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第七十話 カナン


 「ユウジさん。雨が降りそうなので早めに宿に入りませんか?」


 薄暗くなってきた街の店頭には魔灯が灯り始めている。

 ユウジがいた世界の、ちょっとした横丁の雰囲気にユウジが浸っていると、ロゼが空を見ながらユウジに話しかけて来た。


 「そうだな、降りそうだから宿に行こうか」


 無事にカナンの街に入ったユウジ達は、商隊護衛の任務を完了していた。 

 商隊責任者のロズナンにサインを貰った護衛依頼書を、冒険者ギルドに提出すれば護衛任務は完了する。

 時間的に今日やらなければならない事は無いようだった。

 予定よりも二日早く町に着いたが、ユウジ達が泊まる宿はユウジ達がカナンを発つまで確保されているので泊まれない事態にはならない。

 それもこれも全てシレミナ様が商会を通して命じられた計らいだった。

 

 「あ、ユウジ。俺は少し出歩いてくるわ」

 「……わかりました。」


 ユウジの返事にジャンがつまらなそうな眼差しを向ける。


 「なぁユウジ……たまにはお前も「行きません!」……」


 ロゼがジャンを睨む。


 「……あのよロゼ。ユウジもそろそろ遊びを覚える年だろ?いや、むしろ遅いくらいだ」

 「いりません!」

 「しかし「いりません!」………んー…そうか…」

 

 ジャンは頭を掻きながらユウジに手を挙げそそくさと繁華街に消えて行った。

 ロゼがユウジを振り返りじっとユウジをみつめる。


 「…ユウジさんは……そう言う遊びをしたかったですか?」


 (ストレートに聞いてきたな…)


 「別に今はしたくないけど、当然興味あるよ」

 

 "そ、そうですか"と言うと、ロゼは背を向けて歩き出す。

 たまには意地悪でもしてやるかと、ロゼの背中に声を掛けた。


 「ロゼは興味無いのか?」


 ユウジの質問にロゼが赤面する。

 男を知らないロゼの反応にユウジは内心ニヤニヤするが、顔には出さない。


 「…ありますが……そ、それより早く宿に行きましょう…」


 了解と答え宿に続く道をロゼと並んで歩き出す。


 カナンと言う町は国境に面した巨大な町で、国境都市とか交易都市とかの呼び名で知られている。

 国境を越えた国はタティラ共和国なので、越境自体難しい手続きは必要は無い。

 但し、やはりと言うか犯罪者等はその限りでは無い。


 町を貫く道は王都よりも道幅は狭い。これは、もしもの時に大軍の進行を阻止する為なのだろう。

 その辺りはやはり他国への窓口を担う街の造りだ。


 (確か街の人口は二万人近かったよな)


 道を行き交う人は多種多様な種族。

 王都よりも幅広い人種が行き交っている。


 少し前を歩くロゼがユウジを振り返る。


 「ユウジさん。どうやらあの宿みたいですね」


 そう言って指差す宿を見たユウジの歩みが止まる。


 は?……あれは宿なのか?宿と言うより城……


 「モーズラント商会の紹介だから高級だろうと思ってたが…あれは…」


 ユウジの反応にロゼが微笑む。


 「この町には依頼で何回か来てますが、あの宿は有名です。何と言っても王族も逗留する宿ですから」

 「まじか……王族とかは領主館とかに滞在するんじゃ無いのか普通は…」

 「普通はそうですが、ここの領主は質素を信条としてて……言いにくいのですが領主館はかなり古びてて…」


 ユウジは更に驚く。


 いるのか……そんな領主が……確かに気難しい領主と聞いてはいたが、これは相当な人物だな。


 「ロズナン伯は平民出の貴族ですから 余り華美な生活を好まないらしいですよ」


 成る程…御立派だが、ロズナン伯の部下はどうなんだろうか?部下の中には成り上がり、それに見合う生活を夢見る者もいるだろう……上司がそれだと不満が出ないのだろうか?


 「…ロゼ。この街の治安はどうなんだ?」

 

 ユウジの質問にロゼが顔を曇らせる。


 「余り良いとは言えませんね。ロズナン伯の元、警備はかなり厳しく行ってますが、国境都市全般に言えることですが……あまり良くないですね」


 だろうとユウジも納得する。上が余り厳しいと、それに耐えられない者は地下に潜る。良くある構図だ。


 「特に有名なのはカナンにあると言われる密売グループや暗殺集団ですね」


 密売グループはわかるが、暗殺集団って…

 

 「……そんなに有名なら直ぐに摘発されるんじゃ無いのか?」

 「いえ、噂にはなりますが摘発された事は一度も無いみたいですね…」


 (…そうなると、権力者側に内通者がいる可能性が高いよな…)


 「まぁ…数日しか逗留しない街だから多分問題は無い…だろう」


 ユウジとロゼがそのバカでかい宿の前に立つ。


 「でけー…」


 ユウジの正直な感想にロゼが笑い、宿のドアを開く。


 眼の前に広がる豪華絢爛な風景。


 「……なあ…そのロズナン伯とかは、この宿に何か思うところ有るんじゃ無いのか?これは…」

 

 流石のロゼも顔面がひくついていた。


 「これは……確かに凄いですね……私の感覚的には趣味が悪いとしか…」


 ロゼの素直な感想にユウジも肯く。


 余りにも酷い(笑)

 調和もへったくれもない酷い景色だ。確かに一品一品は高価な物だと分かるのだが、調和が…


 確かにいたよ。元の世界にも。


 一代で成り上がった社長の自宅に招かれた時に、たまにこのような風景があった。

 

 (いや、本当に勘弁してほしい……落ち着かんだろこれは…)


 この宿に少なくとも一週間は滞在しなければならない未来に、ユウジは苦虫を嚙み潰したような表情をするのだった。

 

 

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