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第三十六話 マルガリ大坑道⑤


 "あ?剣の腕…俺は意外とグレイズの旦那だと思うんだがなー"

 

 数日前この大陸で一番剣の腕の立つ男は誰かと尋ねた時のジャンの答えだ。

 ジャンのナイフを弾いた化物の身体はグレイズの剣で深い傷を負っていた。

 だが、深手を負った化物から湧き出る気持ちの悪いプレッシャーは全く衰えを見せていない。


 (なんで前よりプレッシャーを感じるんだ?)


 俺の疑問にフェニルが答える。


 《体を支配してる存在にあの人の剣は届いて無いのよ…》

 

 どう言う意味だと問う。

 

 《あの化物の体を動かしてるのは私と同じ存在なのよ…だから物では傷を付けることが不可能なのよ》


 ああ、これはあれか…どうやらあの化物を操ってる奴はスピリチュアル的な物らしい。

 つまり神聖系?の物や魔法とかが唯一ダメージを与える事が出来るとか言うお決まりのパターン。

 

 《…だけど身体がバラバラになったら流石に無理だよな?》

 《動かなくなるけど…中身は無傷だからまた同じ事が起きるかも…》

 

 憑依だか寄生だかわからないが、そんなものが化物の体から出た時何が起きるのか…危険な考えしか思い浮かばす、グレイズの勇戦を後目にロゼさんとジャン、バロンドに合図を送り一箇所に集まった。

 俺はフェニルから聞いた同種らしき何かが化物の中にいることを三人に話す。

 

 「あの化物の中に流精虫が居るって事か?」

 「フェニルが言うには全く同じ存在ではないらしい…と言うかフェニルの存在事態が…」

 「待て!何かヤバいぞ!」


 バロンドの声で化物に目を移すと、切り刻まれた化物の体から紫色の粘液が流れ出して足元に広がっていた。

 その紫色の粘液がウネウネとスライムのように動き斬り掛かるグレイズに襲い掛かって行く。

 

 「流石にあれはヤバいな…」


 紫色の粘液は化物を覆い斬り刻まれた傷口を塞いでいる。


 「……グレイズの旦那の意思に反するが…早めに片を付けた方がいい感じしないか?」

 「ああ…同感だ」


 バロンドがジャンの意見に同意する。それはロゼも同じだったのか深く肯いた。

 

 「ユウジ、ロゼには支援魔法を掛けてもらうつもりだ。あれの中身が精霊に近いもんなら俺達には荷が重すぎる…やれるか?」


 ジャンが鋭い目を俺に向けた。

 俺は一瞬ロゼさんの顔を見る。


 「あれを放置出来ないですよ…」


 ロゼさんにはむやみに俺の魔法を見せるなと言われたが、今あれを放置する事は出来ない。

 

 《フェニル、あの中身の奴を滅ぼすならどんな魔法が良いんだ?》

 《…それを私に聞くのか…まぁ良いけど…ユウジ、あなたの記憶にある知識で起きる魔法はこの世界の魔法とは桁が違うわ。あなたがいた世界…本当に恐ろしい世界よね。》

 《…つまり火一つとっても温度の桁が違うって事か?》

 《ユウジの記憶に存在する熱は馬鹿げているわ…》


 この世界では魔法と言えども高い熱を発する事が出来ないのだろうか?。鉄の剣があるのだから最低八百度から千四百度程の熱を作り出す事は出来ている筈で、この辺りは追々ロゼさんに聞いていけばよいだろう。

 ゲームや小説等で浄化的な魔法が出てくるが、聖属性とかは俺にはイメージが出来ない。そうなると高温、低温とかの小学校から教えられてきた物理的な物の方がイメージが出来やすい。

 ただ、坑道のような余り広くはない場所で使える現象となると余り高出力だと色々弊害が起きそうだ。

 はたして精霊的な物に熱が効くのか不明だが、やるしかないだろう。

 

 《フェニル、熱は奴に聞くと思うか?》

 《効くわよ。火は熱を発するのと同時に火の属性ダメージを与えるから》

 

 属性…


 余り意味はわからないが、あの化物を倒さなければならない事だけは明白だった。

 ロゼさんが低い声で支援魔法を詠唱を始める。

 俺はひたすら化物を屠る熱のイメージを固めていく。

 熱と言っても核分裂で発生する熱や、どこぞの加速器で達成した五・五兆度とかではなく、純酸素燃焼程度の熱のイメージをしていく。

 所謂バーナーやボイラー等で使われるアレだ。

 尤もバーナーやボイラーなどでは支燃性ガス等に酸素を加え燃焼温度を上げるわけだが、イメージだけで魔法が現出するとなればその結果としての熱のイメージをはっきりと思い浮かべていれば燃料やら酸素等は必要ないのだ。

