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第六十六話 結末の風景


 世界は完全に静止していた。

 

 ユウジが辺りを見渡せば、停止ボタンを押された動画の様に全てが静止していた。


 視線を光る人形(ひとがた)に向ける。


 「……何だこれは?あなたの仕業か?」

 《そう。少しだけ君等の戦いに介入させて貰うよ》

 (……何者なんだ…)

 《創造主とか、神とか…どんな呼び方でもかまわないよ》


 声に出さぬユウジの疑問にそれは答えた。


 「神……神たま……」


 ユウジの言葉にそれは首を横に振る。


 「ああ…君の言う"神たま"とは違うよ。…そうだな…彼ら"神たま"は僕と君の中間の存在かな?」

 「………菩薩みたいなものかな…」

 《ああ、日本人らしい良い例えだね》

 「……………………」


 "そんなに深刻に考えなくても言いよ"とそれは言った。


 《ともあれ、今君が今やろうとした事。そのまま続けると色々問題があってね。少し介入させて貰うことにした》

 「……続けるとどうなりました?」

 《世界そのものが別次元の世界と混ざっちゃうだろうね》

 

 ユウジの求めた結果に対し、結果を現出する為に必要なエネルギーがその場にない場合、必然的にエネルギーが存在する不特定な場所から流れ込むと言う。

 

 《僕は今のこの世界の在り方が気に入ってるんだよ》

 

 別の次元の世界と言えど、全くの無関係ではない。

 幾千幾万の世界を内包する巨大な包括世界…

 ユウジには想像も出来ない数の世界が存在するが、実際に一つの世界に影響するのは三世界だと言う。


 《この世界、君が居た元の世界。そしてもう一つの世界が互いに影響を与え合ってるんだよ》


 でもね、と"それは"言う。

 

 ユウジが今行う手段は"今の段階では早い"そうなのだ。

 

 《だからね、今は君に都合の良い手助けをするよ。これは、君等の事を思ってとかじゃ無くて、単に僕の都合だから気にする事は無いからね》

 「神にも都合とか有るんですか…」

 

 "それ"は笑いながら静かに言う。

  

 《君が考える神とは違かったかな?当然僕にも都合が有るんだ。君と余り変わらない存在だと思うよ?君が思う神は確かに存在するけど、意志は無いと思う》

 (……成程……)


 《では、そろそろ終わらせようか…》


 そう言うと光る人形は霧散してユウジの周りに粒子状になりながら漂う。


 鳴りを潜めていたフェニルがユウジに語りかけてくる。


 《ユウジ、さっさと終わらせよう》

 (ああ、…さっきまでフェニルと連絡つかなかったけど、どうしたんだ?)

 《んー分からない。突然意識が無くなったみたい…変だよね?》


 (神と何がしらの作用的なものなのかな…)


 考えて分かるものじゃ無いな…

 ユウジはニヤリと笑う。


 会社勤めだった頃の自分と物の捉え方や、決断力の早さが変わって来ている自分がいる事が何故か楽しかった。

 確かに仕事一筋だった自分も人より決断力が早かった自負はあった。

 だが、今程では無い。


 (いい加減…では無いな。常に命が掛かってる訳だし…)


 日常的に命の危険がある世界に生きている人間の凄味が、今確実に実感出来ている。

 

 「片付けようかフェニル」

 《うん、何か今なら簡単に行けそうな感じがするの》


 ユウジは結果を思い描く。


 ユウジの周りに漂う粒子がユウジの中に取り込まれた瞬間、時間の停止が解けた。


 化け物はユウジの前方二十メートル程の場所にいる。


 (……悪いな…あんたに恨みは無いがこのままじゃ駄目だよな…)


 結末は一瞬。

 

