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第29話


 アマノハラから東の島への移動の船はせいぜい20人ほど乗りの小型の船だった。乗っているのはローリーらのパーティ4人の他には商人風の男が数名、そして2組ほど冒険者達だ。彼らは装束を身につけているのでツバル所属の冒険者だろう。この船で2時間程で東の島に着くらしい。


 船は島と島の間をすり抜ける様にして進んでいく。島嶼というだけかって大小様々な島が海に浮かんでいる。ローリーとランディの2人で船側から見るともなくそれらを見ているとケンが近づいてきて同じ様に船側から見える島に顔を向けて言った。


「いくつかの島は無人島なんだ。水が出ないんだよ。ツバルで人が住んでる島は皆水がある。それが条件になってるんだ」


「なるほど。じゃああの島には魔獣もいないのか」


「餌がないから魔獣も生きていけない。こうやって船に乗って見てる分にはいい景色だろうが実際に島に住むとなると簡単じゃないんだ」


 ケンが言うにはアマノハラのある島の様に大きくて川が流れて水がある島は稀で、多くの島は水源がない。なので島のあちこちに溜池を作って雨水を溜めているそうだ。


「幸いにツバルは南国で雨が多い土地柄だ。その雨水をうまく利用しようと昔から頭を使ってきたのさ」


 いつの間にかそばに来ていたカイが言った。


「俺たちの国じゃあ当たり前のことがそうじゃないんだな」


「その通り。一方で年中果実が採れる。ネフドなんかの人から見たら羨ましい世界だそうだ」



 東の島に向かう船は穏やかな海の上を順調に航海して予定通りの時間、夕刻前に港に着いた。ランディらも桟橋に降りるとそのまま港から市内に入る。そこはアマノハラの小型版と言った町並みだった。


 まず宿を取ろうというカイに付いていき市内の中央からやや外れた場所にある宿に部屋を4つ取る。ここは場所柄いつも空いているが部屋は綺麗だということだ。とりあえず1ヶ月分の宿代を前払いする。それから防具屋を訪ねて耐熱効果のある靴をそれぞれ3足ずつ購入する。


「当たり前の話だけど地獄のダンジョンの攻略は簡単じゃない。スムーズに階下に降りていけないフロアの方が多いんだ。毎日挑戦しても半年は見ておいた方がいいぞ」


 買い物を済ませて市内のレストランに入って夕食をとりながらランディがカイとケンに話をする。真面目な表情で頷いている2人。カイによるとここから地獄のダンジョンまでは徒歩で1時間弱の場所にあるらしい。


「とりあえずは入り口から様子を見ながら降りていこうか。中の広さもわからないから何層までという目標を立てずに行ってみよう」


 ここまではカイとケンが中心になって色々と手配をしてくれたがこれからはランディとローリーの出番だ。ツバルの2人もそれを分かっているので一歩引いた立場でランディの説明を真剣に聞いている。


 いい感じだ。お互いを尊重しあってる。


 カイとケンの態度を見ていたローリーは一安心する。地獄のダンジョンを攻略するのにチームワークが悪ければ絶対に不可能だ。お互いがお互いを信用して動かないと攻略できない。上層はまだ何とかなるとしても中層から下はまず無理だろう。


 攻略したいと言って声をかけてきただけはあるとローリーは思っていた。


 しっかりと休んで疲れを取った翌日、4人は宿を出ると地獄のダンジョン、通称火のダンジョンを目指して歩いていく。街からダンジョンまでのアプローチは今まで多くの冒険者達が歩いたせいか土の道もしっかりと踏み固められていた。


 ダンジョンの入り口に着くとその周辺にも何軒かテントで作られた簡易の店が並んでいた。どこでも同じ風景だ。そこで売られているのは水や携帯食料、そしてポーションなどの薬品類。あとは武器と防具。刀砥ぎますという看板も見える。


 ダンジョンの前で装備の最終確認をした4人は入り口でカードをかざして中に入っていった。ランディとローリーに取っては2つ目の地獄のダンジョンの挑戦となる。


 中に入ると緩やかなスロープが下に伸びている。そこを降りていったところが1層でダンジョンの最初のフロアになっていた。


「1層だからか。熱くない」


 フロアに入ると盾を持って先頭を歩いているランディが言った。

 最後にフロアに入ったローリーも同じ印象だ。


 いきなり火山か溶岩が湧き出ているフロアを想像していたが1層から5層まではごく普通の洞窟タイプのダンジョンだった。ただ出現する魔獣はほぼ全部が火の精霊魔法を撃ってくる。剣や斧を持った前衛タイプの敵はいることはいるが数が少ない。


 20層までは最短距離でいこうという事前の打ち合わせもありフロアを探索することはせずにひたすら下に降りる階段を探しながらの攻略をする彼ら。6層まで比較的早い時間に到達することができた。


 6層は洞窟というよりも地下空間の様な広い場所が目の前に広がっている。そして気温も少しだが上がってきた様だ。


「いよいよ本番かな」


「そうなるな」


 6層を目の前に見ながら小休憩している4人。ランディとローリーのやりとりを聞いていた2人はしっかりと水分を補給し気合いを入れる。その仕草を見ていたランディがカイとケンに顔を向けた。


「ここから本番になるだろうがやることは変わらない。5層までの2人の動きを見ていたが十分に戦力になっている。自信を持ってくれ」


「わかった」


「頼りにしてるぜ」


 ローリーが2人の肩をポンポンと叩いて言った。実際カイとケンの力量はランディ、ローリーの想像以上だった。低層ということを差し引いても動きの質が高い。ランクAでも上位に違いないという2人の見立て通りだった。と同時にこれくらいの力量を自覚していればこの火のダンジョンに挑戦したくなるという気持ちも理解できると。


 いよいよ本番だとローリーは顔を6層のフロアに向けて気合いを入れ直す。目の前には大きな洞窟の様な作りの部屋が広がっていた。奥にはさらに奥に伸びている洞窟の通路が見えている。火山の中の小洞窟をイメージしている様だ。溶岩こそ流れていないがフロア全体が蒸し暑くなっている。いずれは同じ様な部屋の中に溶岩があり、マグマが噴き出しているフロアになるんだろうと先のフロアを推測する。


 6層で徘徊している魔獣は主にリザードと呼ばれる四つ足で徘徊する大型のトカゲだ。体調は1メートル強。見ていると火は吐かないが全身が硬い皮膚で覆われている。トカゲというよりは小型のサイといった感じだ。


 行こうかというランディの声でフロアの攻略を開始した4人。ローリーは最初に3人に強化魔法をかけると前を歩く3人の背後からフロアを進んでいく。正直この4人には6層は全然問題がリザードの動きや攻撃パターンを見極めるために急がずに倒しながらフロアを進んでいった。カイとケンの刀がいいダメージソースになっている。2人とも身体の動きも良く、流石のAランクだと後から見ていたローリーは感心する。


 6層、7層と同じ様な作りをしていたが8層になるとさらにむっとしてきた。気温よりも湿度を高くしている様だ。それでも誰も愚痴を言わずに攻略を続ける4人。10層を攻略して一度地上に戻ってきた。時刻は昼を過ぎていたが夕刻には少し早い時間だった。


「南国のツバルなんだろうけどダンジョンから戻ってくると涼しく感じるな」


「ここに住んでる俺たちでもそう感じてるよ」


「この調子なら明日は20層目指そうか」


 今日1日でお互いの技量が確認できた。明日からは攻略スピードを上げることができるだろう。


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