EP.12 危険との対峙
静かな旅路は、突如として崩れ去った。
何者かの気配を察知し、リリアーナたちは緊急警戒態勢に入る。
馬車を襲う不穏な影──それは王都でも恐れられる盗賊団、レッドホークの襲撃だった。
緊迫する空気の中、リリアーナ、ダルク、オルバースが一丸となって迎え撃つ。
迫りくる闇と殺気、そして血で染まる戦いの幕が、今まさに切って落とされる。
馬車は揺れ続けて数時間。静かな景色に心が和んでいた矢先、突然、御者の鋭い声と共に馬車が急停車した。
「きゃあああっ!!」
車内は一気に悲鳴と混乱に包まれる。リリアーナは必死に手すりを掴み、バランスを取ろうとしたが、車輪がカラカラと音を立てて止まり、馬車全体が激しく揺れた。
「いったい、何があった!?」ダルクは窓から顔を出し、外を確認しようとする。目の前に広がるのは、ただの静かな道と変わらぬ風景。だが、不気味なほどに、周囲は音を立てていなかった。
「リリア様、ご無事でしょうか?」
オルじぃがすぐにリリアーナの肩に手を置き、優しく声をかける。その手の温もりに、リリアーナは少しだけ安心を覚えた。
「ええ、大丈夫。ありがとう、オルじぃ。」
ほっと息をつきつつも、リリアーナの胸には不安が渦巻いていた。
「ダルク殿、状況を――」
オルじぃの声は落ち着いていた。ダルクはすぐさま馬車を降り、周囲の警戒を始める。鋭い目が森の中を隈なく見渡すが、そこに敵の姿は見えなかった。
「オルさん!みんな、すぐに馬車から降りて外に出ろ!!」
ダルクの声には迷いがなかった。今すぐ行動を起こすべき緊迫感が込められていた。
「皆様、落ち着いて。私たちが必ず守ります。」
オルじぃの穏やかな声が周囲に響き、乗客たちは少しずつ安堵を取り戻した。しかし、リリアーナの感覚は違った。
胸の奥で、魔力の不穏な波動が強く迫る。まるで、何かがすぐそこまで近づいているかのように。
「来る……。」
彼女の直感が身体を震わせた。
ためらうことなくリリアーナは動いた。両手を広げ、内に秘めた魔力を瞬時に解き放つ。空間に結界が張られ、周囲の空気は震え、温度が急激に下がる。
透明な防壁が彼女の周りに立ち上がり、見えない力が危機から守ろうと立ちはだかった。
「ダルク!空中よ!少し右、魔力を感知!」
ダルクは即座に反応。剣を抜き、風の魔法で舞い上がる。
「了解!」
空中で敵の気配を捉え、黒い影が浮かび上がった。
剣が風を切り裂き、敵に襲いかかる。
「リリア、援護を頼む!」
「任せて!」
リリアーナの指先から無詠唱の魔力の奔流が走り、雷鳴のような衝撃が闇夜を裂いた。
「うぐっ!」
敵は悲鳴をあげ、糸の切れた操り人形のように空を舞い、地面に叩きつけられた。
ダルクは軽やかに着地し、風を纏いながら剣を構える。
だが、静寂はすぐに破られた。
「……まだ気配がある。」
オルじぃの低い声に緊張が走る。彼の目は、闇の奥深くを鋭く見据えている。
焦げた金属のような異臭が風に混じり、肌を冷たく刺す。
「一人、二人――いや、それ以上ですな。気配が拡がっています、リリア様。」
その言葉の直後、森の闇の中からじっと視線が注がれる感覚が走る。
背筋に冷たい殺気が走り、低く風が唸る。
御者は震え声で呟いた。
「盗賊団だ……“レッドホーク”の連中だ……奴らに狙われたら終わりだ。」
車内がざわつき、恐怖の色が広がった。
「レッドホーク……!?」
ダルクが険しい顔で周囲を見渡す。
リリアーナも眉をひそめる。
その名は王都でも恐れられる悪名高き盗賊団。財宝の強奪、人攫い、村を焼き払う残虐な手口、そして魔法まで操るという凶悪な戦力を持つ。
「──見えた!」
森の木々の間から黒いマントの数人が姿を現す。
中心には炎の双剣を背負う赤髪の男。
「挨拶がまだだったな。俺たちは“レッドホーク”だ。」
男は不敵に笑い、口元を歪めた。
「お前たちみたいな甘ちゃん冒険者と、ビビリ貴族は一番美味い獲物だ。」
空気が一変する。
リリアーナは一歩下がり、魔力を高める。
「リリア、あいつはただの盗賊じゃない。」
ダルクが剣を握り締め、風の流れを読み取る。
オルじぃが肩に手を置き、静かに告げた。
「覚悟してください、リリア様。この先は、本当の殺し合いになります。」
風が止み、葉が舞った。
そして、レッドホークの突撃が始まった──!




