第三十九話 聖絶
《ユウジ…あの人の中に…》
《いるのか!》
《うん…知り合いよね?ユウジの記憶にあったわ》
"何故!何故!"と何度も何度もユウジの頭の中をその言葉が巡る。
ゲタとの付き合いは長くはないが、この世界に転生して初めて出逢った冒険者に特別な思いを抱くには十分な出会いだった。
「おいおいゲタ…何殺気立ってんだよ…仲間だろ俺達は…」
ジャンの言にゲダの口角が吊り上がる。
「仲間? ああ、俺達は仲間だよな。仲間の俺に内緒でなーに依頼受けてんだよジャーン!ひでーじゃねーか…ああ?ローゼーそう思わないか?思うよな?思わないわけねーよな?」
「…………………………」
「…………………………」
「…だから俺が今から殺してやるよ……あ?殺すのはユーリヒの小僧だったか?…まぁいいや、皆殺しだ!」
ジャンが奥歯を噛み締める。
「…………………ユウジ、居るんだろ?ゲダの中にあれが…」
「…居ます…フェニルが確認してます…」
「……………………………」
ジャンやロゼの胸中を思えば言葉に詰まる。
「グレイズの旦那、昨夜の化け物の再来だ…騎士を下げてくれ」
ジャンの言葉に肯いたグレイズは、騎士達を馬車を守るように集結させる。
「ロゼ、馬車を守る事だけ考えてくれ…バロンド、ユウジ…頼むぜ!」
「全く…ゲダさんは俺の目指すべき人だったんだよ…まぁ俺は冒険者で、依頼は絶対だからな…私情を挟む気はないが…」
俺はゆっくり肯き"わかりました"と応える。
少し高台に立つゲダの殺気が膨れ上がり大気がビリビリと震えた。
「うおぉぉぉぉー」
ゲタの巨体が一回り膨れ上がった瞬間バロンドが後方に吹き飛んだ。
「がっ!」
咳き込みながら立ち上がったバロンドの金属製の胸当てが、砲弾を受けたようにグニャリと内側に凹んでいた。
ゲダの立ち位置は変わらず、何らかの力が働きバロンドを吹き飛ばしたようだ。
後方からロゼの詠唱が聞こえ馬車を中心にシールドが張られた。
少し前屈みだったゲダがロゼに視線を移す。
「おぅおぅロゼ。ちゃんとシールド張っとけよ?半端な魔法じゃ俺を止められないぜ?」
一歩踏み出したゲダの顔に下卑た表情が浮かんだ。
「そう言えばロゼ、お前男を知らなかったよな?良い機会だ俺がたっぷりと可愛がってからバラバラにしてやるからよ」
ロゼの目に一瞬稲妻が走ったのも束の間、ユウジに向かい顎で指示するロゼを見たユウジは深い溜め息を吐いた。
「えー…と………この薄汚い屑野郎!ロゼは俺の女だ!巫山戯た事吐かしてると消し炭にすんぞ、この糞がーー!」
「……………………………………」←ジャン
「……………………………………」←バロンド
「…………………ほう…………」←グレイズ
「…………………は?…………」←騎士一同
ユウジの怒声にニヤニヤする者、肯く者と様々だったがゲダの表情は変わらずユウジを見て首を傾げた。
「何処のガキか知らんが……」
ユウジの背中に寒気が走り瞬間的に防御壁をイメージする。
その直後、地鳴りのような鈍い爆発音が坑道内に響き、土煙がモウモウと辺りに広がって行く。
「へーー…良く防いだなガキ…どうやったんだい?」
土煙が晴れるとユウジ前には身の丈程の分厚いコンクリート壁が立っていた。その中央は半壊してボロボロと崩れ落ちユウジの足元に転がって来た。
「まぁ良いか……ん?ジャーンなーに俺の死角に入ろうとしてんだ…よ!」
ゲダが失った筈の左手を水平に振った瞬間ジャンが跳び上がる と、"ドン"と言う鈍い音がしてジャンの後方の岩肌に亀裂が入った。
「…おいおい、何時からそんなこと出来るようになったんだよゲダ。大体何で左手動くんだ?教会じゃ接合しか出来ないと聞いたぞ?」
ジャンの質問にゲダは左手を目の前でひらひらと振りながらニヤリと口角を上げる。
「世の中には奇特な人間がいてよー。すげーポーションで俺の怪我治してくれたんだよ」
「…ゲダ、お前のは怪我じゃねーだろ…」
「細い事気にする冒険者はいねーだろ?ジャン。取り敢えず死んどけや!」
ゲダが腰に差していた長剣を抜きながら一歩足を進めた瞬間ユウジの視界からジャンの姿が消えゲダの後方に現れた。
(あれは"レイジ"!)
