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第六十三話 特異点


 (もう充分だ。もう充分だ。もう充分だ!!)

 (巫山戯るな!巫山戯るな!巫山戯るな!)

 【滅んでたまるか!!】


 真っ赤に染まった視界に映るのは小蠅に等しい脆弱な人間…

 

 【俺こそが神。我こそが神核】

 

 

 サルモンの意識が、流精虫の意識が、そしてルーデンスが仕込んだ紋様の力が、本能の如く全てを統一していく。

 

 うぉおおおおーー!!


 バロンドがシールドバッシュを放ち、化け物を数歩後退させたが、化け物を覆い始めた粘液がダメージを吸収しているようだった。

 ジャンやバロンド。ロゼが着けている武器や防具にはユウジが丹念に魔法付与していたが、化け物が纏い始めた粘液にその性能を著しく阻害されている。


 「なぁジャン…装備のお陰で俺達は無傷だが、他の冒険者はヤバくないか?」

 「ヤバいだろうな。こう乱戦になるとロゼの範囲魔法も出せんからな…」


 ジャンが頭を掻く。

 雑魚敵なら作戦等必要ないレベルの冒険者達が集まってはいるが、目の前にいる化け物には集団行動で挑まないと出せるスキルも出せない今の様な状況になる。

 

 (まずいなこれは……)


 致命傷を与えられず、化け物自体は謎の粘液で強化されていく。

 このまま続ければ、化け物の力が何処迄も上がるのでは…と言う不安にジャンは囚われはじめていたのだった。



 サルモンの意識は流精虫の成長と共に消えていた…正確に言えば、新しい意識へと変貌していた。

 サルモンの記憶を全て取り込み、ルーデンスが刻み込んだ破壊のワードが本物の化け物を誕生させはじめていた。


 【愚鈍な者共!平伏し、その下劣な命を差し出すが良い。我はその全てを浄化する者なり】


 「こいつ何言ってやがる!」

 「ふざけんな!」


 化け物の言葉に冒険者達は奮起するも、膨れ上がるガナの圧力と得体の知れない恐怖感を感じていた。

 冒険者にとって恐怖感を感じるのは悪い事ではないが、目の前に立つ化け物から受ける恐怖感は、命を失う恐怖感とは別物のような気がしてならなかったのだ。

 

 流精虫の成長は、宿った肉体の変化を加速する。


 "ゥオオオオオー"


 巨大な翼が背中から突き出し、その翼が広がる。

 体を覆う紫色の粘液が固まり宝石の様な硬質な輝きを発している。

 ユウジが見たら"初号機!"と呟いてもおかしくないフォルムに変貌していた。

 

 「全員離れろ!ロゼ!頼む!」


 ジャンの叫びにロゼは広範囲加重魔法"グルジアス"を唱え始める。

 

 『双月の道。大地に虧盈(きえい)を写し、真なる姿を描きその名を高らかに謳え!グルジアス!!』

 

 等価原理とは無縁っぽい強大な重力が、化け物と化したサルモンの頭上に発生した。

 両手を上げ重力を受け止めるその様はまるで初号…機とユウジが見たら思うのだろうか?

 地面は沈み込み、化け物は沈んだ大地の底へ落ちていく。


 「今だ!尽きるまで魔法を撃ち込んでやれ!」


 魔法を得意とする冒険者達は、沈み込んだ大地の底へ向かい最大の魔法を撃ち込むと、想像だにしない轟音と共に強烈な火柱、噴煙が立ち上がった。

 後先を考えずに魔法を放った術士は立つ余力もなくその場で倒れる。

 

 パラパラと降り注ぐ土塊の音だけが辺りに響く。

 この場にいる全員が緊張をする。

 沈み込んだ大地の底から、未だガナの圧力は衰える気配が無いばかりか、じわじわとその圧力が増していたのだ。

 

 「……ジャン、これ以上は無理だわ…」

 

 ロゼが張っていた防御魔法が、強力なガナの圧力によって崩れ始めていた。

 加重魔法で圧潰した大地の底から、尋常では無い、暴力的とも言えるガナの放出は、突如その毛色を変える。


 「な!何だ…この気配……」


 生き残っている全ての冒険者や騎士等が、経験した事が無い気味の悪い気配だ。


 (……こりゃあ、この町がどうこうって感じじゃねーな……)


 圧潰した大地の底から突如として光の柱が天を貫くように現れ、柱の至る所から人の腕やら鳥の羽根やらが突き出してくる。

 

 「な…何だあれは…ロゼ!あれは魔法か?」

 

 光の柱を啞然と見ていたロゼがジャンの声で我に返り慌てて首を横に振る。


 「ち、違う…あんなの魔法じゃない…あの柱、ガナの干渉を全く受けてない…」

 「じゃあ、あれはなんなんだ…」

 

 ガナの圧力は無くなったが、沈み込んだ大地の底から得体の知れない力が四方に吹き荒れていた。

 

 

 

 巨大な力がレダイアに発生したのを感知したフェルニエルは、慌てふためいていた。

 

 (な、何が起きてるの…)


 レダイアに転生させた二人の人間を直接監視する事は、我々の長であるヴァルディから禁じられていたのだが、地球と言う別世界の地に、レダイアに満ちるガナ反応が現れた事を思い出したフェルニエルは、遠見の鏡を作動させてしまっていた。

 遠見の鏡は、神力を使い別世界の事象を知ることが出来る道具だ。

 人間と言う種族から見ればフェルニエルやヴァルディは神と崇められてもおかしくない程の奇跡をおこす事ができる。

 しかし、我々は無限とも思われる時を経ても目指すべき神の領域に届いていないのだ。

 神の領域に至るのに我々には何が足りないのか?

