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第四十五話 モンタスの街


 モンタスの街を囲むように立つ城壁は圧巻だった。

 サージュの町にも城壁はあるが、モンタスの城壁の高さと厚みは桁違い。

 貴族専用の門から街に入った我々は、正門脇に建てられた騎士の詰め所に馬車を止め、そこからはメーガン伯爵が用意した馬車にユーリヒ達は移り、伯爵の屋敷迄行く事になっていた。

 グレイズが我々の前に来て事前に聞いていた日程に変更が無いことを伝えて来る。

 

 今日を含め三日程の自由時間が与えられた我々は、メーガン伯爵から紹介された宿屋に向かい騎士の詰め所から街の大通りに出る…と、そこは人種の坩堝(るつぼ)だった。

 海外出張が多かったユウジでも怯む光景だ。

 海外で人種が違うと言っても肌や髪の色、顔立ちの若干の造作の違い位のものだったが、異世界のこの港街では肌が鱗状の者や尻尾が有る種族、ユウジの身長の半分にも満たない種族や三メートル近い種族が闊歩(かっぽ)しているのだ。

 異世界ファンタジー物にドップリ浸かってる者なら"うえーい"とか奇声を発し、踊りまくるのではなかろうか。

 目の前を獣人族だろう女性が横切り、その愛らしい尻尾を凝視していたらロゼの肘打ちが炸裂した。


 「ユウジさん、何を見てるのかしら?何を見てるのかしら?」

 (何故二回言う…)

 「…いや…尻尾がある種族が珍しくて…」

 「あら、ウルムにもデッドバウラにも尻尾は有るわよね?有るわよね?」

 「あれは魔獣…」(何故また二回…)

 「あらそう」

 (理不尽だ……)


 ジャンとバロンドがユウジとロゼの会話を聞きながら笑いを堪え歩いている。


 街の大通りを半ばまで歩くと左右に宿屋が建ち並んでいた。

 

 「おーあそこだあそこだ」

 

 ジャンがメーガン伯爵から指定された宿屋の門を潜る。

 外見も立派だったが、内装も立派な宿屋だった。

 ロゼが宿の宿泊手続きを済ませ各自の部屋の鍵を持って来る。

 

 「各自一部屋とってくれたみたいね」

 「業腹だな」


 ジャンが感心しながらロゼから鍵を受け取り、荷物を置きに二階の部屋に駆け出す。


 ロゼの部屋の隣の部屋の鍵をユウジに渡すとロゼは"後で部屋に行くわね"と言い自分の部屋に入って行った。

 

 (……何だろ………)


 ユウジは部屋に入り室内をチェックする。

 モーズラント家の客室と比べると流石に数段内装の質は落ちるが、ユウジがサージュで泊まっている宿屋とは比べるまでもない立派な内装だった。

 

 (高そうな部屋だな…まぁメーガン伯爵が宿の金を払ってくれたそうだから気兼ね無く利用させて貰うか…)


 ズタズタに斬り裂かれた革のブーツを脱いで部屋靴に履き替える。

 

 小部屋のドアを開くと浴室とトイレがあった。

 

 (…ユニットバスかよ!)


 異世界に来てユニットバスに遭遇するとは思わなかったユウジは笑いが込み上げて来た。

 どこの世界で有ろうと限られた空間を効率を考えて設計すれば、あまり変わらないんだなーと可笑しくなる。

 小さな浴槽に栓をして蛇口の上に有る魔石に触れると湯が流れ落ちて来た。

 

 (湯に浸かれるのは助かるな…)

 

 久しぶりにゆっくりと寝れる安心感に、部屋に戻ったユウジは二人がけ程の大きさのソファーにその身体を埋めたのだった。



 

 コンコン ノックの音がした。


 湯に浸かってベットの上でうつらうつらしていたユウジはノックの音で覚醒する。


 「開いてるよ」

 

 ドアを開いて部屋に入ってきたロゼは溜息をつく。


 「ユウジさん…ドアの鍵はちゃんと掛けておかないと危ないわよ?」

 

