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第四十四話 二つ名


 轟音、爆発する様に辺りに砂塵が舞い上がった。

 

 「前方デッドバウラ二十!後方サンドバシー二体!各自防御陣形を保ちつつ撃破!」


 ユウジは馬を降りて剣を抜き放つ。


 バロンドとジャンも馬を降りて迎撃体制を取るが、先頭に居る冒険者と馬車を繋ぐラインからは外れないような立ち回りをしている。

 

 「ユウジ!雑魚な魔物だが数が多い気を付けろ!他のことは俺達に任せろ」


 俺は肯き前方のデッドバウラを迎え撃つ。

 身体強化を掛けたユウジの身体は疾風の様な速さでデッドバウラの命を狩っていく。

 一振り毎に千切れ飛ぶ魔物の血煙が荒れ地に吹く風に乗り辺りは真っ赤に染まる。

 チラリと先頭にいた冒険者に向けた瞬間、深いフードを捲り上げた冒険者の顔にユウジは目を奪われた。

 フード捲り上げた冒険者は身体を覆っていたマントを脱ぎ捨てた。


 風に流れる銀髪、造形の神が念入りに拵えたような美しい顔の線。男の理想を形にしたような(個人差有り)肢体にユウジは息を呑んだ。


 (……ダークエルフ?か)


 長い耳に褐色の肌はフィクションでお馴染みのダークエルフの特徴だった。


 「テメエ!血風か!」

 

 ジャンの怒声が響きダークエルフの女がニヤリと笑みを浮かべた。


 「あらあら、お久しぶりねジャン。まだ生きてたなんてしぶといわねあなた」

 「…暫くテメエの名前聞いて無かったから、くたばったかと思って祝杯あげようかと思ってたんだがな…」

 「あら残念。私少しタティラに用事が出来て出掛けてましたの…帰って来るなり依頼があってね…人気者は辛いわ…フフッ」


 血風と呼ばれた女の周りにキラキラと何かが舞い始める。

 

 「うぉぉぉぉ!」

 

 バロンドの分厚い金属製の大盾に亀裂が走りボロボロと崩れるように細かな破片を撒き散らし砕けた。

 

 「ヤロウ!」

 

 ジャンが小さな小瓶を投げ付けた瞬間小瓶が砕け散りジャンの右手からモウモウと煙が上がった。

  

 「ジャン!」

 

 右手を押えながら肩膝を付いたジャンを庇うようにバロンドが立ち塞がる。

 どんな手段を使った攻撃かは分からなかったがユウジは血風と呼ばれた女に向い仕掛けた。

 ユウジの剣が女の身体に届く前に真横から細い衝撃が剣の腹に当たり軌道を逸らされる。


 (これは…ミストバレットのような物か?…)


 襲いかかってくるデッドバウラを切り捨てながらユウジは女の身体の周りを包む様に浮かぶ光を睨む。


 「あらあら…可愛らしい坊やね…少しヤンチャな所もポイント高いわよっ!」


 右足の脹脛(ふくらはぎ)辺りに激痛が走る。


 《ユウジ!》

 

 まるでカッターの刃で何回も切られたように革のブーツがズタズタに切り裂かれている。

 出血が有るのかブーツの中はヌルヌルとした感触で気持ち悪い。

 

 《ユウジ!早く止血を!》

 

 フェニルは言うが傷口を治すイメージがユウジには出来なかった。

 

 《この程度ならまだ動ける!》

 《あの女の攻撃見えなかったんでしょ?今の攻撃首を狙われてたら…》

 《体の周りにバリアを張る!フェニル頼む!》

 

 ユウジのイメージ道理体の周りに青白い膜が覆う。

 

 「ガッ!」


 次は左の手の甲がズタズタに切り裂かれた。


 「あらあら魔法も使えるなんて優秀なのね…将来有望な可愛い坊やをネチネチ殺れるなんて…お姉さん逝っちゃいそうよ」


 (何だこのイカれた女…)


 「坊や、冒険者になるの…少し早かったわね。こんな所で命を落とすなんて人類の損失だわ…なんてね!アッハッハッハ」

 

 女はその美しい顔を醜く歪ませ笑う。


 ペロリと舌舐めずりする女の顔に緊張が走り後ろに飛び退いた。

 態勢を整えた女が馬車の横に立つロゼを見てニヤリとわらった。

 

 「へー…キュイラスの娘がいるんだ…」


 女の近くに居たデッドバウラが姿勢を次第に低くしたと思ったら一気に潰れる。

 まるでプレス機に掛けられたようだ。辺りの魔物も、軒並み潰れてゆく。

 その中、女は玉の汗を垂らしながら耐えていた。


 「まいったわね…まさかキュイラスの娘がいるなんて…聞いてないわよ…」


 女の姿が消え後方に転移する。


 「…もう少し簡単かと思って引き受けたけど…どうやら準備不足ね…出直すわ」


 そう言うと女はチラリと俺を見てウインクしてユラリと消えた。


 俺は激痛に耐えながらゆっくりと地面に腰を下ろし座り込む。

 ロゼが駆け足でユウジの横に来て傷口の治療を施す。

 

 「ユウジさん大丈夫!…痛くない?」


 真っ青な顔をしながらユウジの傷口の治療を続けているロゼに質問する。


 「ロゼさん…あの女何者なんだ?俺のシールド全く役に立たなかった…」

 「正真正銘の化物よ…」

 「化物……」

 

 (…いやいや…その化物を引かせたロゼさんって…)


