ハーレムが欲しい
『カティナ情報屋』の店頭に立つのは何もサンディだけの仕事ではありません。
基本的にはサンディが対応していますが、父であるガラディもお客様からの質問に答えています。
外見がいくら良くても、若い娘よりも年季の入ったガタイの良い男からの言葉の方が信用出来ると感じるお客は少なくありません。
さらに、残念なことに可愛い女の子と喋るのは緊張しちゃうという方々も一定数います。そんなお客様がいらっしゃいましたら、すぐに察してあげて何気なくガラディと交代するのです。
今日の昼に来たお客様も、元気に迎えるサンディへ少し気まずそうに返事をし、奥で作業をするガラディを気にしていました。
サンディが昼休憩のタイミングを狙ったのでしょうが、ガラディは外回りの仕事をしているため不在でした。
「あ、お客様?丁度、父が今外に出てますので、帰ってくると新しい情報が得られるかもしれませんよ。一時間後くらいにまた来るのと良いかもしれません」
誤魔化すように店内の張り紙に目をやり始めていたお客様に、父の帰宅時間を伝えます。
もちろんこの冒険者は情報の更新なんて気にしていないでしょうが、サンディの言葉に軽くうなずきながら店の外へ向かいました。
「ハーレムを作りたい。どうすればいい……!」
「えらくストレートな質問だな。いっそ清々しい」
外回りで気疲れしたガラディが、お客様のためにとそのまま店番を変わり少し経つと待ってましたとばかりに早速やってきました。
情報を買いたくてもお金が無くどうしようもなかった方は、この時を楽しみにしているものです。早く知りたくて仕方が無いのです。
「せっかく異世界に転生したんだ、当然の欲求だろう。バイト尽くしの日々もそのために耐えているんだ!」
サンディではなくガラディを選んだことは、なるほど納得というところでしょうか。サンディとしても助かるところです。
「お、おう。それはそうなのかもしれないが、それを素直に情報屋に聞くってのが新鮮だ」
「困ったら、どんなことでも情報屋に聞くのが一番だと教えてくれたのはあなただからな」
「ハハハ、確かにそうだな。実際金さえ払えば大抵のことは教えられるつもりだ。よし、ハーレムだな」
「可愛い子のハーレムな!高貴だったり素朴だったり色とりどりだとなお良し!お姫様なんて最高だな!」
「欲望に忠実過ぎる……。えっと、個室の方で話そうか」
姿は見えませんが、声が聞こえる範囲にサンディは待機しているので気を効かせました。父親として娘の前であまり話したくない話題でもありました。
「えっと、ハーレムの作り方だが」
「よし来い!」
あまりの気合の入れように、ガラディも引き気味です。
よほど楽しみにしていたのでしょう。ガラディは記憶からこの冒険者を引っ張り出すと、数か月前に見た気がします。確かこの世界での恋愛事情や性についての値段を聞いていました。
その日から今までの間ずっと、この日のために頑張ってきたのでしょう。
「えっーと、強くなれ」
「ふむ!ふむ……ん?つまり?」
「お前さんは見たところ、この町で狩りをまともに出来るようになったくらいだろう?豚や木人くらいしか相手していない」
「グリンピッグやウッディアンか、その通りだ。もう少ししたら『ヴォーヨン』に行こうと思っている」
「ふむ、ソロか?」
もちろん一人よりも二人、二人より三人の方が狩りは有利です。ですが、同じ場所にて一人で狩れるというのならば、当然単独としての力は上ということになります。
「そうだが、やはりパーティが必要か?」
「いや、むしろ逆だな。パーティでしかこの町でやっていけないのなら、いったん個人技を磨くべきだ。パーティメンバーは向こうで探した方が効率良いしな」
新人を欲しがるクランでさえ、始まりの町へ勧誘しに来ることは無いのです。
「本題に戻るが、実力的に中級冒険者レベルになればモテ始める。上級になれば勝手にハーレムが出来そうなくらいに異性が寄ってくる。もちろん強さ以外の要素でモテないこともあるだろうが、周りの見る目が一気に変わってくる」
