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素敵な異世界の情報屋さん  作者: なのった
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転生者

「ふざけんな!俺は転生者だぞ!」


 情報屋でうるさい声が響きます。


「だから何なのでしょうか?」


 困った顔のサンディ。眉間にしわを寄せる顔も守ってあげたくなる可愛さがあります。人差し指を頬に当てるポーズもキュートです。


「すぐに俺は強くなる。こんなところで二の足を踏んでる場合じゃねえんだよ。お前も今のうちに恩を売っといた方が良いぜ、分かったら早く情報を寄越せ!」


 この店に来る転生者に少なくない、困ったちゃんです。もっとも、ここまでコテコテの人は珍しいかもしれません。


 もとより最初に行きつくこの町では何も知らない人が多いのですが、転生前に随分と都合の良い物語を読んだのか、自分が特別な存在だと思い込んでいる方たちが存在します。

 一度転生してしまうと元の世界には基本的に戻れないので、こちらの情報は中々手に入らないためしょうがない面もあるかもしれませんが、自分の都合をサンディに押し付けられても困ってしまいます。


 初心者さんを援助するために最初に必要な金策や宿の確保方法はタダであり、最弱魔物の倒し方などは格安で提供されています。しかし、血気盛んな転生者は有り金が無いにも関わらず、まず一攫千金を狙えそうな魔物やダンジョンの情報を聞きたがるのです。


「それほどすごい能力をお持ちでしたら、パパっと金策を済ませてはいかがでしょうか?」

「ざけんな、バイトなんてやってられっかよ!」

「体幹を鍛えるためにも良い運動になりますよ?特に荷運びに関しては町の施設を知るためにもお勧めです」

「は!?なめてんのかてめぇ!」


 そう言い、男は腰ひもに止めてある石のナイフに手を伸ばし――意識を失います。


 サンディの手刀が脳天に刺さり、気を失ったのです。徒手空拳のちょっとしたスキルです。最弱モンスターより遥かに弱い男は下級冒険者レベルのサンディに遠く及びません。


「はぁー。しょうもな。どんだけ気が短いんだよ」


 吐き捨てるサンディはだらしなく机に突っ伏しながら詰め所に連絡を入れます。営業向けの表情を辞め、暴言を吐き捨てます。


 間もなく、町の衛兵が倒れた転生者を引き取りに来ました。


「お疲れ様です!」


 衛兵は店に入り、はきはきとサンディに敬礼をします。


「ご苦労様です。そちらをお願いします」


 机と一体化するかのように机にへばり付くサンディは、姿勢を戻しながら衛兵の足元に転がっている男性を指します。衛兵は敬礼を解き男の状態を確認。「前金です」とサンディに千Eを渡し 男を担いでさっさと帰ってきました。


 このお金は、要するに犯罪者を捕まえた時の報奨金です。最低額が五千なのでまず千。尋問等で身元の確認を行い、場合によっては追加が後日支払われるというシステムです。今回の男はただの馬鹿なので追加はないでしょう。

 報奨金は犯罪者の強制労働により町に補填されます。この時に反抗し労働を拒否すると、更生の余地なしとみなされ処刑されることとなります。誰も犯罪者を養いたいとは思いませんし、その余裕はないのです。


 あくまでこれは始まりの町『コーメンツ』のルールであり、他の町ではまた違った処罰があります。因みに国という括りはこの世界ではあまり機能していません。

 『コーメンツ』は最初の町ということで転生者が次々にやって来ます。そんな湯水のように湧いてくる者の中に混じる汚れに街の住人は興味がなく、命の価値はとても低く見積もられているのです。


「んー」


 サンディは得た収入を思いなんとも腑に落ちない表情をします。


 ハッキリ言っておいしい収入です。十分足らずでまるまる利益になるのでとても素敵なことなのですが、理由が理由なのでサンディも素直に喜べません。

 サンディはそもそも、家業ではありますが冒険者に憧れを抱いて情報屋になりました。今でもその気持ちはありますが、今回のような馬鹿が多く内心は複雑です。


「なんだ、どうかしたか?」


 父、ガラディが店内の張り紙を変えに来て、ついでに声を掛けました。


「馬鹿を衛兵に回収してもらったとこ」

「あー。すまんな」


 そう答えるガラディ。他の町ではこういった馬鹿が少ないため、店の場所をここに定めたことに若干の後ろめたさがあるのです。


「いいって。儲けになるんだし」

「まーな」


 情報屋は特別儲かる仕事ではありません。そのため副次的な収入はとても助かるのです。ここではそういった収入が多いため、情報屋としては中々安定した稼ぎが出来ています。




カランカラン


「いらっしゃい」「いらっしゃいませー♪」


 店内には誰もいなかったため作業をしながらも親子で雑談に興じていたのですが、新たなお客様がやってきたためすぐに切り替えます。


 今回も先ほどと同じで転生ホヤホヤ、初期装備に身を包んだ可愛らしい女の子です。


「こんにちはー。えーと、まずは転生者について、を聞けば良いんでしたっけ?」


 自分が欲しい情報が何かを情報屋に聞く。という、なんとも不思議な状況ですが、よくあることでもありサンディは流れるように対応します。


「優しい方に出会えたようですね。状況は理解しましたので説明を始めさせていただきますね」


 この町であからさまに何も知らない転生者を見つけたらどうするのか。


 答えは「面倒だし問題を起こされても困るので情報屋に丸投げする」です。

 親切な方は聞くべきことを先に教えてあげたりもします。つまり今回はそのパターンということ。


 サンディはまず問題を起こさぬよう多少脅しの意味も込めて、この町における転生者の扱いから説明します。

 狩りをする実力がなく、真面目に働く意思もなければ人権がほとんどないということ。強気な行動は簡単に犯罪と扱われてしまうことを。


 まともな感性を持っていた女の子は眉間にしわを寄せながら真剣に耳を傾けます。


 次に冒険者について話し始めます。

 冒険者の中にはもちろん成功者もいるが、彼らはほんの一握りの成功者であり同じようになれると思わないこと。無謀な挑戦により毎日多くの冒険者が亡くなっていること。

 まるで、冒険者になってはいけないと言い聞かせるかのように話します。


 その後もこの新人のためになりそうなことを一通り説明しました。

 最後に今度は女の子側からの質問を聞くと、やはりというかこう訊ねられました。


「冒険者がとっても大変なのは分かりました。どうやれば安全に冒険者になれるのでしょうか」


 もちろんサンディは質問に対して話せる範囲で答えます。変わらぬ表情を保ちますが、内心は気落ちしています。



 話が終わりお礼の言葉を告げ退店する女の子に、サンディは笑顔で手を振ります。


――また来てくれるように

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