情報を買うということ
「ちょっと良いか?」
そう切り出したのはこの町で活動を始めて少し経った、初級冒険者のようです。
「もちろん良いですよ。質問によっては料金が発生してしまいますけどね」
サンディはいつも通り対応します
「質問といえば質問か?言ってみればこの店自体のことなんだが。」
そう切り出して、話を始めます。
「情報を買うってこと自体は普通のことだと思うんだが、あまりにも程度の低いことにも値段が付いてるなと思ってな。
なんとなくそういうものだと思い込んでしまっていたが、そこら辺の人に聞いても分かるようなことで金をとるってどうかと思うんだが」
「はい、おっしゃりたいことはよく分かります。ですが、そのことについての情報も値段をつけられていますので、購入される意志が無ければ説明することはできません。
いかがなさいますか?個人的にも説明したいと思いますし、そうして疑問を持つ方にはお勧めの情報とも言えます」
サンディはこの冒険者の肩を持つような声音で購入を呼びかけます。
とはえい冒険者は苦い顔です。この一連の行為を咎めるためにやってきたようなものなのですから当然です。しかし提示された金額がそれほど高いわけでもなかったため渋々払うことにしました。
「ありがとうございます。では説明させていただきますね」
そう言いながら軽くお辞儀をし、顔を前に向けたときには営業スマイルではなく真剣な顔をしていました。説明する内容によっては笑顔をしてはいけないときもあります。
「まず、失礼ですがこの内容自体をここで聞く必要が本来ないはずです。お客様がおっしゃるように、そこら辺の人に聞けば良いのですから。でも、それをしない、できない。別にお客様が悪いというわけではなく、転生者が置かれる環境はそういうものなのです」
「確かに、酒場や冒険者ギルドで情報を集めようと思ったがそれ自体が見つからなかった」
「いえ。仮にそういったものがあるとしても、お客様は見ず知らずの人にいきなり話掛けるのですか?
いわゆるゲームと呼ばれるものでは、ボタンを押して気軽に話掛け情報を教えてもらえるみたいですが、現実ではそうはいきません。普通に不審者です。不審者までいかなかったとしても、赤の他人にいきなり情報を提供しようなどとは思いません。
また、この町に冒険者ギルドのようなものが存在しない理由の一つとして、そういった雑事に対応する意味がないというものが挙げられます。」
眉根を寄せる冒険者。サンディは正しいことを言っているのかもしれませんが、馬鹿にされている気分です。サンディに馬鹿にする意志はありませんが、そう思われるだろうことも分かっています。
「この町以外には冒険者ギルドがあるのか?」
あるのなら、さっさとこの町を離れるべきかもしれないと思ったようです。
「あるかないかで言うとありません。目的によっては類似していると思われる施設があるかもしれませんが、冒険者について手取り足取り世話を焼いてくれるようなものはありません。
また、ご想像されているような酒場もありません。この町にも酒場は存在しますが、見つけられていないということがイメージとの差を証明しているかと思います。
つまり、転生者が情報を集める場所、機会というものが少ないのです。多くの住人や、既にこの世界に慣れた者は"何も知らない転生者"と関わろうとしません。時間を無駄にするだけでなく、不快な思いをすることが多いのです。アドバイスをするとしても最低限、情報屋の場所を教えるに留まるのが普通です」
「まあそういう施設が無いのは分かった。住人にその気が無いのもな。だが、いちいち金を要求する理由にはなっていない気がするな。ムカつくからどこまでも搾り取ってやろうという感じか?」
「違います。そもそも厳密には転生者を転生者と判断する方法なんてありません。値段を付けているのは信用のためです。
例えば道行く住民からこの町に酒場がある言われたところで、嘘だと判断する方が一定数いらっしゃいます。実際に酒場が見つかりにくいこともありますので、最初は信じていても騙されたと思うことは不思議ではありません。
しかし、情報屋でお金を払って買った情報なら信用に値するかと思います。嘘を売っている情報屋なんて存在価値がありませんから。今回のような情報も無料ですと嘘だと思われたり、ただ馬鹿にされていると勘違いされることがあります」
正に馬鹿にされていると感じていた冒険者は一層見下されているようで不愉快です。ですが、お金を払っている以上聞くことは聞いておかなければ勿体ないので、今すぐ出ていくことはできません。
これも情報に値段を付けている理由の一つです。中途半端に聞いて自棄を起こされないようする予防策です。
「あーもうそれは分かったから。したら、転生者が集まる場所ってのはある?ギルドや酒場がダメだとしても、俺と同じような転生者はいるはずだろう。そういうのが集まる場所ってのはないのか?」
「町の中央付近に広場があり、そこが交流の場所ということになっています。その他には、今お泊りの宿屋が該当するかと思います」
「なるほどね。最初からそれを教えてもらいたいところだったよ。じゃあもうこんなものかな。他に何かある?」
「アドバイスとして、焦らないことです。何も知らず無鉄砲で危なっかしいから住人は関わりたくないのです。ゆっくり町に馴染み普通に生活していれば、交流の機会が増え自然と情報が集まるかと思います」
「はいはい、じゃあね」
「……ふぅ」
サンディは息を付き、お茶を飲みます。
今の冒険者がすぐ広場へ行き、誰もいないことに憤ることが容易に想像できます。その時またここに戻ってきて文句を言うでしょうか。お金を払った以上嘘を言わないということはしっかり覚えているでしょうか。
転生して間もない人は、クレームを付けに来がちです。性格が悪いとか調子に乗っているというよりも、暇なのです。
町の外にいる最弱のモンスター、グリンピッグですら多くの転生者はろくに狩ることが出来ず、仕事を嫌うとなるともうすることがありません。お金が無ければ娯楽もろくにありません。
主人公になって無双することを夢見ていた転生者が、ストレスを抱えた結果どうなるのか。せめて犯罪に手を染めなければ良いなとサンディは願っています。




