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第三十八話 雷鳴


 「前進!」


 グレイズの号令を合図に、騎士達が坑道の中を歩き出したが、その騎士達の表情は暗かった。

 昨夜の出来事は直ぐに騎士等の間に広まっていたのだ。

 

 (このままじゃ不味いな…)


 不安や疑問は集団にとって尤も排除しなければならない要素だ。

 ユウジはロゼに近付きユーリヒやグレイズに自分の事やフェニルの事を話すべきか相談する。

 

 「…そうね…ユーリヒ様やメルカス殿なら、ユウジさんにとって不都合になるような事はなされないと思う…でもユウジさんの記憶やそれに関する事は言わない方が良いと思うわ」

 「信じられないからかな?」

 「それもあるけど…ユウジさんが言う"神たま"の問題が大きいわ。この国の大多数はやはり何らかの宗教を信じているのよ。大概は女神イヌラを信仰する宗教だけど、年配者方の中には龍神ドーラを信仰する者もかなりいるわ」

 

 どうやら新たな神の出現を、受け止める寛容な宗教観がないとの事だ。

 

 「ならフェニルの事くらいなら構わないかな?」

 「それでもかなりキワドいけど…だって精霊よ?」

 「当の本人は精霊とは言って無いけど」

 「問題は私達がどう見るかでしょ?…フェニルはどう見ても精霊にしか見えないわよ…」

 

 この辺りがユウジには理解できない。

 ロゼが言うには精霊の記述がほぼないのにフェニルを見て精霊と判断するのは何故なのだろうか?

 産まれたての子鹿は、産んだ雌鹿を親と認識してるのか?的な感じだ。


 「でもこのままじゃ良くないわね…グレイズ様やユーリヒ様に話してから実際にどうするか早めに話し合ったほうが良いわね…ユウジさん少し待ってて。グレイズ様に話してくるわ」


 ロゼが先頭辺りにいるグレイズの下に馬を走らせる。

 ジャンがユウジの横に馬を並べる。


 「フェニルの事話すのか?」

 「話さないと…これじゃ駄目でしょ」


 騎士達の表情を見てジャンが溜息をつく。


 「確かにこれじゃ駄目だな。まあユーリヒ様とグレイズの旦那がどんな顔するか楽しみだな」


 それだけ言うとジャンはユウジから離れていく。それと入れ替わるようにロゼが戻って来た。


 「ユウジさん、グレイズ殿に昨夜の化物の事でユーリヒ様とグレイズ殿にユウジさんからお話があると伝えました…今グレイズ殿がユーリヒ様にお伺いをたてています」

 「そうか…ありがとうロゼさん」

 《フェニル、昨日の今日だがまた頼むぞ》

 《わかってるわよ…でもねユウジ。余りゆったりしてる時間無いかもよ?》

 《…なにか有るのか?》

 《多分昨夜みたいな事起きると思う。嫌な波動が強くなってるの》

 《……わかった俺にはまだ感じないがユーリヒ様とグレイズ様にも話しておかなきゃな…》

 

 



 石造りの長い歩廊を甲冑を着けた男が歩いている。

 ときたますれ違う侍女は、甲冑の男の顔を見て何事がおきたのかと不安な気持を持つ程に、焦燥感漂わせる青白い顔に見て取れた。

 彫刻が刻まれた立派なドアの前で男は立ち止まり自ら気合を入れるように顔を上げドアをノックした。


 「青銅騎士団長ロワン・ヴァナ・フレムナード。召喚により馳せ参じました」 

 「入れ」


 分厚いドアの奥から軽薄な声がした。

 気分的なものか、やけに重いドアを開け室内を見れば、呼び出した本人のボールベン宰相が、巨大な執務机に備え付けられた華美な椅子にふんぞり返っていた。


 (…ブタ野郎が…)


 声に出せばその先にある未来は斬首なのは分かりきっていたので、あえて今それを試す愚をロワンはしなかった。

 巨大な執務机の前にある豪華な接客用のソファーに、痩せた狐顔の男が粘ついた視線をロワンに向けている。

 

 この痩せた狐顔の男はサルモン辺境伯の副官タッグナー子爵だ。

 ドアを閉じたロワンは起立したままボールベン宰相の言を待つ。


 「フレムナード、また動いて貰うぞ」

 「……は、どのような御命令でしょうか」

 「それは私からお話しします」


 狐顔の男がボールベンの代わりに説明する。

 

 「先の馬車襲撃で任務を遂行出来なかった君には信用を取り戻す良い機会だよ」


 (サルモンの腰巾着が……)


 「君には青銅騎士団を率いてメルカス領のサージュの町を抑えて貰う」

 

 ロワンは強張った顔をボールベンに向けた。


 「青銅騎士団だけで抑えるのですか?不可能です。サージュの町はメルカス伯爵が館を構える直営地ですよ?騎士団の数も…」

 「いやいや、何も戦争を仕掛けろとは言ってないよ。ボールベン様から先のモーズラント商会への馬車襲撃事件を重く見た宰相殿からの協力を記した書状を持って、サージュへ青銅騎士団を駐留させるのだ」


