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第120話


「すごく恰好いいわね」


「落ち着いた赤の色合いで綺麗ね」


「本当。尊厳色って感じ」


 リモージュの街の常宿に戻ってきた4人は夕食時にドロシーらと会いそのまま宿のレストランにいる。ヒヒイロカネで加工された新しい剣を見た彼女らの反応は総じて好意的だった。というか羨望の眼差しで2本の剣と斧を見ている。


「切れ味は?」


 シモーヌとカリンが言った後でケイトが片手剣を見たまま聞いてきた。同じ戦士として武器の性能が気になるのは当然だろう。


「今までの付帯効果を残しながら切れ味がまた一段と鋭くなっている」


「それなら大きな戦力アップになるわね」


 カイルの言葉にケイトがなるほどとうなずきながら言った。


「武器は揃った。ということでいよいよ49層の攻略だね」


「この武器ができるまで1か月待ったからな。明日準備をして明後日に流砂のダンジョンに挑戦する予定だよ」


 ドロシーとランディが話をしているのを聞いていたケイト、ローリーに顔を向けると聞いてきた。


「ローリー、49層の様子について何か予想は立ててるの?」


 その言葉に頷くローリー。


「予想というかシミュレーションはしている。とは言っても力技か知力かその両方か。3つしかしか思いつかないけどな。考えられる3つの可能性については頭の中で何度もシミュレーションをしているよ」


 ローリーによると予想されるパターンをシミュレーションする際には出来るだけ客観的に見る様にしているという。ケイトが身を乗り出してきた。ローリーの話を一言一句聞き逃すまいという態度だ。


「得手不得手があるから無意識のうちに得意なパターンのシミュレーションを中心にやりがちだがそのやり方をすると自分の不得手のパターンだった時に精神的に来るものがある。最深部なら尚更だろう。こうだったらいいなという希望がいつの間にかこれだという決め打ち状態になっていてそうじゃなかった場合、自分では気が付かないががっくりしてしまう。つまりミスが起こりやすくなる。なので出来るだけ客観的に見る癖をつけてるんだ」。


 ローリーが話し出すと他のメンバーは皆会話を止めて彼の話に耳を傾ける。今ではケイト以外の女性メンバーもじっと彼の話を聞いている。賢者ローリー、当人は全くと言って意識をしていないいないが彼の言葉には蘊蓄がありこれからの行動、もっと言えば冒険者としての考え方までを示唆していることが多い。今もダンジョンで陥りやすいケースの話をしている。彼の言葉に頷いている8人。


「思い込み、先入観は禁物ってことね」


 その通りだとケイトの言葉に頷くローリー。


「ツバルのダンジョンのケースみたいに俺達の想像の埒外だったケースもあるしな」


 ランディがそう言って女性陣にツバルの49層、50層の話をした。聞いていた彼女らはびっくりする。男性陣もカイルとマーカスはその場にいなかった。えげつないなと呟いていた。


「本当に地獄のダンジョンって何でもありって感じよね」


 話を聞き終えたドロシーが感心した声で言った。ローリーはそうだなと言ってから、


「あのパターンは初めてだった。50層に降りる階段を探しているときっと永遠に見つからずにあのフロアで彷徨うことになっていただろう。山の斜面に違和感を感じたからルートを見つけることができた。半分はラッキーだったよ」


 火のダンジョンでは49層から50層には細いスロープを登っていくのが正解のルートだった。


 ローリーの状況判断の凄さはここにいる全員が知っている。常に周囲を見て違和感を探す。そこには先入観はない。常にフラットな目線で臨機応変に対応してきていた。49層で強い魔獣を相手にしながら周囲を観察して最適解を見つけてくる彼の能力についてはここにいる皆が疑う余地はない。それにしても初見でそこまでできるのはローリーくらいだろうと思っているケイト。ドロシー、そしてカリン、シモーヌも同じ思いだった。




 翌日は休養と準備に費やした。新たにアイテムボックスを手に入れたのでローリーの収納以外にランディのアイテムボックスにも水や食料を入れておくことにする。ダンジョン攻略の準備が終わると買い物を終えたその足で4人でハバルの店に顔を出した。


「流石にアルバトの仕事は丁寧で間違いがないな」


 テーブルの上に置かれている3本の武器を見ていたアラルが武器から顔を上げて4人を見て言った。


「向こうで奴から聞いているとは思うが今までの武器についていた効果はそのままで今回ヒヒイロカネを練り込んだことで剣も斧もその刃の部分の強度が3倍になっている。たいていの物は切れるだろう」


 恐ろしい程の性能アップだ。聞いていた3人はびっくりしている。


「ヒヒイロカネとはそれ程の金属なのだ。そしてそれほどの金属を加工するのがどれほど難しい事かが分かったと思う」


「いや全くその通りだ。しかもアルバトの話だと加工し難いヒヒイロカネを剣や斧に練り込んだと言っている。あり得ないスキルだ」


 感心した声で話をしているランディ。


「そこまで出来るのはこの大陸に数いる鍛治職人の中でもあいつ位だろう。そのあいつが会心の作だと言ったのであれば間違いない。これでダンジョンクリアが見えてきたんじゃないのか?」


「ここまでして貰ってクリアできないと逆に俺達がアルバトに笑われるな」


 無理はするなよという声を聞いてアラルの店を出た4人はそのまま早めの夕食を摂る為に市内のレストランに入った。時間帯が早かったせいか中は空いていて個室に入ることが出きた。個室は金がかかるがそれ以上に周囲を気にせずに話が出来るというメリットが

ある。4人とも個室の利用代金を負担と感じることもない程の大金持ちだ。注文した料理が運ばれてくると雑談をしながら食事をする。


 このメンバーは今更決起集会等と言った名目での食事会は不要だ。各自がやるべきことを十分に理解している。冗談を言い合いながら食事をしている4人。緊張もせずに皆リラックスしていた。


 この雰囲気なら明日も上手くいきそうだ。ローリーも皆と一緒に冗談を言いながら食事をする。



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