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素敵な異世界の情報屋さん  作者: なのった
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素敵な情報屋さん

「いらっしゃいませ♪」


 サンディはいつものように、素敵な笑顔で冒険者を迎えます。


「ど、どうも」


 冒険者は思わず照れてしまいました。女性慣れしていないのでしょうか。いや、慣れていたとしてもしょうがないかもしれません。

 風が心地いい朗らかな日に偶然奇麗な花を見つけたかのような、ちょっとした幸運を拾った気分にさせる良い笑顔です。


 完璧な営業スマイルです。


「あ、以前もご利用ありがとうございました。また来ていただいて嬉しいです♪」


 実際に女性慣れしていなかった冒険者はイチコロです。こんな素敵な人が自分のことを覚えていてくれたのです。もしかして気にしてくれてるんじゃないかと勘違いしちゃうのも仕方のないことです。もちろん本当に勘違いです。


「覚えててくれたんですね、嬉しいな」


 いいえ、全く覚えていません。もともとサンディは興味のないことに記憶力を割く方ではありません。

 しかしながら、サンディは父が経営するこの情報屋に長く勤めてきました。客が一見さんかどうかは入店した時の態度でなんとなく分かります。


「もちろんですよ!忙しくて大変ですが、こうしてお話し出来るのがこの仕事の良いところですから!」


 胸の前で両手の指の腹を合わせる女の子っぽいポーズをとります。見方によっては気功法の構えにも見えます。因みに、自然に仕事が忙しいという情報を出しておくことで何かに誘われても断るときスムーズにいきます。ちょっとした知恵です。


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 先ほどの言葉から「あなたとお話し出来て嬉しい」と冒険者は受け取りましたが、客観的にはすぐに用件を聞くあたり、お金になる話が嬉しいのだと容易に察することが出来ます。こういうことは得てして当人は気付き難いものです。


「えっと、グリンピッグを倒すのに慣れてきたから次はどうしたらいいのかなって。」

「もう慣れたんですね!すごいです!」


 「もう」もなにも、そもそもいつから狩りをしてたのか皆目見当も付きません。


「グリンピッグの次はシンプラウッディアンやサルティラビットとかですね。何にせよ狩場を選んだ方が良いモンスターになります。こちらの詳細は一万Eですかよろしいでしょうか?」


「は、はい。」


 初心者冒険者にとって一万Eは決して安くはありません。グリンピッグを普通に倒しているだけなら、一日辺り収入は二千Eです。宿代は一日三千Eですので、必然的に無理をしたり狩りではなくバイトをしてなんとかお金を貯めたはずです。

 ただ、これは初心者冒険者の稼ぎが極端に悪いだけで、本来こういった詳細なデータが一万Eはむしろ安い値段です。低レベルなモンスターの話だからこその価格なのです。この程度払えないと思われたくない哀れな冒険者は断ることができずに購入を決定してしまいました。


「はい、ありがとうございます♪」


 サンディは返事を聞く前にお金をもらう準備をしていたので、冒険者が名残惜し気に出したカードから一瞬でお金は引き落とされてしまいました。こんな程度渋るわけないよね?と態度に表すサンディは冒険者の顔なんてどこ吹く風。


「では実際の狩りについてですが……」


 事細かく、各狩場の利点や条件を提示していきます。ここら辺は流石プロといったところでしょうか。淀みなく正確に情報が開示されます。

 暗に「お前の実力じゃまだ無理」という事実もしっかり伝わっていることでしょう。そもそも、グリンピッグを順調に狩れているならば自然と同じ草原に出現するウッディアンやサルティラビットと戦闘になるはずです。それがないということは、町から見える範囲でおっかなびっくり狩っていることになります。

 最弱のグリンピッグ相手にそのレベルで、見得なんだか馬鹿なんだか分かりませんが次を聞いてくる。サンディは完全にこの冒険者を見下すことにしました。もちろんお客様からそんな心情は分かりませんが。


「以上です、何かご質問はございますか?」

「はい、大丈夫です。」


 何が大丈夫なの?と言いたい気持ちをサンディはグッと堪えて笑顔で「流石ですね♪」と適当に褒めます。

 この冒険者はこの後どうするつもりなのでしょうか。一人で説明を聞きに来たということはソロということです。ソロでの冒険者活動は極めて効率が悪いのです。今回説明した狩場に行くまでにどれほどの期間を掛けるつもりなのでしょうか。

 その時まで今回の情報を覚えておけるのでしょうか。何一つ大丈夫なわけがないのです。


「ちょっと良いか?」


 話が終わったと同時に店主、つまりサンディの父親がサンディを呼び寄せます。

 すごく、とてもすごく残念そうな顔で冒険者に謝りながら、サンディはカウンターを離れ裏へ消えていきました。

 冒険者は少しの間、すぐ戻ってくる可能性もあると思ったのか何となく席から動きませんでしたが、しばらくしてもその気配が無かったので帰っていきました。


 もちろん、わざとです。カウンターの裏にあるボタンを押して合図し、父親に声を掛けてもらえるようにサンディがお願いしたのです。裏ではちょっとお茶をしていただけです。



 サンディを性悪女と言う者は一定数います。しかし、それは先ほどのような身の程知らずの転生者達が殆ど。彼女は誇りを持って、転生者が最初にやってくるこの始まりの町『コーメンツ』の情報屋で働いています。



 ――転生者

 それは文字通り、他の世界から元の人生を捨てこの世界『キオ』に転生してきた者達を指します。

 転生は各世界にある窓口を通して自分の全てを支払い意図的に行うこともできますし、直接『キオ』の神様が勧誘に来ることもあります。勧誘は交渉をスムーズに行うために死ぬ直前に来ることが多いとのことです。


 転生が行われると前世と似た新たな体が生成され、一般的な青年の身体能力から新たな人生を歩むことになります。

 王族や神聖な一族に生まれるとか幼少期から天才として成長するなんてことはありません。もちろん特典として最強のスキルや武器が渡されるなんてこともありません。

 平等に一般人スタートです。


 ただ、転生である以上前世の記憶は当然引き継いでいますので、そこで差が生まれることはあります。

 また転生で多くの人が望む新たな容姿や能力、その他諸々は後天的に得ることが出来ます。生まれ云々もやり直すことが出来ますが、あまり利点が無いのでまず使われることのないシステムです。


 転生者は『キオ』で相応の努力をし、以前の世界では「才能」だの「生まれ」だので得ることの出来なかったあれこれを手に入れていくのです。

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