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第四十一話 御伽話

 

 吹き飛ばされたユウジを目の端に入れながら、ロゼは阻害系の魔法を怪物と化したゲダに撃ち込む。

 少しして立ち上がったユウジを見て胸を撫で下ろす。


 「ユウジさんヒールいりますか?」

 

 ロゼの申し出に"大丈夫"と応えるユウジ。

 それを聞いて少しホッとしたロゼの目に映るユウジの姿が、焦点が定まらないかの様にブレて見え慌てて目を数回瞬く。

 だが、やはりユウジの姿はブレたままだ。

 坑道内にバロンドのハウリングが響きジャンが果敢に攻めてはいるが、化物に有効打を与える事が出来ないでいる。

 ロゼの阻害魔法や攻撃魔法でも同様だ。化物を覆う黒い粘膜状の物に魔法が吸収されているように見える。


 "バグッ!"

 

 化物が腹部を押さえながら数歩後退した。

 いつの間にかジャンとバロンドの間に立つユイジは声を張る。

 ユウジは自分に掛けた支援魔法を解除する。


 「ジャン、バロンドさんロゼさんも馬車迄引いて下さい…思い切り魔法使いますから…」


 ジャンがチラリとユウジの表情を見て肯く。


 「バロンド、ロゼ下がるぞ」

 「でもユウジさん一人じゃ…」

 「あの化物相手に今の俺達じゃ何も出来ない…」

 「…………………ユウジさん…」


 三人が引くタイミングを狙い化物が動くと思っていたユウジはいつでも動けるように構えていたが、化物は動かない。

 

 「もう良いんじゃねーか?ユウジだったか?確かに薄っすらと記憶にある名だな」

 「…ゲダさんあなたの身体の中に流精虫がいます…」

 「へー……そりゃ分かるよな。お前の中にも居るんだからな。同類ってか?俺達はクックック」

 「…今話してるお前はゲダさんか?流精虫か?」


 化物の口角が上り笑みの表情を浮かべた。


 「俺は俺だよ。ゲダってのはこの体の持ち主だろ?やつの意識なんてとっくに霧散してやがるぜ」

 「そうか……なら遠慮する(いわ)れはないな…」

 

 "三十分全能力向上!"

 

 俺の能力が魔法に依って馬鹿げた向上をした瞬間化物の戦斧が俺の眼前に現れた。


 馬鹿な!


 俺は必死に戦斧を避け地面に転がる。


 「驚いたか?アッハッハッハ!俺もさっきは驚いたよ…まさか人間ごときに一発貰うとは思わなかったからな。まぁお前の中に俺と同じ存在がいるなら仕方ないと今では思ってるよ」

 「…俺に出来る事はお前にも可能って事か…」

 「当然だろ?この男の記憶も俺に吸収されてるわけだが、お前は危険のレベルが他の奴と違う。全力で潰してやる」


 化物の圧力が増し一回り化物の体が膨れ上がる。

 ユウジに手加減出来る余裕などない。

 冒険者としての戦闘知識も己の物にしてる化物に、ユウジが勝るのは浅い現代科学知識くらいだろう。

 体を鍛え実戦の経験を積み、戦闘に対しての"感"を磨く経緯をユウジは決定的に欠いている。

 ユウジは幾つもの攻撃手段を頭に明確にイメージしていく。

 映画、読み物、漫画、アニメ…


 ユウジの持つ剣が青白く光り輝き出す。

 完全にSF映画に出てきた光の剣そのものだ。


 「…なかなか面白い事しやがる…な!」


 化物がユウジの目の前に現れ戦斧を打ち込んで来るのをユウジは光の剣で迎え撃った。

 超高熱をイメージした剣に化物の戦斧は金属音と火花を撒き散らせながらも耐えきる。

 

 (何か来る!)


 ユウジの感が頭上から迫る何かを察知した瞬間化物の後方に瞬間移動。

 最早考えて戦闘するのをユウジは諦め、生き延び相手を完全に消滅させる戦いをする決意をする。

 ジャンの動体視力を持ってしても今のユウジ達の動きを捉える事は出来ないだろう。


 大地が(まく)れ、ユウジの居た場所に巨大はクレーターが出来る。

 

 (やろう!)


