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第105話


 一旦地上に戻ろうというランディの言葉で地上に戻ってきた4人。地上に戻ってきた時、リモージュの街は真昼だった。ダンジョンからそのまま市内のレストランに入った彼らは食事をとりながらこれからの相談をする。


 盆地の周囲を一回りして何もなかったとなるとあとは砂漠を縦断するしかない。


「周囲を一回りするだけで6日かかった。縦断しても全部を見るとなると大変だぞ。何日かかることやら」


「山の中腹の2つの扉のどちらを選んでも最終的に同じ場所に行くってことはないか?」


 ハンクが言った。それも可能性としては十分に考えられる。ハンクの意見にランディが賛成した。今度はあの崖を登ってみないかと言う。


 食事が終わるととりあえず明日明後日の2日は休養日となった。下に降りる階段は見つからずただただ疲れただけだった。龍峰、火の2つのダンジョンでも下に降りる階段を見つけられなかった事は無かった。ローリは落ち込んでいた。部屋に帰ってシャワーを浴びてからずっと部屋に籠って床に手書きの地図を広げては5日の活動を何度も思い出して指先で地図をなぞるが違和感を思い出すことができない。


 休養日2日目の昼過ぎ、遅めの昼食をとろうと部屋を出て階段を降りると丁度狩人のマーカスが外から戻ってきたところと出くわした。両手に買い物を持っている。


「これから昼飯かい?」


「ああ。遅めだけどな」


「俺も買い物から帰ってこれから昼飯だったんだよ。どうだい?一緒に」


「いいな」


 ちょっと待っててくれ荷物だけ置いてくると2階に上がったマーカスが降りてくると2人で市内の通りを歩いて1軒のレストランに入った。ダンジョン攻略で長く住んでいることもあり彼らにも馴染みに近い店がいくつか出来ている。顔なじみになった給仕が近づいてきて2人ともいつものと言ってそれとジュースを文した。給仕が下がるとマーカスがローリーの顔を覗き込む様にテーブルに上半身を乗り出した。


「四六時中考えていると気が滅入るぞ」


「分かってるんだけどな。もやもやしてさ」


「戦略家のローリーもお手上げか」


「地獄のダンジョンの最深部だからな。簡単じゃないとは頭の一部で分かってるんだが頭の中の別の一部がこれくらいも分からないのかと言っててな自分で自分が嫌になってるんだよ」


 そんな話をしていると注文した料理が運ばれてきた。2人は会話を一旦中断してテーブルの上に乗っている料理にフォークを伸ばす。


「相変わらず辛くてうまいな」


 マーカスがそう言って美味そうに肉を食べてる。ローリーも同じだった。最初は辛いだけだと思っていたがこの味が病みつきになる。


「確かに美味い。ダンジョンから戻るとこの店のこの味を食いたくなるよな」


 ローリーもそう言って同じ様に香辛料がたっぷりとかかっている肉を口に運んでいる。2人は目の前の料理を平らげるという作業に集中する。ほぼ同じタイミングでプレートに盛られていた肉と野菜が無くなり、コップに入っていたジュースを飲み干した。


「食った食った」


 満足そうな声を出すマーカス。ローリーも口にこそ出さないが同じ気持ちだった。


「なぁローリー、普通なら47層に降りてあの景色を見たらどう動く?言っておくがお前の話じゃないぞ、一般的な話としてだ」


 一息ついたところでマーカスが聞いてきた。


「そうだな。やっぱりあの崖に何かがあるだろうと思って崖に沿って歩くだろうな」


「つまりそれはお前がよく言うところのダンジョンのギミックに騙されてるって事じゃないのか?」


 マーカスに言われて顔を上げるローリー。


「俺だってあのフロアにいきなり放りだされたら崖沿いを歩くだろう。でもよく考えてくれよ。崖沿いは100メートル毎に魔獣が2体待ち構えている。そりゃ確かに安全地帯はあったさ。でもあの頻度でSSを2体倒しながら進むなんて簡単じゃない」


「崖沿いに歩かせて敵と遭遇して消耗させる、うまくいけば冒険者を倒してしまうという意思か」


 その通りだとマーカス。


「俺達は崖から70メートル離れて歩いた。つまり砂漠を歩いている。それでだけで魔獣に会う頻度は大きく下がった。1時間に1度せいぜい2度だ」


「それでも安全地帯が確保できるからと崖下を進むだろうな」


 答えながらリーリーは考えていた。安全地帯があるからこれが正解のルートに違いないと。でもそれは砂漠には夜を過ごせる安全地帯が存在しないという思い込みから来ている。何もない砂漠に安全地帯なんてある訳がない。そう思い込んでいる、いや思い込ませるためにわざと崖下の洞窟に安全地帯を設けているとしたら?そして極めつけはあの崖の途中にある扉だ。普通ならあれを見つけた時点であそこだと決めつけるだろう。自分達はたまたま扉を2ヶ所見つけたからおかしいと思ったがそれって普通じゃまずしない。どちらから回っても崖の上の扉を見つけたらやったと思うだろう。つまり完全にダンジョンの罠にはまってしまっている。