「おー。……ん?なんか、あまりイメージが湧かないがそんなもんなのか?」
「そんなもんだ。まず、金目当てという理由がある。上級冒険者は一般人から見れば馬鹿みたいに金持ちだし、中級でもそれなりだ。十分付き合う価値がある。
さらに、強いのが明らかだから自身の安全のためになる。もし普段から冒険で家にいないのなら、それはそれで金だけ置いていって自由に遊ばせてくれる、最高の物件だ」
「……なんか、身も蓋も無いというか。なんというか」
「そんなもんだ。安全や、安全を買うための金は大事だ」
「いやでも流石にあからさまというか」
「考えてもみろ、この町の転生者たちはじゃんじゃか死んでいくだろ?流石にそれは極端とはいえ、この世界は危険が多い。
身の程知らずの転生者たちのせいで大分おかしなことになっているが、本来この町は世界一安全なんだ。住民が死ぬことなんてまず無い。
一方、他の町では住民も死ぬときは死ぬし、なんなら町や村ごと潰れることもある。縄張り争いに負けたモンスターの集団が町に押し寄せたり、『異界ゲート』なんていう災害みたいなものも発生する。俺も故郷の村が危険だからこの町に逃げてきたくらいだ」
屈強な男と呼んで差し支えない風体のガラディが「逃げた」と言えば、それだけで説得力が生まれます。
「良くも悪くも、この世界では大抵のことが力で解決できるんだ。逆にどんなに魅力的でも、明日モンスターに食われるような奴はお呼びじゃないってことさ」
「なるほどなぁ」
納得をしたようで、頷きを繰り返す冒険者。そして何かに気付いたようで疑問を提示します。
「あれ、強ければハーレムは自然と作れるってことで良いのか?」
モテることは大事ですが、なによりハーレムが欲しいのです。
「まあ、その通りだ。そもそも一夫一妻制なんてないし、平凡な住民が人間離れした冒険者を一人で相手するのは辛いという面もある」
「あー、待って待って。平凡な住人が嫌なわけじゃないんだけど、もっとホラ。色んな属性がね?
あとやっぱ一緒に冒険したいなーって思うわけなんだけど……」
やっぱり冒険もののハーレムと言えば、女戦士に女魔法使いに女僧侶と一緒が良いし、お姫様も欲しいよね。などと、欲望駄々洩れな意見を続けます。
「分かったから止まれ。しっかり説明するから」
「はい!」
「……はぁ。えっと、冒険者同士の関係となると、当然だが対等な関係ということになる。どちらか一方がハーレムを築くというのは相手の気持ち次第だ。ハッキリ言って難しい。
特に冒険者は転生者ばかりで、転生前の世界の常識を引き継いで一夫一妻制以外考えられないという者が多いだろう。さて、ここでお前に大事なこと、注意点がある。」
「ほほう?」
「ハーレムパーティを募集してはいけないということだ」
この冒険者の意見を完全に否定するような発言。いかにも不満気な表情をする冒険者に対し話を続けます。
「安易に作ったハーレムパーティの男は必ず死ぬ。この手の情報を買うやつには覚えていて欲しいことだ。他の冒険者に言われても話半分で流されることが多いから、被害が中々減らない事実だ」
「なんとまあ。詳しく」
「例えばお前がハーレムパーティを作ったとしよう、女に良いとこ見せたいよな?」
「おー、死ぬじゃん俺!なるほどなるほど!」
「いや納得が早すぎるだろ……。えっと、話を続けるが一人を守るくらいなら守れることもある。だが複数人を一人で、しかもずっととなると不可能と言い切っていい。
さらに女側もこの手の動きを期待してるんだ。純粋な気持ちだろうが醜悪なものだろうと、男に守ってもらおうと思っている。大して知らない男のハーレムパーティにわざわざ入るってのはそういうことだ」
「え、こわ」
「利害が一致した結果だから女が悪いという事はない。勝手に馬鹿な男が張り切って、勝手に自滅するんだ。遅かれ早かれそういう結果になる。だからお前はそうなるなよって話だ」
ブンブンと首を縦に振り了解の意を示します。非常に想像が容易で身の危険を感じたのでしょう。
