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第五十話 天の星


 長く伸ばした縮れ毛を垂らし、その若者は考え込む。


 「ふむ……どうも我等の思い通りには事は進まんか…」


 若者の横に立つ者が提案する。


 「少し介入致しましょうか?」

 

 若者は少し考え込む仕草をしたが直ぐに苦笑しながら首を横に振った。


 「いや、止めておこう…我々からの直接介入は禁止されてるのは君も知ってるだろ?フェルニエル」


 「ええ、知っていますとも。知っていて尚私は提案してますの。今迄と違い、今回はヴァルディ様が何を思ったのか特別な処置を行いましたよね?」


 若者は形の良い目を閉じながらゆっくりと椅子の背もたれに身体を預ける。

 

 「確かに君の言うとおり色々と例外措置が取られているね…」


 長峰雅史をレダイアに転生させたのは、我々の総意ではあった。だが、想定外の事態で高階裕司迄巻き込んでしまっていた。

 本来起きない事象が発生したのには、何かしらの理由が有るはずなのだが、ヴァルディ様自身(ささ)やかな対策をしただけに留まっているのも謎だ。

 実際、高階裕司からの近況報告は我々の世界に、新たな関心を巻き起こしている。

 さらなる高みへと精進する我々にも、やはり多少の息抜きは必要だ。

 自らを神と名乗るのはおこがましいが、人の身からすれば我々はまさに神とも言える存在なのも事実。

 ハーリエム等は、喜々として高階裕司のサポートに勤しんでいたし、実際高階裕司からの報告は非常に興味を引く事柄で埋め尽くされていて、神界ネットでは常にトップ記事になっているのだ。

 今では"高階裕司の集い"なる、謎の団体迄現れているしまつだ。

 

 若者の名はキクニス。

 神界ネットワークの管理を任される立場の若い神。

 横に立ち控えるのはキクニスの秘書のフェルニエルと言う、薔薇の花の様な笑顔が特徴の女神。

 

 高階裕司からの最新の報告では何やらキナ臭い状況になってきているようだ。

 

 「問題は…長峰雅史の動きだな…」

 「はい、彼はあまりにも早く我々に近い能力に目覚めていますからね…」


 想定外。

 そう、想定外の事象がレダイアの世界で起きている。

 "流精虫"の存在が神界の計画を狂わせていたのだ。

 簡単に手に入る便利な力は精神の鍛錬をおざなりにし、目に見える力と言う甘美な高揚で精神の堕落を招くのだ。

 

 (ヴァルディ様は一体何を成されたいのか……)


 「そう言えばヴァニウェルが長峰雅史がいた元の世界に"ガナ"の反応が現れていたと報告がありましたね…」


 キクニスが驚いた顔をしてフェルニエルの顔を見た。


 「まさか!…有り得ない…」

 「はい、反応は一瞬だけだったようですが……」


 絶対に相容れない存在が世界にはある。物質単体の問題ではなく、物質に関連する世界の性質が相容れない存在を作り出すのだ。

 長峰雅史のいた世界に"ガナ"が存在出来る筈がない。


 「ヴァルディ様に報告してくる…」


 キクニスはフェルニエルにそう言い残し部屋を後にした。




 

 その男は小高い丘の岩場に腰を降ろし天を見上げていた。

 中天を掠めるようにいくつもの流星が流れている。

 その男の視界に流星は写ってはいたが、流星自体に何ら関心が無いようだった。

 男の身形は薄汚く、髪は彼方此方で絡まり、髭も好き放題生えている。

 魔獣でさえも避けて通る程の悪臭を巻き散らかしていたが、男の傍らに置かれた幾つもの酒樽は、下位貴族では手に入れる事さえ叶わぬ高級酒。

 男はその酒樽を両手で挟み込みガブガブと飲み込み、何の肉か分からない干し肉を口に放り込んだ。

 親の教育の賜物(たまもの)か"くちゃくちゃ"と咀嚼音を撒き散らしている。

 

 「ねぇ、たまには身体を洗ったほうが良いわよ?臭くて鼻が馬鹿になるわ…」


 いつの間にか現れた女の声に"フン"と鼻をならす男。


 「確かお主イネイラとか言ったか?」


 男の言葉に女は呆れ顔で答える。


 「名前もちゃんと覚えて無いって…アルコールで頭ヤラれちゃってるのかしら?」

 「ふん!別にこの世界の人間の名前等、(はな)から覚える気がないわ」

 「へー……………」

 

 一瞬イラッとした女から殺意に似た感情が漏れ出したが、男は一向に気にしてはいないようだ。


 「……まぁいいわ…それより面白い情報欲しくない?ただでいいわよ?」

 「情報?別にいらん」

 「へーそうなんだ……ちょっと気になってあんたの事調べたこと有るのよ私」

 「………………」

 「あんた子供の頃、自分の事を時々奇妙な名前で他人に自己紹介してたそうね」

 「…………だからなんだ?」

 

 女は男が座る岩場から飛び降り草叢(くさむら)に立って男を振り返る。


 「私はちょっと特殊な能力持っていてね、他人の基礎能力を文字として可視化出来るのよ」

 「……………ほう…便利そうだな」

 「…で、あんたの名前可視化してみたんだけど、奇妙な文字で読めなかったのよ」

 「…だから?」

 「……数日前に出合った子供の冒険者なんだけど…あんたの名前と同じ様な文字で可視化したのよ」


 女の言葉に男はギョッとした表情を浮かべた。


 「なんて、何て名前だったんだ!」

 「だから読めなかったっていってるの!…本当にアルコールで頭ヤラれちゃってるのかしら?」

 「む…ぅ……その冒険者の子供は男か女か?」

 「………男よ」

 「ふむ………」


 男が何事かを考え込む。


 「あーそれに追加で面白い事教えて上げるわ」


 女の言葉に考え込んでいた男が顔を上げる。


 「なんだ…」

 「その子供の冒険者の身体の中に流精虫が住んでたわ」

 「なに…」

 「見た感じ、あんたが目指す完全体に近いんじゃないかしら」

 「……!ばかな………」


 女は草叢の上を滑るようにして回転して笑った。


 「ねぇねぇ、どんな気分?あなたにも出来ない完全体の流精虫を宿した少年……あーはっはっはっはっ!面白いわ!久し振りに面白い事に出会えそうだわ!」

 

