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第三十三話 マルガリ大坑道②


 「騎士達の野営の食事ってこんなに美味しいんですね…」


 俺の素直な言葉にジャンとバロンドが笑い出す。


 「いやいやいや、それは違うぞユウジ。普通はこんな食い物食べてないぜ」


 ジャンの後をバロンドが続ける。


 「ああ、この護衛はユーリヒ様の護衛だから特別なんだよ。ユーリヒ様は優しい方だから、自分だけ良い物を食べてるのを見れば御自分を責めなさる人柄だからなー」

 「……そうなんですか?…でも立場や貧富で差があるのはしかたがないと思うんですが…」

 「ああ、それは俺達から見れば当然なんだが…その辺りメルカス伯の教育方針なんだろうよ。ただ、あの感受性で領主になったら色々大変だろうとは思うよ…」

 

 (皆が皆公平な暮らしが出来る世界…概念的には分かるが実際のシステムを構築出来るかは難しいし、人間と言う生き物に果たしてその社会構造が良いのか俺には判断がつかない…)

 

 固くないパン。野菜がたっぷり入ったスープ。肉と果物。

 パンはどうやら魔具で焼いた物が出されているようだ。

 肉や果物はかなりの量積み込んで有るようだが、護衛途中で補充する事も可能だろう。

 水の樽もかなり積んでいて、この護衛任務の重要性を窺い知る事が出来た。


 始終俺の横に座りあれこれ世話をやくロゼを見たバロンドがジャンに尋ねる。

 

 「なぁジャン。俺の思い過ごしかもしれんがロゼ殿とユウジは良い仲なのか?」

 「ん?ああ、見た通りだ」

 「何と!ロゼ殿に遂に男が出来たか…こりゃめでたい。サージュの男共が知ったら奴らの悲痛な叫びが聞けるぞ」

 

 膝を叩いて笑うバロンド。


 「いやーしかし勇者ユウジ、どうやってロゼ殿を口説いたのかご教授願いたいものだな」

 

 バロンドがユウジに聞いてくる。


 「バロンドさん…もう結婚してるんでしょ?聞いてどうするんですか…」

 「いやなに、単なる興味だ!」

 「はー…俺がペラペラと話して良いもんじゃないようですよ…」


 バロンドの顔をロゼが白っとした目で見ていた。


 「お!おお…これは失礼した。当の御婦人の前で話すことではなかったのー…」

 

 護衛の布陣や役割等を再検討しながら食事を摂っていく。

 食事後ロゼがお茶を煎れ飲んでいると、テントの外から声がかかった。

 

 「護衛の冒険者の方々、グレイズ騎士長からの命令でお迎えにきました」


 ジャンがテントのドアを捲り上げると若い騎士が立っていた。

 

 「お迎えありがとよ」


 ジャンが言うと若い騎士は背筋を伸ばす。

 

 「いえ、役目ですので」


 俺達は騎士の後に付いてユーリヒのテントに案内されたのだった。

 


 ユーリヒ・ラジェ・メルカス

 現領主メルカス伯の孫であり病弱の父親に代わり次期領主を期待されている。

 父親の代役を健気に務めるユーリヒの印象は良く、領民から次期領主を期待されている。

 ジャン等に言わせれば、貴族の子供なんだからもう少し自由にやれば良いのにと、笑いながら言う。

 

 「良く来てくれた冒険者の方々」

 

 ユーリヒは椅子から立ち上がりユウジ達を迎えた。

 

 「早速だが、今回の任務の重要性を理解して貰うため君等に私が受けた任務を知らせておこうと思う」

 「…それを知った俺達に何か枷がかかるのか?」

 

 相手が貴族だろうがジャンの口調は変わらないようだ。

 ユーリヒが首を振る。

 

 「いえ、それは有りません。ただ、今回の任務の内容を理解していないと判断に迷う場面がありますから…」

 「ん?俺達は護衛だろ?」

 「はいそうです。ですが場合によっては…例えば僕の命とサージュの町に住む全ての人の命を秤にかけたならどうしますか?」

 「………そう言う…内容なのか?」

 「可能性の話ですが…」


 ユーリヒは傍らに立つグレイズに声をかける。

 