「何か攻略策を思いついた様だな」


 ローリーの表情が変わったのを見たマーカス。

 お前に話しながら頭の中を整理したいいいか?とローリーが言うと構わないぞ好きにして大丈夫だと言ったマーカス。ローリーはグラスに入っているジュースを一口飲んで一呼吸置いてから話だした。


「マーカスが言った通りだ。階段から降りてあの景色を見るとまず思うのは崖下が怪しいってことだ」


 普段よりゆっくりと話をするローリー。聞いているマーカスは彼の性格を知っているので言葉を挟まずに頷くだけだ。


「それでだ、崖下を進みだした。すると100メートルごとに敵と遭遇する。そいつらを倒して進んでいると2体じゃなく3体固まっているのがいた。それを倒すと洞穴だった。安全地帯だ。こりゃ休めるぞと思うと同時にやっぱりこれが当たりのルートなんだ。敵を多く配置して全くいやらしいフロアだぜ。と思うだろう」


 頭の中を整理しながら話を続ける。


「そもそも何故砂漠を進むという選択肢を考えないのか。それは崖下の方が怪しいと思うと同時に今までの砂漠のフロアでオアシスがほとんど無かったからだ。つまり俺達は流砂のダンジョンは砂漠にはオアシスがほとんど存在してい無いとそれまでのフロアの経験から無意識のうちにそう刷り込まれているんだ。砂漠には休める場所がないってな。それを探すよりも崖下なら洞穴があるし実際に休める。だからこれが正解のルートだと思ってしまっているんだ」


 黙って聞いていたマーカス。


「なるほど。ローリーの言う通りだな。俺だって流砂のダンジョンの砂漠にはオアシスがほとんど無い。それはここが地獄のダンジョンだというのとそれまでのフロアでオアシスがあったのはあれはヒントを読み解いた結果見つかったもので普通は存在しないダンジョンだと思い込んでいたよ」


「それであの崖の中腹にある扉だ。あれを見つけたら何としてもあそこにたどり着く方法を考えるだろう。俺達だって崖を登れないか考えたからな」


「それがギミックだっていうのか」


「ああ。恐らくあの扉は偽物だ。そしてそれを証明するには砂漠にあるオアシスしか小屋を見つけるしかない」


「あのだだっ広い砂漠を探すんだな」


 マーカスが言った。


「その通り、この47層では砂漠にオアシスや小屋があるかも知れないとそちらに注意を払わせない様にしたのがあのダミーの扉じゃないかと思うんだ。あのフロアでは砂漠でオアシス、もしくは小屋を探すのが正解のルートだ」


 そう言うとテーブルの上に地図を広げた。


「しかもだ。見てくれ。スタートが6時だとするとこの盆地の奥はこうなってた。完全な円じゃなくて歪な楕円なんだ」


「それがどうした?」


「いいか。小屋を出て砂漠を真っすぐ進んで行くと進行方向の先に崖が見えてくる。そしてそれを目標にして進んでいくといつのまにか12時じゃなくて11時の方向に進んでしまうんだよ」


 ちょっとしたトリックだ奥の崖が小屋の方に正対していなくて少しずれている。崖目指して進むと自分達は正面に向かって進んでいるつもりでも実際には少しずつやや左に逸れて行く様になっていた。少しだけ崖が右の奥の方に食い込んでる。ほんの少しだが崖に向かうと知らない間に左に向かって歩く様なトリックだ。


「目標を崖に正対する様にして進むと左にずれるんだ。砂漠は起伏があるし風も吹く。振り返っても足跡が消えている。だから自分達では真っすぐにに向かって進んでいると勘違いしがちだ。こういうトリックをしている所から見ると12時方向に進むのが正解じゃないかって気がする」


「つまりローリーは小屋から12時方向に進んでいけばオアシスか小屋があってそこにヒントがあるって考えているんだな」


「その通りだ。山の中腹にある扉は2つともダミーで正解は砂漠の中だ」


「なるほど。いいんじゃないか?俺は乗ったよ」


 目の錯覚を利用したトリックとダミーの扉。マーカスに話をしながらおそらくこれが本筋だろうとローリーは確信する。



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