 あまりにも突然の事に、今迄戦っていた冒険者や騎士が啞然として辺りをキョロキョロと見渡していた。

 燃える炎も爆発も無く、ただ化け物は居なくなっていた。


 街は不気味なほどの静寂に包まれている。


 「ユウジ!ちょっと説明しろ」


 ジャンがユウジに呼び掛けてきた。


 ジャンの前に降りるユウジ。


 「お前だよな?」

 「はい、多分」


 どう言う事なのかと問われたユウジは事のあらましをジャンに説明すると、ジャンは深い溜め息を吐いた。


 「今度は神様かよ……お前どうなってんだ?」

 「知りませんよ。どうやら神には神の都合があるみたいで、逆の立場なら俺達が消えてたでしょうね」


 まだ辺りを警戒している冒険者や騎士等を見ながらジャンは考え込む。


 「奴等にどう説明すんだ?まさか神様が助けてくれましたなんて言えるか…な?」

 「どうですかね…神の概念自体、どうなっているのか俺には分かりませんし…ロゼさん等が使ったと言う原初魔法で…て言うのは都合良すぎますかね?」

 「……うーん…まぁそれが無難か…しかしユウジ。お前の使った力はいつでも使えるのか?」

 「無理だと思います。今回はロゼさん達の原初魔法の効果があったのと、その大半は神とやらの力で成したので…それに、この方法は今の俺に扱える領分では無いから神から"使うな"と釘をさされました。仮に同じ事したら今度は俺達が消えるかもしれませんね」

 「こえー!お前絶対使うなよ」

 「使いませんよ。多分使えないですしね…今はね…」


 ジャンがユウジをチラリと睨んだが、何も言わなかった。


 「さて、終わった終わった。皆に説明して一杯飲みに行こうぜ!」

 「死んだん人の供養が先では…」

 

 "そんなの後々"とジャンが歩き出す。


 (…そうだな…先ずは生きてる者の慰労が先だよな…)


 ユウジは顔を上げジャンの後を追うのだった。



 生き残った者の馬鹿騒ぎは翌朝迄続き、その日の夕刻にはメルカス伯爵から王国再建の方針が発表された。



 マリの中央広場に死者を弔う巨大な焔が上がっている。

 

 騎士達は静かに黙祷し、冒険者は各々に死者を送り酒を呑む。


 壊れかけたベンチにユウジは座り隣に座るロゼの手を握っていた。


 「ユウジさん、ジャンから大体の経緯は聞きました。ジャンの言う通りユウジさんが合った"神"の話は他の者には伏せていた方が良いと思います…」

 「ああ…俺もそう思うよ。色々な意味で神の存在は俺達には重すぎる…しかし"神たま"達もあたふたしてるんだろうか…」

 

 神を目指す"神たま"達を思うと、何故か笑みが浮かぶ。

 誰もが上を目指している。

 いや、神はどうなんだろうか?

 神にも都合があると言っていたから、やはり何かを目指しているんだろう…

 他領から続々と運び込まれる援助物資で寝る所や食べ物は困ってはいない。

 明日になればアネリア女王を筆頭に街の再建が始まるだろう。

 ユウジは隣に座るロゼの横顔をみながら話す。

 

 「…ロゼさん明日メルカス伯爵との面会後直ぐにでもこの国を出ようと思う」

 

 炎に照らされたロゼがユウジをふり向き綺麗な笑みを浮かべる。


 「ええ、タティラに向かうのね?」

 「ああ」

 「私は何処へでも構いません…それと、今後の事ですが"ロゼさん"は他人行儀過ぎますから"ロゼ"と呼んで欲しいですね」

 

 ああ、そう言えばそうだな と、ユウジは肯く。


 大人なジャンとバロンドは遠目で初心な二人を見ながら酒を飲みながら死者を送っていた。


 


 マリの外周に設置された巨大な仮設テントの中でユウジ達はメルカス伯爵達と向かい合っていた。


 「今回の事、意外にも大きな被害を出してしまった。よもやルーデンスという稀代の天才が絡んでくるとは思わなかったのが原因じゃな…」

 「いや、あんな居るかどうか分からない奴を想定出来ないって」


 ジャンが気さくに笑い、重い空気を和らげる。

 こういった人の雰囲気を和らげる才能と言う物は天性なのではなかろうか?とユウジは思う。

 経験で人の顔付きが変化するのは分かってはいるが、ジャンの域に達するにはまだ、ユウジは遊びが足りないのかな?と思わないでもが無いが、ロゼさんの手前女遊びだけは控えようと決意している。

 

 モーズラント商会は王国の管理下に置かれ、現在はメルカス伯爵の肝いりの引退した騎士が管理しているという。


 イネリア様や女王となったアネリアとも面会した。

 

 アネリアに初めて合った時に感じた感覚…

 あの時から変わらないこの感覚こそが生まれ持った品格なのだろうか?

