第64話
「本当にありがとう」
復活したケン、そしてカイが頭を下げて礼を言う。
「当然だろう。俺たちは仲間だ。そして俺たちは仲間を見捨てることはしない」
「ローリーの言う通りだ。一緒に火のダンジョンをクリアした仲間だ。俺たちは当たり前のことをしただけだよ。それより宝箱が開いてるぞ」
4人は部屋の中央にある開けられた宝箱に近づいていく。
今度はゆっくりと中身を確認していく。
宝箱から出てきたのは金貨1,000枚程、これは龍峰のダンジョンのボスの宝箱と同じだ。そして大きなドラゴンの魔石。
それ以外に装備関係で出てきたのは見たこともない素材で作られたアーマーと2本の刀、そして杖だった。刀を見たカイとケンの目の色が変わった。
「一旦全てを収納するぞ」
そう言ったローリーが宝箱の中身を全て収納する。他に何もないのを確かめた4人はボスを倒すことによって現れた魔法陣に乗るとその場から消えた。
地上に戻った4人はそのまま東の原の市内に向かい、ギルドに顔を出した。昼過ぎの中途半端な時間だったこともありギルドの中は閑散としていた。4人にとって都合の良い時間帯だった。
4人が入ってきたのを見た受付嬢が立ち上がるとそのまま4人を会議室に案内する。
すぐにギルマスのタクミが部屋に入ってきた。
「火のダンジョンのボスを倒してきたぞ」
カイが言うと驚愕するギルマス。隣に座っている受付嬢も大きく目を見開いていた。
ローリー頼むと言ったカイに頷くと会議室のテーブルの上にボスを倒して手に入れた品物を並べていく。刀が2本、そしてボスの魔石、アーマーと杖。
「これほどの大きさの魔石は見たことがない」
魔石を見たタクミが声をあげた。すぐに隣の受付嬢に全てのアイテムの鑑定を頼むと言うと彼女は会議室から出ていった。
「本当に倒してしまったんだな」
感心した声でタクミが言った。
「厳しいダンジョンだった。さまざまなギミックが張り巡らされていた。トゥーリアのリゼにある龍峰のダンジョンとは全く違っていたよ」
「それでもお前さん達はクリアしてきたんだな」
ランディの言葉にそう返すギルマス。
カイがダンジョンの話をしていると鑑定が終わったらしく受付嬢と職員が会議室に入ってきた。会話が止まって全員が部屋に入ってきた職員に顔を向ける。
「まず魔石ですがファイアードラゴン。ダンジョンボスの魔石で間違いありません。これほどの魔石は見たことがないということでギルドでの買取価格は金貨3,000枚になります」
その金額を聞いて驚いたのはギルマスと忍の二人だった。ローリーとランディは魔石の買取金額が龍峰のダンジョンと同じだったんだなと頷いている。
「次に刀ですがこれはどちも同じ物でした。攻撃力+100、二刀流効果+50、そして素早さ+50の刀になります」
「恐ろしい性能の武器が出てきたな」
職員の話を聞いたランディが言った。忍の二人はそのぶっとんだ性能を聞いて声も出ない。
「それからこのアーマーですが素材はファイアードラゴンの皮との鑑定です。効果は防御力+200、攻撃力+100、使用する武器の攻撃力+50です。温度調整機能付きです」
「これも凄い。この世に2つとないものだ」
防御力と攻撃力が同時に上がる防具は存在しないと言われるほどだ。しかも武器の種別に拘らず手に持った武器の攻撃力を+50する。
4人が黙っていると説明を続ける職員。
「最後に杖ですが、精霊魔法と回復魔法の威力を2倍に、強化魔法の威力を50%アップすると同時に効果時間を30%アップする性能がついています」
「ぶっ飛んでるな」
ローリーが声を出した。
「聞いたことがある。ダンジョンボスから出る装備系のアイテムはなぜかボスに挑戦した冒険者のジョブに関連するものが出ることが多いと。今回は見事にその通りになっているな」
アイテムに視線を送ったままギルマスのタクミが言った。
「その防具と杖をギルドで買い取るとしたらいくらになる?