 ロゼはベットに腰掛けているユウジを見て少し躊躇してからユウジの横に腰掛けた。

 湯浴みをしたのかロゼから良い香りがユウジの鼻孔を擽る。

 

 「ユウジさん、この後ユウジさんの靴の代わりを買いに行きませんか?私も色々買いたい物あるので」

 「当然行くよ」


 ユウジは一つ伸びをしてベッドに倒れる。

 ロゼは少し躊躇う仕草をしてユウジの身体に被さる様に自分の身体を重ねる。


 「…………………」

 「ユウジさん…あのね…あの女は危険よ…」


 ロゼさんが言う"あの女"はユフェリアの事ではなく"血風"の事だろう。


 「怖かった…ユウジさんが死ぬかと思って身体が震えたわ…」

 「あの女の技は何なんだ?」

 「魔法とは別物…神の奇跡よ…」

 「人を傷つける技が神の奇跡か…あの技を防ぐ手段あるのか?障壁張っても駄目だったが…」

 

 ロゼが首を横に振る。


 「唯一出来る事は、あの女が技を使う間を与えない連続の攻撃をするだけね…あの技の有効範囲は精々十メートル程だから範囲外から魔法を出し続けるのが有効だと思うわ…」


 ユウジならあの女を近付けさせずに攻撃する事は可能だ。

 それこそ高出力レーザー乱射のイメージをすれば良いだけだが、血風が使う技にユウジ自身興味がある。


 「ロゼさん。もうあの女から傷を受ける事は無いよ…」

 「……ほんとう?」

 「約束する。だけど色々常識外の光景をロゼさんに見せる事になると思う」

 

 ロゼはユウジの目を見て肯きユウジの胸に顔を埋める。


 サラサラなロゼの髪の毛を撫でながらユウジは自身の心に冷徹な塊を住まわせる。

 

 (もう油断はしない…どんな非難を浴びようがロゼさんは守る…どんな馬鹿げた魔法を使おうと…)


 ユウジの記憶に有るフィクション上の魔法、神話、技、物理現象、計算上の現象迄も明確にイメージしながら再び記憶に焼き付けていくのだった。

 

 

 陽が少し傾きはじめたモンタスの大通りを、ロゼと二人で歩いている。

 ジャンはとっくに部屋を出て何処かの花園の探検をしてる筈だ。

 バロンドは砕かれた大盾の代わりを購入しに出掛けたらしい。

 

 大通りに面した防具屋に入り、革のブーツを見て回る。

 

 「お客様どの様な物をお求めでしょうか?」

 

 恰幅の良い店主らしき男がユウジの着けている上下の服を見て目を細める。

 流石商人、ユウジの着けている物の価値を瞬時に嗅ぎ分けたようだ。


 「丈夫で軽いブーツを探してます。予算は白金貨三枚程ですが…モンタスには三日程の滞在なので出来合いの商品を探してます」


 店主は肯き店の奥に入って行った。


 「ユウジさん…出来合いの靴に白金貨三枚は出し過ぎでは…」

 「防具は良い物に限るからね」


 フェニルに聞いた所、装備品に魔法の効果を付ける場合、やはり素材自身の"格"に魔法効果が影響を受けると言う。

 まだ試してはいないが付与が出来る事はフェニルのお墨付きだ。


 店主が店の奥から三足の靴を持ってきた。


 「お客様の足を見た感じではこちらの三足が少し手直しするだけでお使い頂けると思います」

 「手直しにどのくらい掛かりますか?」

 「明日の午後には出来上がります」


 ユウジは肯き商品の説明を店主に頼んだのだった。



 「結構安く上がったね」

 「…それでも白金貨二枚しましたよ…ユウジさんの経済観念に不安しか感じないわ…」

 「使ったら稼げば良いさ」

 「まぁユウジさんなら可能なんでしょうが…」


 ロゼさんが衣類等を物色してる間、店の向いにある宝飾店にユウジは入った。

 