 「ユウジさん何か今失礼な事考えてない?」


 俺は慌てて首を振った。


 「……まぁ良いわ…他の人の治療に回るからユウジさん休んでいてね…」


 そう言うとロゼは怪我をした者の治療に向かった。


 暫くしてジャンとバロンドが近付いて来てユウジの隣に座り込む。

 

 「いやー、ヤバイ女が出てきやがったな」

 「…何者なんですか?ロゼさんは化物とか言ってましたが…」

 

 「化物ってのは間違いじゃないな…パレモラ神聖国の元聖女様だよ」

 「元ですか……」


 確かな事は不明らしいが今から約六十二年前にパレモラ神聖国に一人の聖女が出現したと言う。

 "聖女" 清らかで慈愛に満ち、神に祝福された奇跡を行使する者。

 人々の心と傷を癒す神の御使い…


 「……あの人六十二歳なんですか?」

 「エルフ族だからな…人間の年齢にしたら二十歳くらいだな」

 「あー……」

 「まぁ有る事件があってアイツは聖女の名をパレモラ神聖国から剥奪されたんだよ…」

 「……どんな事件だったんですか?」

 「イヌラ教聖大教会で大主教と数百名の信者諸共殺害したって話だな…」

 「事実ですか?」

 「知らん!噂とパレモラ神聖国から回ってきた手配書にはそう書かれていたってわけだ…まぁそれ以降"聖女"の称号は誰にも使われてないな…」

 

 ロゼさんの治療魔法で治った左手を見詰める。


 「ジャンは血風と呼んでたけど…」

 「ん?ああ、あれはアイツの二つ名だよ」

 「二つ名…」

 「通り名ってやつかな…パレモラ神聖国から手配書がまわってから五年後くらいかな?隣国との小競り合いでマーレ王国の傭兵部隊にアイツが現れたらしい」

 「……………………」

 「その後もちょくちょく現れやがってな…多分マーレの傭兵部隊か王国の暗殺部隊に居るんじゃないかって噂だよ。アイツの戦い方から付いた二つ名が血風ってわけだ」


 "血風"


 (確かにわけもわからずやられたな…シールド張ってもだめだったし…)


 「ジャンには二つ名とかあるんですか?」

 「え!……ねえよ…」


 バロンドが口を押えながら笑いを堪えているのを見て、碌でも無い二つ名が付いてる気がするユウジだった。


 (後でロゼさんに聞いてみるか…)



 襲撃を警戒しながら荒れ地を二日程進むと微かに潮の香りが漂って来た。


 「もうすぐモンタスの街が見えるぜ」


 ジャンが馬を寄せて来る。


 「…何か嬉しそうですね…」

 「そりゃあモンタスは最大の港街だからな。色々有るんだよ色々」

 「……………………………」


 グレイズさんの話ではモンタスの街で三日程滞在する予定らしい。

 街中では俺達冒険者は護衛任務から外れ自由行動を許されていた。

 

 「そう言えばユウジ、折角の港街なんだロゼに何かプレゼントでもしたらどうだ?女はプレゼント喜ぶぞ?」

 「……まぁ何かしらプレゼントはしますが何かお勧めとかありますか?」

 「宝飾品!」

 「…………成程…」


 港街と言うからに他国からの品が集まっている。珍しい宝飾品や生地、食べ物等が溢れているそうだ。


 少し上りの道を越えると遠くに海が広がっていた。


 (この世界に来て初めて海を見たな……)


 海岸沿いに巨大な壁に囲まれた街があり、沿岸には帆船が幾艘も浮かんでいる。

 

 ユーリヒの乗る馬車の窓が開きユフェリアが顔を覗かせる。

 

 「もうすぐ着きますわ。ロゼ様街に着いたら是非我が家へお越し下さいね」

 「……ええ」


 ロゼさんから聞いた話ではユフェリア嬢は魔法の才能が有り、その他の習い事も嫌いではあったが人より秀でていたそうだ、どうやら男性よりも同性にその興味の大半を注いでいるタイプらしい。

 ロゼさん自身その手の性向が無い為ユフェリアのアタックに辟易していたそうだ。

 

 街の扉が開き数十騎の騎士と思われる一団が近付いて来ると、馬車の手前百メートル程先で立ち止まりその中の一騎が前に出て近付いて来る。

 

 「私はメーガン伯爵麾下第二騎士団を任されておりますルードヴィッヒ・ウォルス・エイリックと申します。ユーリヒ・ラジェ・メルカス様とお見受けしますが間違い無いでしょうか?」

 

 グレイズが馬を進め名乗る。


 「お役目ご苦労です。私はメルカス伯爵麾下第一騎士団グレイズです。ユーリヒ様の護衛任務に就きメーガン伯爵様にお目にかかりに参りました」

 「おお、やはりグレイズ殿でしたか。お目にかかれ光栄です。街では我々騎士団も御一緒させて頂きます……で、ユフェリア様何故そこに…」

 「あら、いたらいけないのかしら?」

 

 ユーリヒの乗った馬車の窓からユフェリアが顔をだしていた。

 

 「いえ、滅相もない。ただ、驚きましたので」

 「あらそう」

 

 ルードヴィッヒと名乗った騎士は深い溜息を吐いた。


 (ああ、どうやらユフェリア嬢は"お転婆"なのか…まぁ騎士の反応を見る限り避けられてるようには見えないから、困ったお嬢様と言ったところだろうか)


 メーガン伯爵の騎士も加わりモンタスの街に我々は到着した。

 

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