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親子ピアノ奮闘記

作者: ガンダム

『軽井沢へ』

軽井沢は満天の星空だった。

我々は下りたばかりの北陸新幹線を見送ると、改札口へと急いだ。綺麗な星空を眺める余裕もなく

我々はホテルまで急ぐことにした。

行きすがらやはり街灯はなく、淋しさを匂わせる。そんな中、曲がり角を曲がったところにホテルの灯りが見えた。

明日が本番である。ホテルに到着するや否や、我々は到着した疲れを癒す間もなくピアノの練習を始めることにした。式場は別館にあった。

40人位が入れる会場で既に準備は整っていた。テーブルクロスが敷かれ、大部屋にいつ料理が運ばれてきてもおかしくない状態になっていた。各テーブルに名札が設置されており、引出物も既に準備がなされていた。

妻はそんなことはお構いなしに明日の本場に向けて、本番で使うピアノに一直線に向かう。一方で長女はというと、日頃見慣れない、我々以外誰もいない大部屋をところせましと走り回る。私はというと、初めて見る結婚式前夜の誰もいない披露宴会場に見惚れている。

長女に走り回るのをやめさせ、ピアノの練習に専念させたい気持ちもある一方で、こんな面白い空間は初めてだろうし、はしゃがない方がどうかしている、と長女の行動に妙に納得してしまう自分もいる。

いよいよ見兼ねた妻が長女を呼びつけるが、やはり鬼ごっこをやめようとしない。しかし走り回るのに疲れたのか、ようやくピアノの椅子に座った。

この日は30分くらいで練習をお開きにするよう、事前にホテルから言われていたのである。私は内心焦りながら、本番を想定した練習を開始する。

遂に明日だ。目前に迫った本番に対する緊張感と久しぶりの親子旅行の嬉しさで複雑な心境であった。


『何気ない会話』

甥の結婚式が軽井沢に決定したのは半年くらい前に遡る。甥の母である私の姉が宿泊代はもとより交通費も全てもつという。親子3人で軽井沢旅行も悪くない。ただ、全て無料で旅行を楽しむだけ、というのも気が引ける。

「軽井沢にタダで行けるお礼に披露宴でピアノを演奏してみないか。仕事だと思って。」

全ては私のこの言葉から始まった。

私のこんな他愛もない問いかけに長女は即座にイエスと答えた。妻も乗り気になっていたのが意外であった。

「好きなだけ演奏すればいい。30分くらい使ったっていいんじゃないか。」

私のこのいい加減な言葉に長女はすっかり乗り気になっていた。そしてこれらのやりとりが物語の始まりであった。そしてピアノと奮闘する日々が始まっていくのである。

日中は何かと忙しく、夜が専ら練習の時間となった。妻の叱咤激励の日々が始まった。妻も結婚前は、趣味であるピアノをたまに弾いていた程度だと思うが、毎日毎晩練習が始まった。

そのうち私も加わり、親子3人の空間が出来上がった。

本番はあっという間にきた。司会者に呼ばれ、私にマイクが渡された。1曲目は長女が弾き、2曲目は妻が弾いた。3曲目の『虹』は希望に胸膨らむような曲で、笑顔になれる曲と紹介したにも関わらず、会場は皆真剣な眼差しで聴き入っている様子だった。が、私は満足だった。これは新郎新婦に対する贈り物ではなく、私へのプレゼントだとその時思った。

帰り際、軽井沢駅で地元のボランティアから花がプレゼントされた。聞けば子供達に配っているという。我々はまるでその花が演奏のご褒美かのように、希望の一輪を手に帰路に着いた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 夢がある小説ですね
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