以前ジャンに見せて貰ったジャンの技だ。
バロンドがジャンの"レイジ"に合わせるように咆哮をあげゲダの行動を阻害する。
まだパーティを組んで間がないバロンドだが、冒険者として積んできた経験がジャンのスキルに絶妙のタイミングで合わせたのだろう。
"ギンッ!"
高い金属音が響きジャンがゲダから離れる。
「あぶねーなジャン。だが肩口狙うあたりまだ覚悟足りねーよな。俺を止めねーと先がないんだぜ?」
再びジャンの姿が消えユウジ達の場所に戻って来るとゲダを睨みながら自分に言い聞かせるように声を出す。
「出し惜しみしてる場合じゃないな……」
"お前等付き合い長かっただろうに…"とバロンドが重々しく呟いた。バロンドも長い冒険者人生で様々な事があっただろう事を感じさせる声だった。
ロゼは唇を噛み無言だが、ロゼの生い立ちからすれば冒険者として長くパーティーを組んできたゲダは家族同然だろう。
ジャンの後ろでユーリヒの馬車を守る位置にいるグレイズがジャンに"手伝うか?"と声を掛けるがジャンは首を振った。
「奴は俺達が殺る!ロゼ、ユウジ頼んだぜ…バロンドも同じ冒険者なんだから当然付き合うよな!」
バロンドが不敵な笑みを浮かべる。
「当然だ。俺は冒険者を生業として女房とガキを養ってるんだ。依頼は絶対完遂する…例え俺が目指していたゲダさんだとしても依頼を邪魔するなら…」
そう言うバロンドから気迫が熱となって体から溢れ出す。
俺自身ゲダさんと顔を合わせたのは二度程だったが、ゲダの表情はまざまざと思い出すことが出来る。今目の前にいるゲダと記憶のゲダでは人相や雰囲気が全く違っているが…。
「ユウジ…周りに被害が出ないようにとか考えるな…俺の"レイジ"を余裕しゃくしゃくで受けやがったからな…油断してると確実に殺られるぞ…」
「はい…あのゲダさんはヤバそうですからね…」
チラリとロゼを見るとロゼは肯き"死なないで"と唇が言っているのを見て俺は考える。
《フェニル…俺のイメージ理解出来るか?》
《理解出来ないけどイメージははっきり伝わってるよ。これユウジの世界では当たり前の事だったの?》
《まだ実用には課題があるが理論的には問題無い技術だよ》
《ふーん、凄い世界だね。でもユウジのイメージさえはっきりしてれば理屈なんて関係無くガナで構築出来るからバンバン使っていいわよ》
それは俺にとっては頼もしくも恐ろしい言葉だ。
核爆発やブラックホールでさえ再現可能なわけだから、俺が生きて来た前世の記憶を持っている俺は、この世界を破壊する程の魔法を放てる危険人物なわけだ。
俺は足下に転がっている小石を拾い上げ親指で小石を弾く形を取る。
「これが私の全力だー!」と心のなかで某小説キャラのセリフと共に小石を親指で弾いた。
ゲダの右肩辺りを青白い稲妻が走り抜け、後方が爆発した。
これがかの有名な電磁砲。
直撃では無かったもののゲダの右肩は真っ黒に焼け爛れ剣を握った手がダランと落ちていた。
左手で焼けた右肩を押えながらゲダが俺を睨む。
「何だ今のは?、ガキ!…おもしれー事しやがったな…確かロゼの男とかほざいてたか…おもしれーガキだから生かしてロゼがヒイヒイ言ってるのを聞かせてから殺ろうと思ってたんだが…やめだ!」
ゲダの体から殺気が溢れ出しゲタの体を変化させる。
それは昨夜の騎士同様の変化だが、その圧倒的な熱量は騎士のそれとは雲泥の差があった。
「くそ!狙いが逸れた!」
確実に致命傷になるように胸の中心を狙って放ったのだが…
長引いてどんな変化をするかわからない相手は時間を掛けずに始末するしかない。
幾つもある破壊のイメージを思いうがべ、この坑道で使えるか精査しながらも足下に転がっている小石を俺はいくつか拾い上げていた。




