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EP.24星輝くあの日の約束

かつて、星を見上げながら交わした、あの日の言葉──

若き日の旅立ちは、希望と不安、そして胸に灯る小さな決意を連れていた。


時を経て、今なお語られるあの瞬間は、

ただの思い出ではない。

それは、冒険の原点であり、人生を変えた始まりだった。


これは、老練の剣士たちが語る、“若き日の約束”の物語。


夜も深まり、勝負がついたことで、そろそろお開きの時間が近づいていた。

そんな中、オルバースはリリアーナとダルクに声をかける。


「さぁ、お二人とも─そろそろアクアリス亭へ向かいましょう。」


彼らが席を立とうとした、その時だった。


ジルドレットが無邪気な笑みを浮かべ、オルバースの肩を軽く叩きながら言う。


「なぁ、バース。まだ飲み足りねぇから──もう少し付き合えよ?」


オルバースは小さく息を吐き、肩をすくめた。

どこか呆れたように、それでいてどこか懐かしげに──静かに足を止める。


「リリアーナ様、ダルク殿。申し訳ありませんが、先に宿屋へお戻りくださいませ。私は少々、こやつとお付き合いいたします。」


リリアーナとダルクの2人は、少し驚きつつもオルバースに応える。

リリアーナは軽く頷き、微笑みを浮かべた。


「─わかった。先に宿屋に戻ってるわ。オルじぃも歳なんだから、あまり飲みすぎちゃダメよ?」


そうオルバースに告げ、ダルクに声をかける。


「さ、酔っ払いはほっといて、行きましょ?ダルク!」


リリアーナはダルクの腕を掴み、アクアルミナスの出入り口へと歩き出す。


背後から、オルバースの落ち着いた声が静かに届いた。


「ダルク殿、リリア様を頼みましたよ?」


その言葉に、ダルクは振り返りながら力強く応えた。


「もちろんです!!」


その返答に、オルバースはふっと微笑み、安心したように二人の背中を見送った。


ジルドレットは豪快に笑いながら、ジョッキをテーブルにガンと置いた。


「おっ、いいねぇ!ダルクってやつ、昔のお前を見てるみてぇだな!」


ジルはジョッキを揺らしながら、にやにやと笑みを浮かべる。


「はっはっはっ……いやぁ、思い出すわ。

"メイリーをすきかもー"なんて言ってたなぁ!」



オルバースは肩をすくめ、目を細めて小さく息を吐く。


「戯け……お前のせいで、どれほど気まずかったか…。」


(──あの時のメイリーの、ぽかんとした顔……今でも夢に出る……)


「……本当にメイリーには悪い事をした。」


ジルはそんなバースを見てニヤリと笑った。


「まぁ、あの頃は若気の至りってやつだ!」


オルバースがジト目で睨むと、ジルはさらに調子に乗る。


「しかも、あの真面目ヅラのまま、真剣に!『ジルと愛し合ってる』とか!」


「……あれはお前のせいだ。全責任は貴様にある。」


「おいおい、そんなんだから義兄弟になるんだよ!」


「黙れ、暴挙の盾。」


「ひゃははっ!それそれ、その顔だよバース!」


2人の笑い声は、夜の酒場に心地よく響き渡る。

ジョッキの中で揺れる琥珀が、どこか懐かしげにきらめいた──そして、たっぷりと笑ったジルの表情がふと、真剣な色を帯びる。


「あー笑った─なぁ、バース……俺たちもあの頃は若かったなぁ」


その言葉に、オルバースも懐かしさを覚えながら応える。


「そうだな─お前の女癖の悪さにも苦労させられたものだ。」


───時は数十年前───


ここはどこの国にも属さない小さな村─名前はルーナ村。


風が心地よく吹き渡り、辺りは草原に囲まれている。

人々は穏やかで、とても気さくだった。


そこに、今まさに巣立とうとしている2人の若い青年が並んでいた。


ジルドレットの母親は、優しく彼の手を取り、名を呼んだ。


「ルド……気をつけて、風邪をひかないようにね。」


その声に、ジルドレット──ルドは無邪気な笑みを浮かべ、そっとその手を握り返す。


「わぁーってるって!!そんな心配すんなよ、お袋!じゃ、行ってくる!」


振り返らずに手をひらひら振るその背中を、母親は名残惜しそうに見送る。

隣にいたオルもまた、自分の家族へ心の中で静かに別れを告げていた──。


「オル……身体に気をつけるのよ?無茶はしないように……。」


そう囁くように言いながら、オルバースの母はそっと彼を抱きしめる。

まるでその腕に、旅立ちの時間を少しでも引き留めようとするかのように──。


そんな母の気配に微笑みながら、オルバースは優しく囁いた。


「母さん。無茶するのは、いつだってあいつだけだ。だから、安心して。」


「じゃあ、行ってきます。」


彼は短くそう告げて、家族に軽く頭を下げた。

母の手が一瞬、何かを言いたげに伸びかけたが、すぐに引っ込められる。

もう子どもじゃない、それは互いにわかっている。


隣ではルドが、草原の先を見据えながら肩を軽く回している。


「へへっ、オル、オレたち、絶対いい冒険者になろうぜ?」


「当然だ。……お前についていけば、退屈はしなさそうだな。」


風が吹き抜ける草原を、二人は歩き出した。

振り返ることはしない。背中で、すべてを伝えていたからだ。

旅の始まりを告げる朝日が、まっすぐな道を照らしていた。

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