“約束”を感じていただければ幸いです。



どうぞ、次なる旅へ。

そして──彼らの物語は、ここから始まる。


EP.25若き冒険者たちの約束


初めての冒険は、そう上手くはいかなかった。


ジルドレットは、勢い任せに敵をかき集め、オルバースは、その尻拭いのように一体ずつ的確に仕留めていく。


息の合わない初陣──始まりこそ、ぶつかり合うこともしばしばだった。


「おい、ジル!いい加減にしろ!」


オルが制止の声を張り上げるも、ジルはまるで聞いちゃいない。

軽やかな足取りで茂みに突っ込み、音を立てる草をかき分けながら敵の気配を煽るように走る。


「大丈夫だって!!相手はそこら中にいるスライムだぞ!?」


盾に魔力を込め、ヘイトをかましながら、余裕そうな顔でオルに話す。


「戯け!スライムでも集めすぎれば……言わんこっちゃない……。」


ぐにゅり、とスライムの輪郭が波打ち──一瞬でその質量が倍増する。


オルの言葉が止まった瞬間、スライムは気づけばビックスライムに変化していた。


「ありゃ?これ、思ったよりでけぇな……?」


ジルの口元が、みるみるうちに引きつっていく。

ジルの身長を軽く超えるその姿に、二人は目を見張った。


「……どうするんだ?ジル。」


呆れながらオルは作戦を頭の中で練ろうとしていた。


すると、重厚な音を立てて、目の前を巨大なハンマーが横切る。


「ドガァン!」


その一撃は見事にビックスライムに直撃し、巨大なスライムはあっけなく討伐された。


ジルとオルは、ぽかんと顔を見合わせた。


「……いったい誰だ?」


ザクザクと草を踏み抜く音が、だんだんと近づいてくる。


そして、低く唸るような声が響いた。


「ったく、どこの馬鹿だ!? こんな無茶、誰が許したってんだ!」


現れたのは、大きなハンマーを軽々と肩に担いだ屈強な男だった。


その鋭い視線が、ジルとオルに向けられる。


「──お前らか!? 無計画に突っ込んで、ビックスライムまで育てやがって!」


ジルは、にへらっと笑って頭をかく。


「へへっ……助けてくれてありがとな、オッサン!」


「オッサン言うな。……まったく、最近の若いもんは……」


そう言いながらも、男は手慣れた様子でハンマーを地面に突き立てる。


その胸元──黒革の装束の上に輝く、“黒く光る星のエンブレム”が、月明かりに淡く浮かび上がった。


オルバースは、わずかに目を細める。


(……あれは……星印の刻印……? まさか──ギルドを統べる者の証──)


「……君ら、命張ってるって自覚あるか? こんな森で、遊び半分の真似して……」


男の声は低く、まるで地を這うようだった。


その語り口に、ジルでさえ言い返す言葉を失う。


「まったく……新人育てるギルドの身にもなってくれや。」


ガシガシと頭を掻きながら、男は小さくため息を漏らす。

怒鳴りつけるでもなく、しかし妙に説得力のある声色で──まるで、何人もの冒険者を送り出してきたような、そんな“重み”があった。


「んで、どっちだ?こんな無謀な戦いを始めたのは。」


ジルドレットは照れ隠しに笑いながら、肩をすくめた。


「オレだよ、オッサン。つい調子に乗っちまってな!」


オルバースは渋い顔で視線をそらしつつも、静かに続ける。


「私は──無謀な真似は止めろと何度も言ったが、聞きゃしなかった。」


男は二人を見つめ、ゆっくりと頭を振った。

呆れつつも、彼らの埃まみれな服を見て尋ねる。


「お前らなぁ……まぁ、良い!怪我は無かったか?」


「はい、大丈夫です!!」


2人が勢いよく無事を告げると、苦笑しながら2人の頭をガシガシと豪快に撫でる。


「そうか、なら良い!」


豪快に笑い飛ばした彼の表情はすぐに引き締まり、真剣な声で続ける。


「ただし─元気なのはいいが、ここは命のやり取りの場だ無茶すると一気にやばくなるからな。気をつけろよ?……これは、約束だ。忘れるなよ、若き冒険者たち。」


ボサボサになった髪を手でざっと払いながら、二人は顔を伏せて素直に謝った。


「すみませんでした……。」


しばしの沈黙。重たい空気が少しだけ緩む。


そこで、オルバースがふと顔を上げる。


「……ところで、あなたは……?」


その問いかけに、男は「ああ、そうだったな」と軽く額を叩く。


「悪い、名乗ってなかったか。オレはレグナス・ハイゼンベルク。」


一拍置いて、にやりと笑う。


「シルベーヌの《アクアクラウン》ギルド長やってんだ!」


その言葉に、ジルとオルは目を丸くした。


「ギルド長──!? マジかよ、オッサン……いや、レグナスさん……!」


ジルとは反対に、何となく察していたオルはボソリと呟く。


「やはりか……。」


レグナスは、そんな二人を交互に見て──にっと笑った。


「ま、驚くのも無理はねぇか。けどな──偉そうに見えても、俺も昔はお前らと同じだったさ。」


そう言って、いきなり二人の肩をぐっと掴む。


「とりあえず!説教はここまでだ!」


空気がぱっと軽くなる。


「お前らの“初の討伐”だろ?……祝いくらい、させろよ!」


レグナスの足がぐいっと前に出ると、ジルとオルも慌てて引きずられるようにして歩き出す。


「うぉっ、ちょっ……速ぇって、オッサン!」


「……まったく、強引な人だ。」


それでも、二人の顔には──不思議と笑みが浮かんでいた。

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