 イネイラ、二つ名を"血風"と呼ばれる女は中天を流れる流星を見ながら何時迄もくるくると草叢で踊るのだった。



 

 窓際に()えられた椅子に座りながら、ロゼはユウジの手元を見ていた。

 俺は宝飾店で買った安物の指輪で能力付与の実験をしていたのだ。

 幾つかの付与魔法のテストをしたかったので、指輪だけで数十個買い込んでいた。

 安物とは言え大量に指輪を買い込んだのを見て眉毛をピクピクさせていたロゼさんの姿に、女性の性を感じ微笑ましかった。

 とは言え、今は付与魔法の実験に集中する事にする。


 付与魔法が発動する条件付けは必須である。例えばシールド的な付与魔法でも常時発動してては使い物にならない。

 何かしら付与魔法が発動する条件付けが必要なのだが、意志を感知して発動する仕組み自体ユウジには思い付かなかった。そこで、体内ガナの集中による発動を仕込む事にした。

 実際細い事は分からないのでユウジの適当魔法の如く概念任せの付与を行うのだ。

 蒼白い燐光の様な光が舞い踊りユウジは次々と思い描く魔法を指輪に付与していった。

 色々試した結果、パッシブ的な効果を付与するなら最大三つ迄指輪に付与する事が出来たのだが、アクティブスキルの様に自ら使うスキルは一つしか付与出来なかった。


 確かにアクティブスキルは無理だろう。二種類の魔法を同時に発動する事など普通は出来ない。


 手にしていた指輪をテーブルの上に置いて背もたれに寄りかかる。


 「ユウジさん大丈夫?疲れていない?」


 目を閉じながら背もたれに寄りかかっていたユウジを見て、ロゼが心配したのか声を掛けてくる。


 「ああ、大丈夫。別に疲れたわけじゃないから」

 

 (ロゼさんに渡す指輪には何を付与するか…常時発動型のガナ吸収能力…それ程効果が無いが、身体能力強化も付けた方が良いかもな…)


 「ロゼさん。指輪に付与する能力でガナ吸収能力と身体能力強化を付けようと思います…後一つ付けるなら何が良い?」


 突然の質問に少し考え込むロゼ。

 

 「…そうですね…身体能力強化を有効に使うためには、身体を動かす迄の思考の早さ…判断力の早さが重要だと思います…実際思考スピードを上げる魔法等聞いたことありませんが…」

 「ああ、確かにそうだな…思考スピードアップの能力…」

 

 常時発動型のパッシブスキルで思考スピードアップを付ける事が可能だとして、その指輪を付けながら日常生活を送った時、何か深刻な支障が出ないか……一抹の不安がユウジの頭を過ぎった。


 (……試してみるか…)


 「少し試して見ます…」


 そう言ってテーブルの上に置かれている付与がされてない指輪をユウジは拾い上げる。


 思考スピードアップ=物事の筋道を順序立てて追う思考の速度を上げる…

 一般的に思考スピードを上げるには考え方のパターン化やらフレーム化等が有名なのだが、魔法でやるならその方法は面倒くさい。

 簡潔に神経伝達信号のスピードアップを補助魔法として付与することにした。

 ある意味身体能力強化の思考バージョンだろうか?

 テーブルの上に蒼白い燐光が舞い踊り付与が完了した。


 (……………)


 ユウジは思い切って指輪を自分の指に通す…


 もの凄い速さで思考が流れてゆく!

 

 思考と身体の動きにタイムラグが発生し気分が悪くなってきた、それと同時に強烈な頭痛がユウジを遅いユウジは突然意識を失いその場に崩れ落ちたのだった。


 目を覚ましたユウジの目の前に真っ青な顔をしたロゼがユウジの身体を擦っていた。


 「ユウジさん大丈夫…ですか?」

 

 ロゼの目頭が真っ赤になっていた。

 

 「ああ…何とか…」


 ユウジは自分の指に挿していた指輪が外されているのを確認して一つ深い深呼吸をした。


 「心配掛けた、ごめん」

 「いえ、ユウジさんが無事なら…」

 「思考スピードアップは危険だ…思考と身体のバランスが取れないし…多分頭への負担が大きい…別の付与にしようか…」


 ロゼは再びポロポロと涙を流しながらユウジの胸元に顔を埋め泣きじゃくったのだった。


 胸に暖かなロゼの体温を感じながら宿屋の床に横たわるユウジは開いた窓から夜空をぼーっと眺める。

 満点の星空に幾つもの流れ星が走る。

 ユウジは言いよう無い不安にかられる。

 

 (……人が沢山死ぬんだ……)


 それはユウジの言葉なのかユウジの中に居るフェニルの声だったのかユウジ自身判断できないでいた。

 前々から気づいてはいたのですが、私の稚拙な文章に"いいね"を下さる方がいらっしゃいます。

 本当にありがたい事です。

 この話はかなり長編なので、一旦一部終了の形をとります。

 現在六十二話目を書いていますが、六十六話で一部完結となる予定です。(タイトルだけは出来てます)

 一部が終わり次第別の話を投稿する予定なので、少しでも気になる方は読んで頂けたら大変嬉しいです。

 これからも宜しくお願いします。

 

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