「さて、それでもハーレムで冒険したいとなると予め強い者、或いは甘えた考え方をしない向上心を持った者を仲間にする必要がある。しかもハーレムを許容してくれるやつ。
もちろん最初に言った、都合の良い冒険者を探すという方法もあるが、これは運に頼り過ぎる。相手の腹の内なんて分からないし、お前のことを好いてくれる保障なんてどこにもない」
「そうだな。俺は確実にハーレムが欲しい。それが俺の、夢だから」
綺麗な目でガラディを見つめます。一周回ってガラディはちょっとこの男を好ましく思い始めました。
「教えてやれる方法は二つ。一つは、モンスターを仲間にする方法だ」
「モンスター?」
「好きなモンスターはいるか?そいつを育てるんだ。順調にいけば進化するし、人と一緒に過ごし続けたモンスターは人型になりがちだ」
「あー、そういう。んー、モンスター娘はありっちゃありなんだけど、モンスターから?」
「その反応なら無理だな。モンスターを育てるにはかなりの根性と愛情がいる。仲間になることもできないだろうし、うまくいったと思っても利用されて食われるのがオチだ」
さらに説明を加えると、通常の方法でモンスターを育てるよりも性的に育てるというのは難易度が高いとされています。基本的には普通の人間が良いと思っているような者が納得するような、あからさまに性を意識したデザインはこちら方面の進化が必要。
そのためには変態が最低ラインで、越えちゃいけない一線を走り幅跳びで越えた異常者が辿り着ける境地だというお話。
尊敬されながらも距離を置かれる存在です。
「なら、もう一つの方法。クエストをクリアする方法だ」
「クエスト!待ってました!あれ、でもそんなゲーム的なシステムがあるの?」
「転生者達がそう呼んで譲らないから、そう言われるようになっただけだ。
再三言っているように、この世界で人は簡単に死ぬ。つまり命が軽い。逆説的に、誰かの身柄が対価や報酬になることも十分あり得るということだ。」
あえてガラディはこのような言い方をしていますが、実情は少々異なる場合もあります。
例えば一族の問題、それも存続にかかわるようなこと、一族全員の命がかかわるようなことで、全く解決の目途が立たず絶望に打ちひしがれているとき。
その問題を綺麗さっぱり解消してくれるなら、当然その者に相応の感謝します。誠実な人たちであるなら全財産を譲ろうとするほどのこのです。正に感謝してもしきれないほど。
そんな感謝の念でいっぱいな人たちの中に、お年ごろの者がいたらどうでしょうか。
英雄に惚れちゃったりすることもあるのではないでしょうか。
なんなら莫大な報酬の代わりに、当人納得の上で一人旅立つだけで済むという、依頼側にとって都合の良いハッピーな展開だったりもします。
「こうしたクエストの結果得られる人材というのは、境遇からして向上心が高く、クエストを解決してくれたということから貢献心も強い。下心ありきだとしても、うまくいくことは多いだろうな」
「おお!それだよそれ!求めていたのはその展開だよ!」
大はしゃぎです。握りしめる拳に力が入りプルプル震えています。
「問題はこういったクエストの難易度だ。最低でも四人以上の熟練した中級冒険者パーティで挑むレベルだし、惚れられるのが目的ならそのパーティで一番強いことが望ましいだろうな。
早い話、上級冒険者レベルの強さが必要だ。完全に人外判定される化け物のランクだ、頑張れよ。応援してる」
期待してない声で明後日の方向を見ながら応援します。
「あー、まとめると、俺に出来そうなのは?」
「金をもらったからその分の説明をしたが、ハーレムで冒険ってのは夢見すぎだな。危機感が足りてない。
金があればその分女を囲えるから、中級でも作れる。あ、中級冒険者になるのが簡単なんて言ってないから、そこは勘違いするなよ。
まあそもそも、性欲満たすだけなら風俗で良いと思うがな。この町以外には大抵あるぞ」
「……ひょっとして、冒険者より普通に働いた方が良いのでは?」
「だろうな」