 「いらっしゃいませ。どの様な物をお探しでしょうか?」

 

 ユウジよりも背の低い女性がニコニコしながら声を掛けてきた。


 「髪飾りか指輪を…」

 「…女性への贈り物ですか?」

 「ああ…そうだけど」

 「…指輪の場合指のサイズが分かりませんと…」


 (ああ…そりゃそうだな…)


 「髪飾りにするかな……戦闘状態でも外れないような髪飾りを」

 「……戦闘……ですか?…」

 「…………………はい………」


 何やら店員の女性の顔が能面のようになっていた。


 「申し訳ありません…髪飾で戦闘をしても外れない程の強度の留具の髪飾りは当店では扱っておりません。申し訳有りません」

  

 何度も頭を下げる店員に手を振りながらユウジは宝飾店を後にした。

 

 (……やはりロゼさん連れて指輪にするしかないか…)


 ロゼさんが入った店に入ると丁度買い物を済ませたのか両手一杯の包を抱えて出てきた。

 

 「何を買ったの?」

 「珍しい生地のローブがあったのよ。他にも色々あって選ぶのに時間かかっちゃったわ」

 「…どの位買ったの?」

 「え!…………白金貨三枚…位?」

 「……………へぇ……」

 

 そのまま大通りを歩き別の店を見て回る。当然両手一杯の包はユウジが持つのは異世界だろうが現代だろうが変わらないのだ。

 

 「ごめんなさい…ちょっと買いすぎたわ…」

 「いや、衣類だから軽いよ。あのさロゼさん後でロゼさんの部屋行っても良いかな?」

 「…………ええ……どうぞ…」

 

 その頃ジャンは"ウェーイ"と奇声を発しながら花園を泳ぎ回っていた。


 


 コンコン ノックの音がした。


 「ロゼさん良いですか?」

 「はい、今鍵を開けます…」


 ソファーに座っていたロゼは身体を強張らせギクシャクとしながらもドアの鍵を開けに立ち上がった。

 

 ドアを開けるとユウジが立っていた。

 

 「ロゼさん少し話したい事が有るのでお邪魔しました」

 「はい…どうぞ…お茶を煎れますからソファーに座っていて下さい」


 ユウジはロゼの部屋に入ると持ってきた剣を部屋のテーブルの上に置いてソファーに腰掛けた。

 ロゼはドアに鍵を掛け水場でお茶の用意をする。

 ポットとカップをトレーに乗せロゼがユウジの横に座りカップにお茶を注ぐ。

 

 ユウジがカップに口を付けたのを見てからロゼもお茶を一口飲んだ。


 「ロゼさんにちょっと見て貰いたい事があるんだ」

 「…私にですか?」

 「そう、ロゼさんは魔法の効果が掛かった装備品を知ってますか?」

 

 ユウジの質問にロゼが肯きジャンと同じ防具の名を挙げた。


 「ジャンに聞いたら装備品に魔法の効果を付けるのは無理だと言われたんだけどロゼさんも同じ理解かな?」

 「ええ、私の父も挑戦を試みた一人ですが、装備品に魔法効果を付与した成功例は無いはずです…」

 「…やはりそうか……」


 ユウジがテーブルの上に置いた剣をロゼに渡す。

 

 「ロゼさん鑑定出来るよね?その剣鑑定してみて」

 

 ロゼが肯きユウジが持つ剣を鑑定する。


 「状態は良好ですね。素材は鉄と黄銅の合金です」

 「うん、確かに其れだけの一般的に出回ってる剣だね…」


 ユウジは鞘から剣を引き抜きテーブルの上に置く。


 「今からちょっとした実験をするから見ててね」

 

 ロゼが眉わ潜めていたが何かに気付いたのか、はっとしてユウジの顔を見る。


 「ユウジさん…まさか…」


 ユウジはニヤリと唇を吊り上げテーブルに置いた剣に其れを掛けるべき集中をしていった。

 

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