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素敵な異世界の情報屋さん  作者: なのった
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慎重なお客様

 数日に一人来るタイプの、珍しいお客様。

 それが今訪れた、ボロボロの初期装備を身にまとった汚らしい転生者です。


「いらっしゃいませ♪」


 いつも通りの挨拶ですが、いつもよりは歓迎する気持ちに幾分本心が入っています。

 理由は単純で、このお客様は他のお客様より死なないから。

 

 替えの無い服は当然汚れが蓄積し穴も開き、髪はボサボサ。腰に挟んでいる原始的ないくつかの武器、これはこの町に来るまでに頑張った証です。


 この世界に転生すると生まれるのはこの始まりの町ではなく、その南にある始まりの森に囲まれる廃墟です。

 推定十八歳相当の年齢、もとと同じ性別、もとと似たような容姿の新たな体で始まるのです。


 ほとんどの人はそこで軽い案内をされた後、とりあえずとこの始まりの町に訪れます。

 ですが十人に一人いるかいないかの確率で、愚直に案内に従うのです。


『町に行くならコケトリスのくちばしを手土産にすると良い』

『コケトリスを倒すなら、日に二十のコケを倒せる強さがいる』

『コケは不味いが栄養豊富。娯楽は無いが生きるだけならここで十分』

 

 ――それはつまり、一月以上に渡るサバイバル生活をするということ。


 それだけ聞くと大したことはないかもしれませんが、意気揚々と転生した直後に何の楽しみもない湿気た廃墟生活を続けることを良しとする方はあまりいません。

 また、一度始まりの森から出てしまうと強力な門番が邪魔をするため戻ることはできません。


 結果的に、町まで直行、あるいは少しだけ廃墟で生活して飽きたら町に行くというのが普通の転生者の行動となっています。


 このチュートリアルと呼ばれる行為を完遂した転生者は、他の転生者より遥かに死に難いとされています。


 単純に最低限の体力や筋力、技術を獲得していることもあります。転生直後は体格に関わらず一様に貧弱。しかし何より精神面です。

 功を急がず、過剰な自信を持たず、状況を冷静に分析できる。冒険者には必須とされる能力。

 これらを養うには、逃げ回るコケを狩るのが一番なのです。


 

「あーっと、ある程度はタダで情報を教えていただけると聞きました。よければタダで教えてもらえるものは全て教えてもらいたいのですが、そういったことは可能、えっと出来ますでしょうか?あ、いや汚いしまずは宿で綺麗にしてからですかね、まずは宿を……いや金か、えっと……」


「ふふふ、大丈夫ですよ。確かに汚いままはあなたにとっても嫌でしょうから、まず宿を紹介しますね。料金は後払いも出来ますから、安心してください。

 古着ですが綺麗な服も用意されますので、ゆっくり身綺麗にしてからまたお越しください」


 宿の場所を地図を見せながら丁寧に教え、この男性を見送ります。


「お父さーん、四十分後くらいに個室行くかもー。閉めとくー?」


 説明が長丁場になると踏んで、店内左奥にある個室を使うことをガラディに伝えます。当然受付が空くことになるので、ガラディの都合が悪ければ一旦店は閉めることになります。


「おー、りょーかーい。店にいるからとりあえず開けっ放しでいいぞー」


 この手の「無料なら全部教えて」という説明は、有望な転生者には求められることが多いので最初から個室に資料が用意してあります。改めて準備が必要なわけではないので、サンディはのんびりと待つことにしました。


 

 サンディの予想通り、三十数分後に先ほどの男性は再びやってきました。店と宿の往復時間が二十分、宿の説明が五分、シャワーと着替え等で十五分の予想です。

 烏の行水か、はたまた駆け足だったのか。どこかでタイムを縮めたようです。


 早速男性を個室に案内します。冷たいお茶とメモ用紙、ペンも用意してあげます。


「あ、何から何まですいません」


「いえいえー、では早速いきましょうか。先に一通り話してしまいますので、質問はその後お願いしますね♪」


 貪欲に無料情報を全部要求しながらも腰の低い態度に微笑みながら、説明を始めます。

 いつも通りに転生者の扱いや立ち位置、この町で出来ることとやるべきこと、金銭のシステム、冒険者になる場合とならない場合の今後などを話します。


 ペンを走らせているときはそれが終わるまで話を止めるなど細かい気遣いを見せながら、一度にしては多い分量を話し終えました。


「一応、概要は以上になります。再度説明が欲しいものや、詳細が気になったことがあればどうぞ。冒険者業に直接関わることは有料のものが多いのでご了承くださいね」


「了解です。えっとまず、あまり関係ないかもしれないんですが、最後に言っていた冒険者にならない人って結構いるんですか?

