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第三十四話 マルガリ大坑道③


 「大体そのロワンって騎士とその仲間達は今どうしてんだ?」


 ユーリヒの話では、青銅騎士団は命令通りアリサ嬢を始末した事にして次の指示を待っていると言う。


 「シレミナ様としてはどうなんだ?」

 

 ジャンがユーリヒの顔を見て問う。


 「レオル・モーズラントの死は騎士団に罪を問うことは出来ないと…シレミナ様も王家の方ですから…そのことは理解しています。罪を問うのは今回の首謀者…」

 「今回のユーリヒ様のモンタス行きは首謀者に関係する事なのですか?」


 ロゼの問いかけにユーリヒが深く肯いた。


 「私の要件は、ロバート・アル・メーガン伯爵との密談です…モーズラント家の者を狙ったわけですから当然お祖父様は犯人割り出しに全力を傾けるのは、相手にもわかって居るはずです」

 

 だから本気の護衛が必要なのだとユーリヒは言う。

 知られたくない事が有る奴は手段を選ばないだろうし、事によってはサージュの町ごと潰さない保証も無いだろう。

 ボールベン国務長官やサルモン辺境伯がその気になったらメルカス伯の騎士団だけでは抵抗出来ないのは火を見るより明らかだろう。

 今回のメーガン領へ赴くのはメルカス伯爵にとって重要な事だ。


 そこまで聞いたジャンが俺の顔を見てニヤリと笑う。

 

 「ユウジにとっては青天の霹靂って感じだろうな…俺やロゼ、バロンドなんかはこの国で生まれたわけだから仕方ないと諦めもつくが、ユウジは違うだろ?記憶が曖昧じゃ別世界の話と同じだろうしな」


 ロゼさんには俺自身の事を話してある。

 確かに前世の記憶量が多く、この世界を別世界と感じる事はある。

 だからと言って現実から目を背けて生きるつもりもない。


 「そうでも無いですよジャンさん。俺にも色々大事なもの出来てますからね。知らない奴がのこのこ現れて色々引っ掻き回すのを傍観(ぼうかん)するつもりは有りませんよ」


 テントの中にいた者全員が背中に悪寒を感じた。

 ユウジの中の傲慢で冷徹な一面が顔を覗かせ、それがフェニルに作用したのか周りのガナにも影響を与えたようだ。

 ロゼがユウジの横に座りペタリと体をくっつけながらユウジの手の上に自分の手を重ねた。

 そんなロゼの行動にグレイズは少し驚いた表情を見せ、バロンドは感心したような表情をする。

 ジャンは当然ニヤニヤとしていたが、そのての経験が無いのか、ユーリヒが顔を赤らめ視線をあちこちに漂わせていた。

 


 「そうだったな、今のユウジには守るものが有るようだしな…んで、これだけかい話ってのは」

 「今話せる事は…ですが」

 「了解だ。今回の護衛はもしかするとサルモンの屑野郎の邪魔が入る可能性が有るって事だよな」

 「そうです…」ユーリヒが肯く。

 

 貴族の前で同じ貴族を屑野郎呼ばわりするジャンに、ユーリヒも微妙な表情をするがジャンはお構い無しだ。

 グレイズが傍らの小箱からニ通の書簡を取り出し俺の前に差し出す。

 

 「これはシレミナ様とアネリア様からユウジ殿へ渡して欲しいと頼まれた書簡だ」

 「…ありがとう御座います。確かに受け取りました」

 



 「じゃあ俺とバロンドが先に見回るからお前等休んどけ」


 俺とロゼさんは肯き各々のテントにはいる。

 護衛依頼は大概四名パーティーで受けるのが一般的だと言う。

 護衛対象が休憩中パーティーも交代で休憩を取るのだが、必ず二人一組で行う。

 これは当然と言えば当然の事だろう。

 大手の警備会社の警備員や警邏中の警察官等がニ名一組で行動する理由も同じ理由による。

 何らかの問題が発生した場合二人一組なら同時に行動不能になる可能性が低いし、対処するにも何かと便利であるからだ。


 ジャンの強引な割り振りで(気を遣ってくれた?)ジャンとバロンドが先に見回り俺とロゼさんが交代用に先に休憩する事になった。

 バロンドさんからはロゼさんとの事をあれこれ詮索される事は無かった、これはバロンドさんが子持ちの妻帯者だからなのかバロンドさんの性格なのかは置いとくとして、ジャンは俺の傍らに寄り"男なら決めてこい"等と護衛中にあるまじき言葉を俺に掛けてくる。

 

 (仲間思いなのか何なのか…取り敢えずジャンさんの悪魔の囁きには気を付けねば…)


 当然ロゼさんとはテントは違うのだが、それは集団で行動する場合当然なのだ。

 俺はテントの中で座りながらグレイズから手渡された書簡を開く。


 アネリアの母親からの書簡は自身の出生の説明とメルカス伯爵との関わり合い等が書かれていた。

 やはりメルカス伯爵は十三年前の王弟反乱に関わりがあり、反乱に失敗した場合その後を引き継ぎ、この国を良い国に導く為の人間を育てる役割に徹した人のようだ。


 (…その辺の事情、ユーリヒ君は知っている…んだろうな…多分) 


