EP.14 覚悟と開花
運命が激しく動き出す時、心に秘めた覚悟が真の力を呼び覚ます。
リリアーナは、父から託された剣と想いを胸に、自分自身の意志で戦いに挑む決意を固めた。
一方、ダルクもまた、母の形見の指輪に秘められた力に目覚め、新たな強さを手に入れようとしている。
老練な騎士オルバースは、その二人の成長と変化を静かに見守りながら、戦局の行方を見据えていた──。
鞘から剣を抜いた瞬間──
淡い光が刃を包み込み、空気がわずかに震えた。
リリアーナの魔力が、剣と共鳴している。
まるでずっと昔から共にあったかのように、不思議な馴染みを感じるその重み。
それは“父から託された想い”と、今の彼女の覚悟が重なった証。
胸の奥でくすぶっていた炎が、一気に燃え上がる。
──これはもう、逃げるための剣じゃない。
私が、自分の意志で握る剣だ。
「さぁ、来なさい!私は──もう迷わない!」
リリアーナの瞳には、星が散りばめられたかのような煌めきが宿る。
その強い光を真正面から受け止めた赤髪のリーダーは、わずかに顔を引きつらせ、冷や汗を滲ませながら一歩、また一歩と後退した。
その瞳には、初めて――恐怖とも呼べる感情が宿っていた。
「なっ……、ただのお嬢ちゃんじゃねぇのかよ!」
震える声で呟いた男。
強い意志を目の当たりにし、覚悟を決めるように両手で双剣を構える。
「調子に乗んなよ!?このアマァ!」
暴言を吐きながらも、男の声はどこか揺らいでいた。
リリアーナはまだ完全に自分の力を掌握していない。
だからこそ、その声は遠くで鳴る風のように聞こえ、決して彼女の心を揺るがせはしなかった。
「私はもう怯えたりしない!この人達を守るためにも!」
──もう私は、迷いたくない。
目の前で、誰かが傷つくのをただ見ているなんて……もう、絶対に嫌。
この剣は、逃げるためのものじゃない。
“守るため”にある剣。
私が、私自身の意志で握った剣。
初めて冒険者として立った、この戦場で。
私はようやく――“覚悟”という名の力を、手に入れたのだ。
それを聞き届けたオルバースとダルク。
彼女の言葉が風のように届いた瞬間、老戦士は静かに目を伏せる。
(ようやく決断されましたか……。
ご成長されましたな、リリア様)
長く見守ってきた少女の“覚悟”。
それは、かつての主を思わせるほどに、確かな輝きを放っていた。
「……よい剣をお持ちですな、リリア様。まさに今の貴女に相応しい。」
心の内で呟いた、その時だった。
「くたばれ!!このクソジジィ!!」
背後から鋭い怒声と共に振り下ろされる盗賊の剣。
しかしその瞬間──
カンッ!!
鋼と鋼がぶつかり合う金属音が戦場に響いた。
「……若輩者が随分と口が悪い。」
オルバースの剣は背後からの斬撃を見事に受け止めていた。
顔をしかめることもなく、淡々と、むしろどこか楽しげにさえ見える。
「だがな……老人が弱いと思った時点で、お主の敗北は決まっておる。」
バァンッと踏み込み、逆に一閃。
その一太刀は、年老いた体から放たれたとは思えぬ速さと鋭さだった。
盗賊は目を見開いたまま倒れ込む。
「さあ……こちらも“勝たねば”なりませんな。リリア様の覚悟に、報いるためにも。」
そう呟いた老騎士の背中に、ひときわ強い光が宿った──。
それを目の当たりにした盗賊たちは、言葉もなく後退した。
「おやおや、若者がこの老いぼれに負けるとは……情けないのう。」
ダルクはその姿をちらりと見て、思わず苦笑した。
「……やべぇな、オルさん。渋すぎだろ、マジで。」
だが心の奥で何かが熱くなる。
あの背中に、リリアーナの叫びに――自分の中の何かが、今、確かに目を覚まそうとしていた。
拳を握りしめ、息を深く吸う。
──俺も、負けてらんねぇ!!
その想いが叫びと共に迸る。
ダルクは地を蹴った。
目前に迫る盗賊の一撃をわずかにずらし、鋭く反撃に転じる。
「おらっ……今度はこっちの番だ!」
鋭い一太刀が敵を吹き飛ばす。
そこへ歩み出てきたのは一際大柄な盗賊──
リーダーに次ぐ実力者、サブリーダー格の男。
「ほう、やるじゃねぇか。ちょっと遊んでやろうか、坊主。」
その殺気は並じゃない。
だがダルクの目はもう逸らさない。
「遊びだ? ふざけんな……!」
「こっちは命懸けなんだよ!!」
剣と剣がぶつかる。
鉄が鉄を裂く音と、火花が周囲に飛び散った。
戦場の喧騒の中でも、そこだけは別の空気があった。
重い剣撃の応酬、読み合い、全力の魂と魂のぶつかり合い──
「俺はな、もう“見守る側”で終わる気なんてねぇんだよ!!」
力強く叫び、ダルクは一歩踏み込む。
仲間がいる。信じる者がいる。
だからこそ倒れられない。逃げられない。
「ここで勝たなきゃ、男が廃るだろ!」
真っ向からの一撃が、相手の構えを一瞬崩した。
しかし流石はサブリーダー。
軽く身を翻し、隙を見逃さない。
「はっ、なんだ坊主。お子ちゃまの遊びには付き合ってらんねぇ─っな!!」
鋭い声と共に、サブリーダーの刃がダルクの攻撃を受け流し、反撃の構えを取る。
その動きに、戦場の熱気がさらに高まった──!
「ははっ、アンタやっぱつぇーな!!」
ダルクは息を整えながらも、目の奥に炎のような闘志を宿していた。
「だけど、俺だって黙って負けるつもりはねぇ!」
剣を握り直し、体にみなぎる力を感じながら、一気に突進する。
「俺の成長、見せてやる!」
そのとき、中指の指輪がふっと淡く輝き始めた。
「……なんだ、今の?」
指輪から魔力が溢れ出し、体中を駆け巡る熱い力がダルクを包み込む。
「これが…母さんの形見か……!」
新たな力を得た彼の動きは、これまでとは比べ物にならぬ鋭さを増していた。
「今度は俺のターンだ!」
力強く叫び、剣を振り抜く。
サブリーダーの瞳に、一瞬、驚愕の色が走った──!
「今の光は何だ!? なんだあの力は!」
リリアーナの剣が光った時のリーダーと同じように、彼も一歩、また一歩と後退する。
その様子を冷静に見守るオルバースは、盗賊の下っ端を制圧しながらダルクの指輪が光ったことに気づく。
(ふむ……。あの光、ただの魔力の高まりではないようだな──。)
眉をひそめ、その異変に重要な意味を感じ取りながらも、言葉には出さず二人の戦いを見守り続けた。