ランディが聞いた。カイとケンが同時にランディに顔を向けた。聞かれた職員は困った顔になる。
「査定額ですが鑑定した職員によると値段がつけられないと言っていました。あえてつけるとすれば防具も杖もどちらも白金貨10枚はくだらないだろうと」
そりゃそうだろう。防具も杖も2つとない代物だ。当然そういう回答になるだろうなと納得するローリー。
「魔石はギルドの買取で頼む。ランディとローリーもそれでいいかな?」
構わないとカイに答える二人。
「後のアイテムは4人で相談して決めたい」
「いいだろう。このままこの部屋を使ってくれ。決まったら俺に言ってくれればいい」
魔石はギルドが買い取るつもりだったのだろう。その場で金貨3,000枚を置き、代わりに魔石を手に取るとギルマス以下3人が部屋を出ていった。残っているのは4人だけだ。
テーブルの上には2本の片手刀と杖と防具が置かれている。
「良い物が出たじゃないか、よかったな。苦労した甲斐があったな」
ランディが明るい声で言った。
「俺とケンはダンジョンからの帰り道すがら話をした」
そう言ってカイがローリーとランディを見たまま言葉を続ける。
「ボス戦でケンが死んだ時に2人は自分たちが探していた蘇生薬、天上の雫をケンに使ってくれた。本当ならその天上の雫はケンではなく元々の2人の仲間に使う予定だったものだ」
カイの言葉を黙って聞いているローリーとランディ
「ローリーもランディも躊躇なく天上の雫をカイに使ってくれたおかげで彼は生き返った。改めてお礼を言わせてくれ」
「本当にありがとう」
ケンも続けて言い2人で頭を下げる。ツバルのしきたりの最上級のお礼の表現だ。
「それでだ。ケンとも話し合って今回の宝箱の取り扱いについてだが、悪いが刀2本は俺とケンで使わせてもらう。あとの杖と防具については俺とケンは所有権を放棄する。あんたたちの物だ」
「いいのか?」
ランディが言った。ローリーも目を見開いた。
「もちろん。それと金貨についても魔石分と宝箱の分を合わせた4,000枚については四等分して1人1,000枚ずつとしたい」
「いや待て。そうすると俺たちが貰いすぎになるぞ」
ローリーが言って断ろうとしたがカイとケンはガンとしてOKしなかった。結局彼らに押された形で金貨は1人1,000枚となり、防具と杖はランディとローリーがそれぞれ持つことになった。
「ありがとう。正直2つとない防具と杖だ。助かるよ」
お礼を言うランディ。
ローリーも2人に礼を言ってから続ける。
「知ってる通り48層のNMから謎の小瓶が出ている。これも天上の雫なのかも知れない。
そう思ったからボスの宝箱の天上の雫を使ったんだ。気にしないでくれ。それよりも4人でしっかりとダンジョンをクリアした。カイとケンもこれでSランクに昇格するんじゃないか?」
そうなるだろうと隣のランディも言った。
話し合いが終わり4人は会議室を出てギルマスの部屋に顔を出した。
「そりゃそうだろう。2つとない業者だ。売るより使った方がずっといいからな」
装備品は全て自分たちで使うと言うとタクミがそう答える。
「カイとケンはSランクに上げるんだろう?」
ランディが聞くともう昇格の申請書を書いたという。
「地獄のダンジョンをクリアしてきたんだ。Sランクに昇格するのは当然だろう。ツバル始まって以来のSランクの忍、冒険者だ」
ギルマスの言葉を聞いていたカイとケンの表情も明るい。
「ダンジョンの詳細についてはカイとケンからゆっくりと聞いてくれ」
「おまえさんたち2人はこの街を出ていくのか?」
その予定だとローリー。
「俺たちはこれから一旦ネフドのイン・サラーに戻る。その後はトゥーリアのリゼに戻るかどうするかはまだ決めていない」
「分かった。まだ旅は終わっていないということだな。気をつけてな。それとうちの忍が世話になった。忍でダンジョンをクリアしてSランクに昇格したとなればこの国の冒険者達にとってもモチベーションのアップに繋がる。本当にありがとう」
最後にギルマスと握手をしたランディとローリー。
忍の2人と一緒にギルドを後にするとその足で東の原の常宿に戻っていった。