 (…こいつら…腐ってやがる…)


 「君は知らないだろうが現在サージュの町にはグレイズはいない」

 「………グレイズ殿がいない?」

 「どのような策略があるのかは分からんが、メルカス伯の命令でグレイズは今メーガン領モンタスへ向かっている」

 「…………………………」

 「君の青銅騎士団がサージュの町に駐留する事でメルカス伯への牽制を掛ける…いざとなればシレミナ様とアネリア嬢を手中におさめる事も駐留していればやりやすいだろ?」


 (…こいつ本当に騎士なのか?…)


 宰相の考えとは言え当然だと言わんばかりにペラペラと話すタッグナーに同じ騎士として吐き気を覚える。

 

 (流石サルモンの糞野郎の副官に抜擢されるだけはある…)

 

 ボールベンがその膨れきった体を揺らしながら立ち上がる。


 「ロアン。失敗の不名誉回復の機会をお前にやるのだ。直ちに動け!」

 「……御命令受け賜りました…我が青銅騎士団はメルカス領サージュに向かい直ちに進発いたします」


 その場でくるりと身を翻し、ドアを開け部屋を後にした。


 宰相の命令に反しモーズラント家のアリサ嬢を、他国へ逃した事が露呈したかと覚悟をしていたロアンは、ホッとしたと同時に、再度の下衆な命令に気分が悪くなっていた。


 (そろそろ潮時か…碌でもない命令だがよい機会だ…メルカス伯爵と話さねばならんな…)


 ロアンは覚悟を決めた足取りで来た歩廊を歩きだす。


 


 

 「ユーリヒ様を守れー!」


 グレイズの声が響き渡る。

 

 「くそったれ!何で種族が違う魔獣が集団で襲って来やがるんだ!」


 ジャンには珍しく、焦りの色がその声から読み取れた。

 バロンドが馬車の傍らに居たユウジとロゼの下まで後退してくる。良く見れば頑強なバロンドの身体にいくつもの傷が刻まれている。


 「この数は異常だ…引くことも出来ん…」

 

 バロンドに素早く回復の魔法を掛けるロゼ。


 (完全に囲まれてる…)




 魔獣の襲撃を受けたのはグレイズがユーリヒへ伺いをたてていた最中に起きた。

 

 《ユウジ!囲まれてるわ!》


 突然フェニルの声が頭に響き慌てて辺りを見渡す。


 「囲まれてるぞ!!」


 俺の声に進軍していた騎士が足を止め素早く防御陣形を組む。


 グレイズが部下に指示を出すのと同時に囲んでいた魔獣が一斉に襲いかかってきたのだ。


 完全に不意を突かれた形になった騎士達は防戦一辺倒になっていた。

 

 「ずっと続いていたプレッシャーが魔獣の気配の目くらましになってたわね…」


 計算してやったならかなり知恵がある奴が魔獣をけしかけたのだろうが、そもそも魔獣を手懐ける事が出来るのかユウジにはわからない。


 「ロゼさん、広範囲にミストバレットを使います」

 

 ロゼがハッとして全員に聞こえる声を張上げた。


 「全員馬車の周りに集まって下さい!ユウジさんが魔法を使います!巻き込まれます!」

 「全員馬車を守るように密集体形!急げ!」

 

 ロゼとグレイズの声で応戦している騎士達が馬車を守るように密集体形を取る。

 俺のイメージが一瞬のうちに現出した。


 強烈な稲妻が渦巻く霧の中を暴れまくる。

 耳を劈く様な放電音と渦巻く大気の風切り音は騎士達を竦ませた。


 ミルク色の渦巻く大気の中を青白い閃光が走り有機物が焦げた匂いが漂う。

 一分程続いた狂気的な渦が一瞬にして霧散する。


 馬車の周りには焦げた無数の肉片がばら撒かれている。

 しんと静まり返った坑道内にグレイズの命令が響いた。


 「防御陣形をとりつつ慎重に範囲を広げ残敵がいないか調査はじめー!」


 グレイズの号令に騎士達が素早く行動を起こす寸前ロゼが静止する。


 「駄目!……まだいます…」


 洞窟の奥、薄暗い岩場の横に巨大な影が立っていた。


 「いやいやいや、これは予想外だな。ロゼお前の魔法か?」


 野太い声を聞いたジャンとロゼが息を呑む。


 巨大な影がノソリと動き、一歩二歩と前に進む。


 「…何でお前が…」

 「そう睨むなよジャン。今からお前等をゆっくり…ゆっくり…グッグッ…」


 巨大な体躯の男は強烈な殺気を辺りに撒き散らす。


 見覚えがある顔にユウジはグッと歯を噛みしめる。


 「……ゲダさん…」


 片手を失い冒険者を引退したゲダがそこにいた。

 失った筈の左腕がそこにはあった。

 

 

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