 ロゼさんの詠唱に気付いたグレイズがチラリと俺達を見たが何も言わず唇を真一文字にして化物と化した部下を見る。


 「…すまんなマルセリーノ…私が始末をつける立場なんだろうが…」


 騎士として鍛え上げてきた己の剣が致命傷とならない歯痒さ…魔法と言う余りにも理不尽な力に頼らなければならない悔しさがグレイズの言葉となって漏れた。

 

 俺は熱のイメージを現代高炉の2千度程に定める。

 資材調達部いた頃製鉄所に何度も足を運んだ時実際に見たイメージだ。

 原理的に解る原子炉の熱等は実際に見た高炉の熱に比べイメージしにくい。

 

 詠唱が終わり俺達の体を包むように薄ボンヤリとした光が包む。


 「行くぞ、ユウジ。お前の魔法の初お披露目だ、派手に決めてくれよ」

 「これが効かなきゃもっとヤバいの出しますから…」

 「………………そっか…」

 

 バロンドが盾を前に化物に向かい突撃する。


 「うおぉぉぉー!」


 ウネウネと動くスライム状の触手がバロンドの声で動きを止めた。

 泥虫の時もそうだったが、バロンドの雄叫びは動きを止める効果があるようだ。

 ジャンが筒状の物体を化物目がけ投げつけると中の液体が飛び散り化物に降り掛かった。

 化物を覆っていた紫色の何かが煙を上げながら真っ白になった。

 

 「行けユウジ!化物は凍らせた!」


 (液体窒素か?)


 俺は化物の体の中心に一メートル程の高温の球体を現出させた。

 高温の球…

 それは溶解した鉄でも岩石でも無い純然とした高温の球体だ。

 色は青白い熱の球体、それは光そのもののようだ。


 化物の身体は爆発したように一瞬で気化する。

 強烈な熱は予想外に周りにもその熱を撒き散らした。

 地面の岩盤が真っ赤に溶け出しているのを見て俺は慌てて球体を消した。


 俺は辺りを見渡し他の騎士に被害が及んでいないのを確認してホッと胸を撫で下ろした。


 (…予想以上の熱でヤバかった…)


 どうやらイメージがちゃんと出来ていなかったようだ。

 

 「…まぁ派手にやれとは言ったが…岩が溶けるって有り得んだろ…あー…いや、確か神話でそんな話があったか…」

 

 ジャンがパタパタと顔を手の平で仰ぎながら呟く。

 

 「あの気味悪いプレッシャーは消えたが倒せたのか?」

 

 バロンドが俺に確認してきたが俺に分かるはずもなく、フェニルに尋ねることにした。


 《フェニル、倒せたか?》

 《ええ一瞬で消滅したわ……》

 

 「完全に消滅したとフェニルが確認したよ」

 

 バロンドが肯き、ジャンがきまり悪そうにグレイズに近づいて一言二言声をかけるとグレイズが俺を見て頭を深く下げ直ぐにユーリヒが休むテントに向かい歩き出していった。


 「ユウジ、まぁグレイズの旦那にも色々立場って物があるしな…」

 「わかってますよ痛いぐらいに…」

 「そっか…お前本当に十三歳か?」

 

 周りに居た騎士達が恐る恐る化物の居た辺りを調査し出したのを見て俺達はテントに戻ろうとした時、フェニルが俺に語り掛けてきた。


 《ユウジ、少し話が有るの…》

 《ん?何だ?》

 《んー出来たらテントの中で私の事を知る人にも聞いてほしいことなんだけど…》

 《………わかった、話してみる》


 俺はロゼさんやジャン、バロンドに今のフェニルの言葉を伝える。

 

 「ほー…テントでって事は無闇に漏らしたくないって事だよな…俺は良いぜ」

 

 バロンドとロゼさんも同意して俺達はテントに向かう。

 一つのテントに四人寝るには流石に狭いが、座るぶんには充分な広さがある。

 当然のように俺の横にロゼさんがピタリと座るのを見てバロンドが深く肯きジャンはと言えば"いやーお熱いお熱い"と茶化してくるのはジャンの仕様だろう。


 座った俺の胸から小さな光が飛び出す。


 フェニルを始めてみたバロンドが目を見開き興味深く観察していると俺の当初の妖精のイメージ通りの姿になった。


 "人型の方が会話しやすいだろうから"とフェニルが気を利かせたようだが、俺がイメージする妖精がこの世界の人にどう受け止められるかは不明。


 「先ず話しておきたい事は二つ。さっきの化物の中にいた物の事と…あと一つはユウジ自身の事よ」

 「俺?」

 「ええ…先ずはあの化物の事から話すわ…」


 魔灯の灯るテントの中、俺達はフェニルの話に耳を傾けたのだった。

 


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