 その答えを得るために様々な方法を試してきた。

 長峰 雅史と言う別世界の人間をレダイアに転生させたのも、その実験の一つだった。

 過去にも同様の実験をした事があるのだが、記憶を持ったまま別世界へ転生させる試みは初めてだった。

 フェルニエルが思うに、予定外の高階雄二の転生はヴァルディ様の咄嗟のアドリブでは? と推測している。

 

 (いや、今そんな事を考えてる場合じゃ無いわ…)


 遠見の鏡を覗き込んだフェルニエルはレダイアの大地から吹き出す異常な力を確認した。

 

 (……あの力の中心にいるのは………)


 フェルニエルは中心にいる生物を必死に解析して気付く。


 (…まさかあれ……人間……この精紋は…)


 生き物には個別の精紋があり、それはフェルニエルも同様だ。

 所々にフェルニエルが記憶するサルモンと言う騎士の精紋の特徴が見て取れた。しかし、全体的にみると全く別物と言っても過言では無いほど変質している。

 

 (………魂の形が変わるなんて…有り得ない……)


 魂の形は未来永劫変わらないと思っていたフェルニエルは啞然とする。


 (……だとすれば……私達が神に至る可能性が見えてくるわ…)


 徐々に増すその力はフェルニエル達の神力と変わらぬ領域に達していた。


 (………キクニス様に報告しなければ…)


 遠見の鏡には、大地に沈み込んだサルモンが蝶の脱皮の如く変わる姿を映し出していた。


 

 

 光柱を追う様に半透明の羽根が一枚、そしてまた一枚とその数を増やして天を目指すように落ち込んだ窪みの底から立ち生えていた。


 その窪みの底からゆっくりと浮かぶ様に現れたのは…

 

 「……なんだありゃ……マッドゴーレムに似てはいるが……」

 

 ジャンの言葉通りの何かが窪みの上に浮かんでいた。

 その形状はジャンの言う通りマッドゴーレムそのままの泥人形だったが、その体は光り輝き、背中と思われる場所からは体のサイズに似合わない程の巨大な羽根が生えていた。


 天を突くように生えた羽根が徐々に広がりそれ( ・・)が咆哮をあげた。


 【キォオオオオオオーー!】


 咆哮の衝撃波が王都マリを突き抜け広がる。

 古い家屋はその衝撃波に耐えられず倒壊しマリのアチラコチラに粉塵が巻き上がってゆく。


 「ジャン、バロンド。これ以上は無理よ!引きましょう」

 「…ああ、あれは…無理だな」

 「もう少し時間稼ぎしたかったんだがなー」


 バロンドの呟きに苦笑したジャンはロゼを庇う形をとりながらバロンドと共に後退してゆく。

 生き残っていた他の冒険者達もロゼ達が後退するのに合わせる様に下がって行く。

 ロワン・ヴァナ・フレムナードも他の冒険者と共に下がるが、無念の表情を浮かべ何度も何度も振り返っていた。



 倒壊した家屋の粉塵が舞う中央広場迄撤退してきたロゼがベンチに横になっていたユウジの下に駆け寄る。

 目を閉じていたユウジが、目を開けロゼを見て微笑んだ。

 

 「ユウジさん体調平気?」


 "大丈夫だよ"と言いながらユウジは上体を起こしてベンチに座り直した。

 

 「もう少し何とかなると思ったんだがなー。ユウジいけるか?」


 近づくジャンの言葉にユウジは辺りを見渡して立ち上がった。


 「今迄感じたことが無い波動だけど…何とかなるかと」

  

 高圧なガナの波動とは違うが、これに似た波動は以前に体験していた。

 リーデンス・オルタニウスが発していた波動が似ていたのだ。

 

 (…となるとやはり辺境伯の体の中にいた流精虫が混ざったんだろうな…) 


 マルガリ大坑道での騎士やゲダの様に、流精虫が人間と混じった状態…

 

 (長峰の場合は少し違うパターンかも知れないな。あいつの事だから色々改良してるだろうし…)


 撤退してきた冒険者の中に見知った顔を発見したユウジが声をかける。


 「無事で何よりですロワンさん」

 「…ああ…折角君に用意して貰った剣だったんだがな…不甲斐ない…」

 「いえ、俺ももう少し余裕を持たせて魔法付与するべきでした…」

 

 ユウジのその言葉にロワンは己の非力さに唇を噛んだ。


 「ユウジ。何かあの化け物、そろそろヤバそうだぞ」

 