 「グレイズ。君がお祖父様に話した内容を彼等に」

 

 グレイズは一つ肯く。


 「かなり複雑な内容なのだが……」 


 

 


 「グレイズ様、馬車が見えました!」


 サージュの町を出立したグレイズ達は馬を走らせ続け、一夜明けた早朝には襲撃場所に辿り着いた。

 

 「馬車から二十メートル前で下馬!辺りを慎重に捜索しろ!」

 「了解しました。二十メートル手前で下馬。捜索を行います!」

 

 キビキビとグレイズの指示に従い騎士が動く。

 自ら下馬をしたグレイズが破壊された馬車の前に立つ。

 日は経ってはいたが馬車の周りには流れた血の跡が地面に黒いシミを作っていた。

 襲撃された馬車は扉以外には破壊された跡は無かったが、いくつかの切創が見て取れた。


 「……なる程。確かに野盗の類では無いか…」

 

 地面に残る足跡を見れば戦闘をした人物の力量の最低ラインはわかる。

 

 「グレイズ様。複数の蹄の跡が残っています」

 

 部下の報告の蹄の跡を目で追う。


 「カルセル!エンリ!二人はこの場に残り調査しろ。他は蹄の跡を追うぞ」

 「了解しました」


 二人の騎士がグレイズの元に駆け寄ってきた。

 

 「カルセル、エンリ、襲撃者の痕跡が無いかこの場に留まり調査しろ。もし、何か見つけたなら直ぐに我々に合流、無ければ一日後我々のあとを追って合流しろ」


 グレイズの命令に二人の騎士は敬礼をする。

 「わかりました。我々二人はこの場に留まり、襲撃者の痕跡を見付ける任務を全うします」


 グレイズは肯き他の騎士たちを引き連れ襲撃者が残した蹄の跡を追う。

 

 「…まずいな…」

 

 街道を外れ深い森林を襲撃者の残した蹄の跡を追っていたグレイズが空を見上げ呟く。

 昼前と言うのに空は灰色の分厚い雲に覆われ今にも雨滴が落ちて来そうだった。

 雨が降れば当然馬の蹄の跡を追えなくなる可能性が高い。

 追跡する騎士達の中にも焦りの色が見え始めていた。

 少し前を進んでいた騎士が片手を上げるのを見てグレイズは馬の速度を下げた。

 先頭の若い騎士がグレイズの元へ馬を走らせてきた。

 

 「団長!前方に…遺体が…」

 

 グレイズは思わず顔を顰め奥歯を噛み締めていた。


 「全員下馬!前方に遺体有り。各々辺りを警戒しつつ捜索を実行。エイヒル!私と共に遺体の検分をする、来い。」

 「了解しました」


 グレイズはエイヒルと言う騎士を連れ遺体がある場所へと赴くと、そこには惨たらしい女性の遺体があった。

 グレイズの横に立つエイヒルの身体が震えた。

 

 「これは…酷いな…」


 遺体は衣服を纏ってはいたが、あちこち獣によって食い破られ酷い有様だった。


 「エイヒル…走査頼む…」

 「…わかりました」


 エイヒルと呼ばれた騎士が遺体を中心として円形に拳大の魔具を六ケ所置いて呪文を唱え始める。

 

 「……凄いですね、心の臓を一突き…他に刀傷一つ有りません…」

 「暴行の跡も無いのか?」

 「はい。遺体がこれ程損壊してるのは遺棄されてから時が経って、獣や虫等にやられたせいです…まぁそれでも首を切り離してるのですから情けは有るんでしょう…」


 エイヒルが遺体に群がる虫を排除する魔法を使うのを見ながらグレイズは考え込む。


 (心の臓を一突き、暴行の跡もなく首を切り離してる…か)


 どう考えても野盗の類の犯行では無いだろう。

 エイヒルがグレイズにそっと手を使いサインを送っている。


 (北東百…何者かが此方の様子を伺ってる…か…)

 

 グレイズは後方の騎士達に手で指示を素早く出すと騎士達は不自然にならないように各々が行動していくのだった。



 