 人は見聞きした人と何がしらの柵を持つ、それが自分自身の妄想と言えども影響を受ける。家族、親戚ならばその柵はより自分の中に強固に築くものだ。

 昨今…目に映る、耳に聴こえる物に何の興味を覚えない若者も多いと聞くが、五十過ぎた私でも確かに社外の若者の行動や言動に何も思わなくなっていた。

 無関心は歳のせいなのか?等と考えた事もあったが…


 それはさておき、シレミナ様からの書簡には俺自身の将来に何がしらの影響を及ぼす可能性が、今後この国で起きるで有ろう事、記憶が無い俺を心配して面倒事に巻き込まれないように別国の知り合いの商人の所へ身を寄せる都合を付ける事も可能だと書かれてあった。


 (…有り難い事だな。何処の馬の骨かもしれない俺にここまで気を配ってくれるなんて…)


 娘のアネリアを助けた御礼は色々として貰った訳だが、人との絆を大事にする商人に嫁いだ女性…と言うより人の上に立つ人間の教育の賜物だろう…


 (…王家や貴族が民草に打倒されるのは俺の世界でも歴史的によくあったことだしな…)


 アネリアからの書簡にはシレミナ様の書簡よりも簡略に俺の身をあんずるアネリアの心情が滲み出ていた。

 

 《…………現状はお母様の書かれた通り余り思わしく無い事が起きているようです。十三年前の反乱を今起こそうとする者は、当時反乱に加担した貴族や商人の中にいないとメルカス伯爵は仰られていました。

 お姉様が隣国にて存命だとグレイズ殿から聞き及んでおられると思います。

 実行犯の証言で色々分かってきた事も有りますが、どうかユウジ様におかれましては、お母様の御提案を受けて隣国へ逃れて頂きたいと思っています。

 今回の騒動は複雑で、未だ伯爵もお母様も全容を掴めて無いのが現状です。メルカス様や私達のようにこの国に生まれ、立場ある者は逃れるわけには参りませんが、ユウジ様がこの国の面倒事に巻き込まれる事はありません。

 ユウジ様においては賢明な選択をするよう願います。》


 俺は書簡を脇に置き寝そべって目を瞑る。

 

 《ねぇねぇユウジ、シレミナとかアネリアって誰?》

 《…フェニルは文字が読めるのか?》


 俺の中にいるフェニルが興味津々に聞いてくるので仕方無く俺はアネリアとアネリアの母親の事をフェニルに説明する。

 

 《フェニル、変な事を聞くが…フェニルは離れている人の記憶や考えがわかったりするか?》

 《あのね、そんな事出来るわけ無いじゃない》

 (だよなー…)

 《何でそんな事聞くの?》

 《だって便利だろ?考えが読めれば相手の全てがわかるじゃないか》

 《わかったらつまらなくない?》

 《………………………》


 いったいこのフェニルとは何なんだろうか?

 生まれたばかりの筈なのに人の文字を読み……

 

 (ん?何だ……この感覚…) 


 テントの扉が開いてバロンドが俺に声をかけてくる。

 

 「ユウジ気付いたか?」

 「ええ…何か嫌な雰囲気ですね…」


 バロンドが破顔する。

 

 「まぁお前なら気付いて当然だな…俺はグレイズ殿に知らせにいくが、当然グレイズ殿は感知してるだろうな。ユウジはロゼさんと一緒にジャンに合流してくれ」


 "分かった"と応え俺はテントを出る。


 《フェニル…この感覚わかるか?》

 《当然!…でもこれ…変な波動よね…》

 《変?》

 《んー何と言うか…純粋に獣や人の発する波動じゃ無いのよ…厳密に言うと人とあの獣避けの魔道具が混ざったような気持ち悪い波動だわ》

 《……へー…そりゃ意味わからないな…》

 

 ロゼさんのテントの前に着くと扉が開いてロゼさんが完全装備で出てきた。

 

 「護衛初日から忙しくなりそうね…それにこの気持ち悪い波動…気分が悪くなるわ」

 

 歩哨に立つ騎士達にはこの感覚がわからないのか、何食わぬ顔で真面目に任務を熟してるようだ。

 ロゼさんが冷ややかな目を歩哨の騎士に向け呟く。


 「もう少しグレイズ殿には部下の教育に力を入れて欲しいわ。こんな鈍感じゃEランクの冒険者にもなれないわ…」


 ロゼさんの言うことは尤もだ。

 この気持ち悪い感覚をわからず魔獣討伐等受けたひには、無駄に命を捨てに行くようなものだろう。

 

 俺自身もそれ程危機感を持って生きて来たわけでは無いが、流石に前世でもこの気持ち悪い感覚くらいは分かる気がするのだ。


 「よう、来たか」

 

 ジャンがゆっくりと振り向きニヤリと笑う。

 

 「いやー初日からこんなんだとこの後が思いやられるぜ」

 「ジャン、何だと思う?」

 「俺に聞くのか?ロゼの方がガナ探知能力高いだろ?」

 

 ロゼがジト目でジャンを睨む。

 

 「貴方の役割は何?索敵はジャンの役割でしょう」

 「そうなんだが…この感覚は今迄に感じたこと無いから迂闊に動けなくてな…」


 当然ジャンもこの気味の悪い感覚に警戒をしているようだ。


 「……フェニルが言ってたんだが…」


 俺はフェニルが感じた人と獣避けの魔具が混じったような波動の事を二人に話すと二人共厳しい顔をする。


 「あの精霊が…か…こりゃグレイズの旦那にも話しておかないとな…」


 俺はこの日この国に将来起きる事にズッポリと首を突っ込む決心をする事になろうとは今は思っては無かったのだった。

 

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