 ユウジは化物に向かい幾つもイメージした攻撃を試すが、見てから撃っていたのでは当たりもしない。それは化物の方も同様らしく醜く歪んだ顔を更に醜く歪ませていた。

 

 ユウジはスピードどうこうを無視するような攻撃をこの坑道内でやるかどうか迷っていた。

 

 《ユウジ平気だよ!ユウジがちゃんとイメージ出来てるなら大丈夫》


 ユウジの逡巡する心を読み取ったフェニルがユウジに檄を飛ばす。


 化物の体を纏う粘膜がユウジに向かい槍のような鋭い攻撃を仕掛けてくるのを避けながらユウジは決心する。


 (後どうなるか知ったこっちゃない!今こいつを殺らなきゃこっちが全滅だ。原理など全くわからないが、こちとらフィクション作品山ほどある世界の知識でもう満杯なんだよ!) 


 ユウジの前面に光の粒子が集まり始める。

 

 (逝けー!)


 巨大な光がユウジの前方から放たれ坑道内の壁面や大地を蒸発させる。

 光はやや斜め上方に進みありとあらゆる物を蒸発させながら遥か彼方迄で伸び続けた。


 ほぼ坑道一杯にまで拡げた一撃を躱す術は無いだろう。化物がその場から別の場所に転移とかしなければだが。

 光の一撃が消えた後には真赤に溶けた巨大な直線状の空洞だけが残っている。


 ユウジがイメージしたのは宇宙戦艦の○○砲そのものだった。

 

 (……これは…やりすぎたか?…)

 

 詠唱のタイムラグ無しに発現する魔法等、普通にチートと言われても仕方ない。

 ユウジはそれでも辺りの気配を探り、化物の痕跡が完全に消えたのを確認するとその場に座り込んだ。


 (この依頼終わったら早めに他国に行ったほうが良いかもしれないな…)

  

 ユウジは頭に思い描いていた冒険者生活をこの国で築く事は出来ないであろう事に落胆する。


 (あれだな…この後は現代知識を活用して発明家にでもなるかな…この時代なら俺の知識でもそれなりに評価されそうだし…)


 次第に坑道内の熱が下がっていくが、このままでは溶けた坑道内を進むにはまだかなりの時間が掛かりそうだったので、ユウジは魔法で一気に熱を下げる。


 (ゲダさんの亡骸が無いのは説明しないと…あとユーリヒ様やグレイズさんにも、俺とフェニルの事をちゃんと説明しなければな…)


 ユウジは立ち上がりマルガリ大坑道の入口に向かい歩き出した。



  

 先に後退したグレイズ達騎士団の一行は坑道の奥から近づく影に身構えるがジャンの姿を確認し警戒を解く。


 「…あの化物は倒せたのか?」


 グレイズの問にジャンはヒラヒラと手を振る。


 「今ユウジが戰ってる」

 「な!子供一人に戦わせてるのか!」


 グレイズの顔が怒気で真っ赤になるのを見てジャンは慌てて説明する。

 

 「グレイズの旦那…あの化物相手じゃ俺達はユウジの足手纏にしかならねーんだよ。それにな旦那…ユウジは特別なんだよ 俺達が知る戦い方と全く違うレベルなんだよ」

 「しかし…」

 「グレイズの旦那の個人的事情は噂程度には聞いている…ユウジは確かにまだ成人してない子供だが冒険者なんだ。大体グレイズの旦那よりロゼのが辛いんだぜ?そこんとこ少しは考えてくれや」

 「む…………」


 グレイズは心配そうに坑道の奥を見詰めるロゼを見て己の無力に歯噛みした。


 「それよりグレイズの旦那。もしユウジが突破された時の事をかん!」


 ジャンが話し終える前に坑道奥から轟音が聞こえ熱風がジャン達を襲った。

 ロゼが素早く馬車を守るようにシールドの魔法を展開する。

 暫く続いた熱風がおさまり坑道内に静寂が戻る。

 

 「どうやらデカイ魔法が撃たれたようだな…ロゼなんの魔法かわかるか?」


 ジャンの問にロゼは首を横に振りジッと坑道奥を見詰めながらゆっくり息を吐いた。


 「ジャン、グレイズ様…多分ユウジさんが勝ちました。探知魔法を使って調べたらユウジさんの気配しか感じられません」

 「あれに勝てたのか…」

 「襲撃で有耶無耶になりましたが、ユーリヒ様とグレイズ様にはユウジさんの事を話さなければなりません」

 「…彼のあの強さに関してか?だが冒険者個人のスキルを他人に話して良いものなのか?」

 「ユウジさんの場合話しておかないと不都合を生じるだけですから…」


 グレイズはロゼの顔を見詰め肯く。冒険者自身が己のスキルの事を他人に話さなければならない事情…グレイズが考えるに無指向性のスキル、または魔法なのだろうとあたりをつける。