 「…何者だったんですか?」


 ロゼが聞く。


 「此方を伺ってる奴を捉えようとしたら仲間がいて戦闘になるかと思ったが…奇妙な事になってな…」

 「………………………」


 グレイズ達の前に現れたのはグレイズにとっては懐かしい男の顔だった。

 以前知った男の顔にあった自信は影もなく、暗く疲労だけがその顔に張り付いていた。

 

 男の名はロワン・ヴァナ・フレムナード。

 その男は青銅騎士団を率いてる知古の男だったのだ。

 少しグレイズは目を閉じた。


 「ロワンは私に今回のモーズラント家の馬車襲撃とその目的を話しました…」

 「……………………」

 

 ユーリヒがグレイズの後を続けた。

 

 「ロワンと言う男の話を信じれば、今回の馬車襲撃の目的は十三年前に起きた王弟反乱の再現のようですね…ただ、色々複雑な要素も絡まっています…」


 ジャンが顔を顰める。


 「なんかこう…碌でも無い想像ばかりが現実になるよな…」

 「今回の件に関わっているのは今わかってるだけでボールベン宰相、青銅騎士団…それとサルモン辺境伯…」

 「サルモン?それは確かなのか?」

 

 ジャンの質問にユーリヒが少し曖昧な表情をする。


 「サルモン辺境伯が直接関わっている証拠は無いのですが、ロワンと言う騎士がボールベン宰相の私邸で、何度もサルモン辺境伯の副官タッグナー子爵を見ているのです…」

 「……確かに怪しいな…だがサルモンの野郎は今更何で現体制をひっくり返すんだ?現体制に不満があるなら十三年前……」

 

 ジャンとロゼの厳しい表情を見てグレイズが歯軋りの音を漏らす。

 メルカス伯爵に仕えるグレイズにとっても十三年前の出来事は何かしらあったのだろうとユウジは見て取った。

 ユーリヒが一つ咳払いして続ける。


 「これはモーズラント家には…厳密にはシレミナ様とアネリア様にはお伝えしてあるのですが…アリサ嬢は生きています」

 「はぁ?」

 「えっ!」


 俺、ジャンやロゼ、バロンドが同時に声を上げた。

 

 「いや、だってグレイズの旦那のさっきの話だと…」

 「実はグレイズ達の見つけた遺体はアリサ嬢では無かったのです。理由があって攫った本人が国外に逃したそうです」

 「それはロワンって騎士の判断でか?」

 「そのようですね…上からは始末するように言われていたようですが…ロワンと言う騎士には子供の…それも女性の命を取る事は出来なかったようです」

 「…俺達ならそれもそうだが、騎士としてはどうなんだそれ?上の命令は絶対だろ?」

 

 ジャンにしては珍しく騎士の話に突っ込んだ。

 

 「確かにジャンの言う通りだ…だが命令したのが忠誠を誓った相手では無い場合、騎士は騎士の本分に忠実に行動するものだ」


 グレイズの言葉にジャンは不敵な笑みを浮かべる。

 

 「まぁ良いや…騎士道とやらの話を今しても話が進まねぇ…んで?」


 ユーリヒが肯き話を続ける。


 「簡単に言えば今回の馬車襲撃はアネリア様を誘拐し現体制の旗印に祀り上げる事です」

 「シレミナ様のが良くないか?」


 ジャンの疑問にユーリヒが答える。


 「十三年前の反乱当時に当事者の奥方だったシレミナ様では過去の記憶が邪魔をします…アネリア様にはそれが無いので象徴には都合が良いんです」


 "ああ、なる程"とユウジも思った。


 「……ただ今回の私の任務にはグレイズが調べた事やロワンと言う騎士の話を色々合わせた結果…十三年前の王弟反乱の時も今回の事も…多分サルモン辺境伯が裏で動いてます」

 「……………………」

 「……………………」 

 「だが、それだけじゃ無く…サルモン辺境伯の後ろにはマーレ王国がいる」


 今迄の話の流れはユウジにとってそれ程難しい話では無かったが、転生してまで政治的ドロドロに巻き込まれた己の現状に肩を落とす。

 

 (人間三人集まりゃ派閥が出来るとは良く言ったもんだ…)

 

 まだ色々裏が有りそうな話は続く……

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