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EP.02 予想通り

婚約破棄の噂が王都を駆け巡る中、私は舞踏会へと向かう。

傍らには、幼馴染であり護衛でもあるダルク。

──今夜、全てが“予想通り”で終わるのか、それとも……。

──舞踏会の夜。

私はダルクにエスコートされながら、公爵家の家紋が刻まれた専用馬車へと向かっていた。


玄関前で私たちを待っていたのは、専属執事──オルバース・シュバルト。

穏やかな笑みと共に、馬車の扉を開けてくれる。


「さあ、姫君。こちらへどうぞ」


……まだ騎士の役を引きずってるのね、ダルク。


「ありがとう……」


少し俯きながら、か細く呟く。

その声は、彼に届いていたか分からない。


私たちが馬車に乗ると、オルバースは静かに扉を閉めた。


「オルじぃ、みんな。行ってきます」


窓から顔を出し、侍従たちに手を振る。

エメラルドグリーンの瞳を細めたオルバースは、いつものように微笑みながら頭を下げた。


「お嬢様。どうかお気をつけて。──お帰りをお待ちしております」


(……もしかして、全部見透かされてる?)


そんな気がして、少し胸がざわついた。



馬車はゆっくりと王城へ向けて走る。

静かな揺れの中、ダルクは私を退屈させないように、気を遣って話しかけてくれていた。


「まったく……あのアホ王子、何を考えてやがるんだか」


大きなため息と共に、窓にもたれ眉間に皺を寄せるダルク。

私は薄く笑いながら、星が滲む窓の外へ視線を向けた。


「──まあ、最初から私のことなんて、愛してなかったんでしょうね」


自分でも驚くほど冷静な声だった。

でも、少しだけ切なさもあって──その感情をごまかすように、夜空を見上げる。


「……わあ、綺麗」


ふと、こぼれた声。


夜の空に散らばる星々は、まるで宝石のように瞬いていた。


すると、隣でふふっと笑う声がした。


「なによ」


ちょっと頬を膨らませながら睨むと、彼は悪戯っぽく言った。


「いや、お前が……やっぱ可愛いなって思って」


──え? 今、なんて?


心臓が軽く跳ねる。聞き間違いかと彼を見ると、照れくさそうに目を逸らしていた。


「……ホントのことだろ」


ぶっきらぼうに言いながらも、どこか拗ねたような表情。

そんな彼が少し可愛くて、私は思わず笑ってしまった。


そして──気づけば、もう会場に着いていた。



馬車の扉が開き、ダルクが先に降りて、私に手を差し出す。


「さあ、麗しき姫君。会場に到着しました」


「ありがとう、ダルク」


その手を取って外へ出る。

いつもより真剣な顔つきの彼に、少し胸が高鳴る。


(……いつもと違う)


不意に意識してしまって、心がざわつく。


ここでエスコートは交代──


(あの花畑王子と、ね)


思わず苦い顔になりながら、会場の大扉の前に到着する。


「ここまでありがとう。ここからは──」


そう言って手を離そうとした瞬間。


「えっ……?」


彼が、手を握ったまま離さなかった。

しかも、少しだけ強く。


「ちょっ……なんで?」


戸惑う私を無視して、彼は一歩、前へ。


そして──そのまま、扉が開かれた。



王城の大広間。


高い天井には豪奢なシャンデリア。

床には真紅の絨毯。

所狭しと並ぶ名産料理、選び抜かれた葡萄酒やシャンパン……どれも一流。

目が眩むほどの光景だというのに──


私は目の前の男の手のぬくもりが気になって仕方がない。


入場の瞬間、会場のざわめきがピタリと止まった。


(……え? リリアーナ様が……?)


(ダルク様と一緒に?)


(……あの噂、やっぱり……)


──ひそひそ声が耳に入る。


でも、もう動じない。

この日のために、私はすべてを覚悟してきたのだから。


ただ、一つだけ──


(……彼が隣にいるのは、予想外だったけど)


赤い絨毯の上を進み、会場の中央──


そこには、私の“元”婚約者と、いつもの彼女が。


「──待っていたぞ!! リリアーナ・フローレン!!」


ああ、ついに来たわね。

茶番の始まりだ。


──婚約破棄宣言、その幕が上がる。


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