 バロンドの声を聞き、崩れ落ちた王城方面を見ると、確かにヤバそうだった。


 「ロワンさん。ロワンさんの権限でこの場にいる冒険者や逃げ遅れた一般人を避難させて貰えますか?」

 「……いや…騎士とはいえ俺に、そこ迄の権限は無いぞ?」

 

 確かにそうだろう…が、流石にこのまま戦闘に入れば町一つ消える程の被害が出る可能性がある。

 どうしたものかとユウジが迷っていると広場に騎士の一団が近付いて来るのが見えた。

 その先頭の騎士が掲げる旗の紋章を見たユウジが驚いた。

 

 (騎士が何故モーズラント家の紋章を……)


 ユウジが啞然とする中、一頭の白い騎馬が進み出てユウジの前で止まった。

 細身の甲冑のその人物が下馬し、優雅な所作でフェイスガードを引き上げると、そこには見知った顔があった。


 「お久しぶりですユウジ様」

 「……シレミナ様……何故ここに…」

 「ここが正念場だろうからじゃよ」

 

 騎士の一団から飛び出してきた黒い騎馬の人物がニヤリと笑いながら応える。


 「……メルカス伯爵…」

 「儂等が来ねば色々収まらぬ事があろうし、今後の国の態勢を素早く引き継がねばならんからのー」

 「…確かにそうでしょうが……巻き込まれて全てが台無しになる可能性もあるでしょう?」


 ユウジの疑問にメルカス伯爵は豪快に笑う。


 「この程度の苦難を乗り越えねば国を立て直すなど夢のまた夢と言う物じゃ」

 「この程度と言いますが………これから起きるのは今迄の戦闘とは別物ですよ?」


 ユウジの言葉を聞いたシレミナ肯く。


 「ユウジ様。私達は国を纏める為にこの場に来ました。今何が起きているのか、何が将来起きそうなのか。私達はちゃんと知らなければなりません。それが国を纏める者の努めですから」

 「………ご立派なお考えです…」


 ユウジはメルカス伯爵に向かう。


 「伯爵。これから俺は戦いを始めますが、町にいる人々の避難を御任せねがいますか?」

 「わかった。どの程度町から離れた方が良いかな?」


 ユウジはメルカス伯爵に外門から最低一キロ程度離れるように伝えると、メルカス伯爵は騎士団を使い町に残っている人々の避難を開始していった。



 ユウジは自身の周りに幾重もの障壁を構築してゆく。

 相手の発する力は、単純に比べればリーデンスの力を凌駕していた。

 

 (意識のある内にサルモン辺境伯と話してみたかったな…) 


 化け物と化した今の辺境伯には理性的な会話は不可能だと、直接相対したロワンやロゼ達の話から聞いている。


 町を離れるシレミナが最後にユウジに託す。


 「ユウジ様……出来れば苦しませずに…」


 シレミナとサルモン辺境伯の間に何があったのかは、ユーリヒから聞いた程度しか知らないが、シレミナの言葉からユウジは男女間の機微を確かに嗅ぎ取っていた。


 《フェニル。準備は良いかな?》

 《いつでも良いわよ!》


 ゆっくりと浮かび上がったユウジは化け物と化した辺境伯を視界に捉えた。


 (凄いエネルギーだな……)


 ユウジの存在に気付いた化け物は巨大な羽をゆっくりと開く。

 その一枚一枚から鱗粉のような光り輝くエネルギーが染み出し、化け物の全面に集まって行く。


 (……凄い圧力だ……下手したら波○砲擬きよりもヤバいぞ…)


 一瞬リーデンスと戦った時に使った吸収体を出そうかと思ったが、あの程度では無理だろうと瞬時に判断をして化け物の後方に転移する。

 

 光り輝く光跡を引き発射されたエネルギーは、途中から曲りくねり後方にいたユウジ目掛け襲ってきた。


 (サラリーマンレーザーかよ!!)


 ※解説 サラリーマンレーザーとは、雷○Ⅱ(シューティングゲーム)で登場したレーザー兵器の名。敵をターゲットして曲がりくねり殲滅する武装(正式にはプラズマレーザーと言う)。この武装をサラリーマン風の男達が好んで使っていた事から後に、サラリーマンレーザー又はリーマンレーザーと命名された。以上!



 蛇のように襲い掛かるエネルギーを躱しながらユウジも反撃を開始する。


 異世界物、ファンタジー物の魔法を次々と放つが、化け物を覆う光る防壁を突破出来なかった。


 (…何だあれは?吸収されてるって感じでは無いが…まさか空間自体が…)


 よくよく見れば化け物を取り巻く光の膜は奇妙に捻じくれているようにも見えた。


 (…次元が違うのか?)


 ユウジの想像通り、化け物を覆う光の膜は少しづつだが、カラビ・ヤウ多様体を形成していく。


 化け物は天界領域へ干渉出来る力を身につけ始めていた。 


 今後暫く投稿間隔が開くと思います。

 m(_ _)m モウシワケナイ…

 

 

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