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第六十五話 加持➁


 マリに近付くにつれ体の奥に響く様な圧力を誰もが感じていたが、誰一人として怯んだ顔を見せるものなどいなかった。


 「しっかし、すげー圧力だな」

 「新人の頃ジャイアントアントにかち合った時以来の緊張感だぜ」 

 

 冒険者達は圧力に耐えながらも軽口を叩き合う。

 騎士の一団は黙々と歩き続けている。

 ジャンが冒険者の先頭を歩く貫禄のある男に話し掛ける。


 「あんた、マリの冒険者ギルドのマスターだよな?」

 「うむ、そうだが…お主はロゼ様の仲間か?」


 "ああ"とジャンが肯く。


 「俺達冒険者は基本的に自由だが、ギルドマスターの言葉には一目おく」

 「………………」

 「そこでだ、騎士を纏めるロワンの旦那と俺達で少し話さないか?」

 「……何等かの策があるのか?」

 

 マリの冒険者ギルドマスターの言にニヤリとするジャン。


 「さあな…今サルモンと戦ってるユウジでも長引いてるからな……」

 「…あの少年は君等の仲間かね?」

 「ああ、パーティーを組んでる。序に言うとロゼの未来の旦那だぜ」

 「な、なんと!!……あのロゼ様の…分かったロゼ様に会おう」

 

 マリのギルドマスターはジャンと共にロゼやロワンと合流するのだった。



 

 「……何か肝心な所をぼやかされているが…」

 

 ギルドマスターの言葉に苦笑するロゼ。


 「本当は全てお話したいのですが、原因となる物に関しては、メルカス伯爵やシレミナ様から今はその事(・ ・ ・)に関しては秘匿して欲しいと言われていますので…」

 「……つまり、サルモン辺境伯はマーレ軍と手を組んで王を弑し、序に腐った貴族を滅ぼすのが目的だったが、天才リーデンス・オルタニウスが伯に与えた力が強すぎてあの様な化け物に成り果てた…そう理解してよいわけだな?」


 騎士ロワンの言葉にロゼが肯く。

 ロワンが少し考え込む。


 「……確認したいのですが、サルモンを元に戻す事は…」

 

 ロゼがゆっくりと首を振るのを見たロワンが溜め息を吐く。


 「ロゼ殿、あの化け物に勝つ方法…有りますかな?」

 「わたし達で勝つのは無理でしょうね」

 「で、では……」


 「まぁ普通ならそうなんだがなー。今サルモンの糞野郎と戦ってるユウジって奴が普通じゃないんだわ」


 ジャンがニヤニヤとする。


 「ジャンの言う通り今戦っているユウジさんは普通の冒険者ではありません。ですが、そのユウジさんでも手を焼いてるようです…そこで皆さんの力を借りたいと思います」

 「力……無論そのつもりですが…」

 

 ギルドマスターの言葉にロゼが首を傾げる。


 「力と言っても純粋な武力と言う意味だけでは無いんです」

 「ほう…それは?」


 ロゼは説明する。


 物理系のスキルを得意とする者は、化け物と化したサルモン辺境伯の気を逸らす戦いに始終して貰い、魔法を得意とする者は原初魔法を用いユウジを支援する…


 初めて聞く原初魔法と言う言葉に誰もが首を傾げた。


 「失礼だが原初魔法とは何ですかなロゼ殿…」

 「魔法が魔法として体系化される前に使われていた技術です」

 「それはどの様な効果が有るのですか?」


 ロゼの説明では現在の魔法のセット等のように対象者を中心にガナを集める効果があるようだ。


 「…つまり、ユウジと言う冒険者にガナの供給をするわけですな?」

 「簡単に言えばそうなのですが、その原初魔法で集めたガナは我々が使うガナとは少し特性が変わるようなんです…」

 「………それはユウジと言う冒険者にとって助けになるのですかな?」

 「はっきりとは言えませんが、ユウジさんなら何とかすると思います…」

 

 ジャンやバロンド等はニヤニヤしてそんなロゼを見ていたが、ロゼとユウジの関係を知らぬ者にすれば、高貴な生まれのロゼがユウジと言う一冒険者に、何故それ程迄の信頼を寄せているのか不思議でならないようだ。

 

 「では私は他の冒険者達と布陣の確認等をしてきましょう」

 

 ロワンはそう言うと足早に騎士達の集団に戻って行った。

 そんなロワンを見てジャンが"生真面目な奴だな"と何故か感心している。


 「では私も支援職の者に話を通しておこう」

 

 そう言ったギルドマスターがジャン達を振り返る。


 「私の名はグレンブラッド。気安くグレンと呼んでくれ」


 そう言うとギルドマスターは冒険者の一団に合流していったのだ。


 (……いや、新人じゃ無いんだからマリのギルドマスターの名前くらい知ってるが…)と誰もが思っていた。


 

 

 "グオッ"


 強烈な熱風がユウジを襲う。

 徐々に化け物の放つ光線の威力が増してきていた。


 (まずいな…あいつは徐々に力を増してきている…こっちの攻撃は完全に無効化されている…)

 

 化け物の攻撃の煽りでマリの町はズタズタに切り裂かれている。

 

 「ん?…人が…」


 視界に人の集団が映りユウジは慌てる。


 (何だ!逃げ遅れたのか?騎士らしき鎧の一団もいるが、まさか新たな援軍か?)