 思い違いかもしれませんが、冒険者になるために転生してる人が多いと思うので」


「いえ、基本的にはその通りです。皆さん冒険者になろうとしますし、冒険者にならないと言いつつも冒険者業を平行して行うことが殆どです。

 説明をした意図としては、最初から冒険者をやらずに普通にこの世界で生活をして、準備をしっかりと済ませてから冒険者業を始めた方が良いからです。生存率が圧倒的に違います。ですので最初は普通の定職に就くことをお勧めします」


「あー、なるほど」


「あとは、冒険者をやっていてもどこかのタイミングで辞めて定職に就く方が大多数です。パーティが壊滅したり本人が死にかけたりで挫折して、という流れですね」


「確かに、ありそうな話ですね。話を聞いていると死亡率がえげつなさそうですし」


「転生者の生存率については、転生元世界の事情や神様の意図でかなりブレがあるので厳密には意味がないんですよね。ただよく言われるのは、最初の五年生存率が五パーセントという話です。」


「生きるだけで二十人に一人ですか……」


 この男性に関していえば、チュートリアルを真面目に終わらせた時点で既に一つの大きな山場は乗り越えており四人に一人くらいにはなっています。

 ですがそれを伝えて調子に乗りでもしたらやっぱり死んでしまうのでサンディは言いません。


「あくまで目安ですけどね。しかしどれだけ確率が低くても冒険者を目指さないだけでその仲間入りができます」


 冒険者は大体死ぬというシンプルな事実を突きつけます。


「簡単にまとめてみると、湯水のように湧いてくるくせに個々の転生者は主人公気取りで自信満々。態度もでかくなり町としては迷惑、ルールを守らない犯罪者も多い。勝手に死んでいくし処刑される人もいて生存率は極端に低い。素直に一般人として生活すれば普通に暮らせる。こんな感じでしょうか」


「うーん、正しいとは言えないのですが間違っているとも言えませんね。その認識で問題ないかと思います」


 お客様である、男性転生者は考えます。厳しい世界なのだなと。

 転生前の世界では「新しい世界では何でも出来る!君の夢を掴み取れ!」なんて宣伝文句があったのですが、そんな明るい雰囲気ではありません。

 

 何より、この「みんな死ぬよ」と笑顔のままで説明するサンディの姿を見て、本当に死が近い世界なのだと納得が出来るのです。

 本人はただの営業スマイルのつもりですが、意図しない方向で効果を発揮することもあります。


「犯罪者は躊躇うことなく処刑するみたいですが、人道的な話を置いておいても人材と考えるとあまり良い選択とは思えないんですが、ここら辺って何か事情があったりするんでしょうか」


「そこをしっかりと説明する場合は有料ですね。初心者割りもないので五万Eになります。言える範囲としては、人材未満だから人材ではないって感じですかね。

 冒険者を目指さない、あるいは本当に冒険者として認められるレベルになって初めて人材と認識されると思ってください」


「ああそっか、そもそも人じゃないのか」

 勝手に湧いて出てくる転生者は。


 男性は腑に落ちたというように、ふむと小さく唸ります。


「えっと、勘違いしないで欲しいのですが私はあなたを人だと思って話ていますからね?でなければお茶を用意したりしませんよ」


 不服そうにサンディは、可愛い顔をしかめます。しかし男性は既に、サンディの言葉を素直に受け取ることはやめているようで、言葉の裏を考えます。


「いやあの、冒険者にそういう状況を考える能力は大事だし素敵なことなんですけど、大丈夫ですから……町ぐるみで嵌めたりとかしてませんからね?」


「あー、なんかすいません。そういう物語が好きなもので」


「私が言っても意味がないかもしれませんが、仮にもここは始まりの町と呼ばれる場所なので、陰謀とか暗躍とかの心配はしないで良いかと思います。良くも悪くもこの町で何かしようとしても、大したお金になりませんので……」


「いや、ほんとすいません」


 別に今のやり取りでサンディを信じたわけではありませんが、今疑ってかかる意味もないので男性は平謝りです。サンディも諸々を理解した上で話を進めることにします。


「いえいえ、質問がこれ以上なければお仕事の話をしても良いですか?」


「仕事?」


「はい。まずはあなた自身の宿代を"確実"に返す必要がありますから。現在の空きがある仕事を紹介しますね♪」


 暗に狩りなんてやってる暇は無いぞと告げているのです。


 やっぱり一筋縄ではいかない世界だなと、男性は頭を抱えました。

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