 薄暗い坑道の奥に人影が見え全員に緊張が走るが、唯一人ロゼが人影に向い走り出していた。



 グニャグニャと下手な左官屋が塗った壁面のような状況と、何処までも真っ直ぐに続く巨大な穴を全員が啞然として見ていた。

 

 ユーリヒの乗る馬車の中にユウジとロゼはいる。


 現れたフェニルにユーリヒ等は跪き頭を垂れる仕草をしたが、ロゼが慌ててフェニルの事を説明するのだった。


 「流精虫?…」

 「はい流精虫ですユーリヒ様…」

 「……にわかに信じられぬが…」


 《…フェニル…何故その姿を…》

 《えーだって以前ロゼが慌てるのを見て面白かったから》


 フェニルはユウジの記憶にあるティターニアバージョンの姿で現れたのだ。

 人が慌てる様を見て楽しむ所は精霊と言うより、妖精に近いのじゃ…とユウジは思う。


 「…つまり…ユウジ殿の中にいる…この方が魔法をダイレクトに使う…と?」

 「はい。私の様に詠唱の手間が要りません」

 「成程…」


 その他に、先程の化物の中にも流精虫が住んでいた事、ユウジの魔法が想定以上の威力で発現する事を話す。


 「つまりユウジ殿の魔法に関しては威力の面で制御が難しいと?」

 「威力と規模ですね」

 

 ユーリヒが馬車の窓を開き坑道内の変り果てた姿を見て溜息を吐く。

 

 「成程……何をどうしたらこうなるのかわかりませんが…グレイズ、ユウジ殿達と話し合い上手く共闘して下さい。これ程の戦闘は…私は門外漢なので宜しく頼みます」

 「…わかりました…」


 ユウジの放った魔法で出来た巨大な横穴の先が何処まで続いているのか調査する為、ジャンと数名の騎士が出掛ける間グレイズ達は休憩に入る。

 本来の道が魔法の影響で消滅している為迂闊に動けないのだ。


 馬車の中ではユーリヒとグレイズが話していた。


 「ユーリヒ様、ユウジ殿をどう思われますか」


 グレイズの問いにユーリヒは少し考え込む仕草を見せた。


 「僕個人の感想なら”凄いなー"だが、グレイズの問いにまともに答えるなら"かなり危険"だね。あの化物の流精虫の事にも繋がるが、ユウジ殿の中にいる流精虫がユウジ殿を変質させる可能性が無いとは言えないからね…僕が見たところ、ユウジ殿個人は善人だよ。ただ、少し気になる所はあるが…」

 「気になる所とは?」

 「ユウジ殿の魔法はユウジ殿のイメージを流精虫が魔法の形で現出するんだよね?…グレイズ、君はどの様なイメージをすればこの様な坑道の有り様を作り出せる?」

 「………女神イヌラの光槍ですか…」

 「僕が知る限り光槍の威力は城壁を撃ち破り城に小さな穴を穿つ程度だよ…だがユウジ殿の魔法は桁が違う…」

 「……………………」

 「女神イヌラは一宗教の教典に描かれた戦女神だが…ユウジ殿のイメージはそれとは違うね…多分別のイメージを持っていた筈だよ」

 「…原初の神はどうです?巨大な雷を大海に落とし大地を生み出したと言う…」

 

 ユーリヒはグレイズの顔を少し驚いた顔をする。


 「まさかグレイズが御伽話の神を持ち出すとはね…うん、でも確かにイメージ的にはあり得るか…でも原初の神は口伝の御伽話だし、色々脚色もあるからね…ああ、脚色によってはこの様な奇跡が加わった可能性もあるか…」

 「ユーリヒ様はユウジ殿を善人と言われましたが人は流精虫に関わらず変わるものです…」

 「君の経験則かな?だけどねグレイズ。人の上に立つものは結局人を信じなければ立ち行かなくなるよ…」

 「はい。それはわかります。しかし、不測の事態に何も備えぬのも浅慮の誹りを受けます」

 「分かっているが、御伽話のような御仁にどのような備えをしろと言うんだい?」

 「…………確かに……」


 馬車の中では統治する者とそれを支え守る者が頭を悩ませている最中、ユウジは自分のテントの中でロゼの過剰な手当てを受け辟易していたのだった。


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