 メルカス伯爵等も来ているのだから、他の領地から遅れて到着した可能性もある。

 その集団の中に冒険者の集団がいると同時にジャンの姿を発見したユウジは何かジャン達にあったのかと不安になる。

 今ユウジがジャンの下に転移すれば化け物の攻撃が一団に向かうのは明白だったし、遠くに転移してユウジを見失えば化け物は近くのジャン達の集団に目標を定める可能性が高いだろう。


 (拙い…どうして戻って来た…)


 この世界に来てユウジは初めて精神的な混乱に包まれていた。



 「投擲、弓の得意な奴はぶちかませー!!」


 グレンブラッドが吠えると、化け物に向け一斉に攻撃が始まる。

 地上から数メートル程に浮かぶ化け物に、冒険者達の攻撃が集中するが、ユウジの攻撃を防いだように、何ら届く事は無い。


 化け物が煩わしそうな目を冒険者に向け一撃を放つ。

 強烈な爆発が起り、辺りの家屋が吹き飛び土煙が立ち上がる。


 その様子を啞然と見ていたユウジの視界の先、土煙の合い間に青白い光の壁が立っていた。


 「わっはははは。すげーなその盾。暫くは反撃出来そうだな!」

 

 土埃に塗れた冒険者達が笑う。


 化け物の攻撃に耐えた騎士達も自分の持つ盾をまじまじと見ていた。

 

 その様子を見たユウジはホッと胸を撫で下ろす。

 どうやら攻撃を防いだ騎士の持つ盾は、ユウジが魔法付与した盾だったようだ。


 「ユウジ!ちょっと来い!」


 声の先にジャンが指先でユウジを招いていた。

 ジャンの横に転移したユウジはジャンに詰め寄る。


 「何してるんですジャンさん」

 「加勢に決まってるだろ?お前でもアレを簡単には倒せないんだよな?」

 「……そうですが…」

 「お前が今飲み込んだ言葉は分かるぜ。お前に及ばない俺達じゃどうせ無駄死になるってな」

 「……それは…」

 「別にそう思うのは構わない。ユウジが見下しての事じゃ無いのを俺は知ってるからな」

 「……………………」

 「まぁ良い。今ロゼ達が魔法職を集めて原初魔法とかを使うらしい。その配置が終わる迄俺達が足留めしてるわけだ」

 「原初魔法?」

 「ロゼが言うにお前を中心にガナの凝縮をするらしいぜ?他にも何か言ってたな…ああ、確か、凝縮されたガナは特性が変わってるらしいから上手く使えってよ」

 「……良くわかりませんが…」

 「俺にも分からんが…ほら、時々ガナを使って魔法を使う時、場所によってガナの匂いってのかな…何か違う気がする時無いか?」


 ああ、とジャンの言葉の意味を理解する。

 町中で使う魔法、水辺で使う魔法、確かにガナはガナでも何かが違う…

 以前フェニルがガナを自分に似たものと言っていた事を思い出した。

 フェニルのように明確な意志は無いようだが……

 

 「つまりよ、お前は今迄通りに戦いながら、周りのガナの雰囲気が変わったら、それを使えば良いんじゃないか?」

 「…………成程…」


 どの様にガナの特性が変わるかは不明だが、今のところユウジに打開策は見つけられていない。


 (……ならばやるか………)


 「ユウジ。騎士や冒険者の事は余り気にするな。奴等は奴等なりに腹を括って戦ってんだからよ」


 ユウジは肯き、化け物目掛け転移していった。

 

 マリの町は生活の音が消え、化け物の咆哮と魔法が巻き起こす破壊音。そして戦う者の怒号だけが響いていた。

 


 

 初めは低い"Ah〜"と言う音が響いた。

 続いて重なるように"Eh〜"と言う中音が。

 最後に高い"Ra〜"と言う音が重なる。

 それは町の四方全てから聞こえてくる。

 

 人の声が混じり合う。


 ゆっくりと流れる声はユウジの周りの空気を変えてゆくようだった。


 (……何だ……この波長を俺は知っている気がする…)


 ユウジは思い出そうとするが思い出せない。


 《ユウジ。何故か分からないけど周りに不思議な力が集まってる…》

 (何の力か分かるか?)