 ユウジ自身、努力や根性を常に意識して生きて来たし、"継続は力なり"を信じていた。

 実際、それで出世もして来たのだが、多く人と出会い 話を聞くにつれ、ひょっとしたら生まれ持った才能と言う物が有るのでは無いだろうか?と思わずに居られない人物もいた。

 環境は確かに人に多大な影響を与えるだろう。

 だが、本当にそれだけなのだろうか…

 遺伝とか人の想い等……


 華美なドレスでは無かったが、ユウジの目の前に立つアネリアは正しく女王としての雰囲気をユウジに与えていた。


 「ユウジ様。この度は御尽力有難うございました」

 「いえ、俺にも色々事情が発生したので、そんなに気に為さる事は有りません」


 自分がどういった血筋なのか分かっていたアネリアは、女王と言う立場になっても今迄通りに振る舞っている。


 (まぁ内情は色々気苦労もあるだろうが、後見にメルカス伯爵がいるなら安心だな…)


 メーガン伯爵によればユウジの作った巨大な亀裂に阻まれ、軍を撤退させたという。


 (……今回の辺境伯との戦い…あいつも見ていたのかな…)


 敵となった長峰の事を考える。


 ("神たま"にメールで聞いとかなきゃな……あと、神の事も)


 この国の事はアネリア達が何とかすべきだろうし、冒険者のユウジに出来る事は余り多くはないし、ユウジは関わるつもりも無かった。

 

 "余り多くはありせんが"と報酬を受け取ったユウジ達の懐具合は潤沢で、バロンド等は待たせている妻や子供のお土産をどうするかなやんでいたのだった。

 


 

 目に映るのは真っ青な空と零れ落ちそうな雲。

 

 「じゃあ俺はサージュに戻る。なかなか刺戟的だったが良いパーティーだったぜ」


 バロンドがニヤリと笑い片手を上げサージュへと向う道を歩き出した。

 

 「ジャンさんは本当にタティラに一緒に行くんですか?」

 「当然!人生常に冒険だよユウジ君」

 「ユウジさん、ジャンのは人生では無くてジャン生ですからね」


 ロゼが白っとした目をジャンに向けるが、口元には笑みが浮かんでいた。


 「旦那さん方、そろそろ出発しますんで…」


 タティラに向う行商人の一団に、ユウジ達は護衛を兼ねながら同行する事になっていた。

 この辺りの手筈はジャンがユウジ達の知らぬ間におこなっていた。

 国中からマリ再建の物資は集まってはいるが、まだまだ足りない状況だ。

 ユウジのカバンの中には、女王となったアネリアからタティラ共和国へ向けての親書がある。

 素早い王国の再建に共和国の助力を求める親書だとアネリアから聞いたユウジは眉をひそめていた。

 他国に助力を求めた場合、国として何がしらの借りを作ってしまうのでは無いか…。

 ユウジの杞憂を察したアネリアは王国と共和国の関係を簡単に説明してくれた。

 タティラ共和国は元々グレイヤード王家の分家が未開拓地を切り開いた領地だったのだが、巨大になり過ぎた領地を纏める為に今から四百六十年前に建国した国だそうだ。

 未開拓地には様々な人種が住んでいた為統一された王政よりも、多種部族の意見を取り入れた共和制を選択したそうだ。

 今日(こんにち)でもタティラ共和国とグレイヤード王国の間には親密な交流がある。


 (ああ、それでシレミナ様が俺に宛てた手紙にタティラ共和国の商人の事を書いていたのか…タティラなら安全だろうと)


 元々は王族だったシレミナがタティラ共和国の内情を知っていておかしくないし、モーズラント商会と言う巨大な商会繋がりでも詳しい国の情報は入っていた筈だ。


 二頭立ての馬車が二十台程連なっていた。

 護衛にはユウジ達パーティーの他に二十名以上の冒険者が脇を固める巨大商隊だ。


 ユウジは一歩踏み出す。

 その脇にジャンが、ロゼが固める。


 ユウジが見たことも無い土地へ。

 長峰雅史の動向は気になるが、彼が生き見てきた国へ歩を進めるのだった。


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