 《分からないけど……あの化け物が発する力と似てると思う》


 フェニルの曖昧な答えにユウジは戸惑うが、不安になる事は無かった。

 ユウジは何となくだが理解していた。この力がユウジ達にとって有利に働くだろうと。

 ジャンが言っていたロゼさん達が行うと言っていた原初魔法なのだろう…


 (………ああ、思い出した…この韻律は神楽に似ているのか…)


 ユウジのうろ覚えだと、神楽とは神座に神を招き、神の力を招き鎮めることによって、生命力を高めようとする儀式だと認識している程度だ。

 ロゼさんの話だと原初魔法は人の叫び声や体の動きから始まった…と、以前聞いた覚えがある。

 

 (…神の力って何だろう…)


 "神たま"がユウジの身体を作る為に使った力がそれだとして、魔法と何が違うのか…あの化け物が放つ力と"神たま"が使う力は違うのだろうか?

 ユウジはぐるぐると考えを巡らすのだが、結論は出るはずもない。

 

 《ユウジ。この不思議な力をユウジは使えると思う…》

 (何故そう思うんだ?)


 フェニルの言葉に不思議そうに返す。


 《あのね……ユウジ…と言うより人間って生き物が何かしらの行動を起こす時に僅かながら同じ力が出てるのよ》

 (え?)

 《正確に言うなら人間が思考して、それが行動になった瞬間に僅かながら似た力が出るの……ガナとは違う力がね…》


 意志力?


 それはエネルギーなのだろうか?

 ユウジはふと気付く。

 

 (もしかしたら、魔法っていちいち明確なイメージしなくても結果を思い浮かべれば良いんじゃ無いのか?)

 

 そもそも、この世界で生きる人々は、ガナと言う得体の知れないエネルギー的な物を意思で操作している。


 火をつけたい。

 速く走りたい。

 

 フローチャートの様に理論立てて結果迄思考を巡らせていないはずだ。

 

 フェニルはイメージと言った。

  

 ならば、魔法であれ何であれ、結果をイメージすれば良いのでは…


 (結果……サルモン辺境伯を元に戻しても色々面倒な事が起きそうだしな…)


 サルモンと言う男の意志は、化け物となった奴の口から聞いた通りだろう。

 もとより、自分の命等捨てて事を起こした筈だ…


 (消滅……そして平穏…)


 ユウジを包む様に集まっている不思議な力はユウジの体の中へ集まって行く。



 「ヴァルディ様……あれは…」


 遠見の鏡を覗き込んでいたキクニスが絶句する。

 ユウジ・タカシナの周りに集まる力は、神力に匹敵する高位エネルギーだろう事は理解出来るが、ユウジ・タカシナに吸収されたその力は更に別の力に変化している。

 

 「…皆よ。良く見ておくが良い。あれが儂が一度だけ経験した真の神の力と同様のものじゃ……が…………如何せん力が足りん…あのまま放てば、ちと困った事になりかねん…」

 「どう言う意味でしょう……」


 ヴァルディの認識する神の力とは、"想い"がそのまま形になる奇跡の力であり、純粋に思考と感情の融合したエネルギーそのままだ。

 

 「力その物が不足した不完全な力では、想いを忠実に再現出来ないのだ…よってあのまま放てば似通った不再現な世界に変貌する事になるな…」

 「……世界が変わる?」


 元々、人がどれ程願おうが、世界を変える程の力を持つ事など出来ないのは、ヴァルディ等が人として生きていた頃から分かっていた。

 

 (そう…だから儂らは衰える体を捨てて精神だけの形を選んだ…)

 

 それ自体間違っていた可能性が今現実にある…


 その鍵となるのは…


 流精虫


 (あれは何であろうか…何故意志があるのじゃ……)


 ヴァルディ達の住む天界が突如として震えだす。

 次元の違う天界を巻き込みながら圧倒的な力がレガリアに流れ込む。


 「な、なんだこの力は!」


 感じたことのない圧倒的な力に天界の神々は狼狽えている。

 ヴァルディには分かっていた。


 真の神の力

 

 (……全ては神の手の平と言うのか…)



 

 (何だこの力は?)


 突如として流れ込む力にユウジは震えだす。


 (フェニル!どうした?フェニル?)

 

 ユウジの問いかけにフェニルは沈黙している。 

 

 ユウジの体が薄ぼんやり光り輝き、その光がゆっくりとユウジからずれて行く。

 ユウジ自身が分かれるように人形の光はユウジの前方にズレて完全に分離した。


 その人形の光の顔が振り向きユウジを見て微笑み、声を放つ。


 《君は、面白いな》と。


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