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第三十二話 マルガリ大坑道①


 我々がいた荒地を進む事二十分。目の前に巨大な亀裂が現れる。

 いつ出来た亀裂なのかは記録にも無いが、深さ百八十メートル、幅百十メートルあり、人の手で亀裂に橋などをかける事など不可能だった。

 この亀裂は大陸を横断していて、峡谷の幅が唯一狭まっている場所が二箇所程ある。その一つがここだった。


 俺達は峡谷を伝う細い坂を下り最下部迄辿り着いた。

 向いに聳え立つ岩肌は圧倒的な迫力で迫り、俺は押し潰されそうな感覚を受ける。


 「このまま少し南下するとマルガリ大坑道に着くわ」

 

 ロゼさんが親切に解説してくれた。

 

 「その坑道の中を進むんですか?」

 「ええそうよ」

 「…その坑道はいつ頃出来たんです」

 「んーはっきりは記録に残って無いからわからないわね」


 (……わからないのか…)

 

 先頭を進んでいたグレイズが馬の歩を緩め、ユーリヒの乗っている馬車を護るように布陣する俺達の近くに近付いてきた。


 「このまま進みマルガリ大坑道の前で一泊することになる。君等には少し護衛任務の事について話したい事がある。…野営の準備に入ったらユーリヒ様のテント迄来て貰えるかな?」


 俺達四人は静かに肯く。


 一瞬首筋にピリピリとした感覚を覚えた俺は空を仰ぎ見た。


 「どうしたのユウジさん?」


 いきなりの俺の行動にロゼがびっくりしたように聞いてくる。


 俺は峡谷の底から見える薄曇の空に小さなシミのような黒い点を見つけた。


 「何だー?何か見えるのかユウジ」


 俺はその黒い点を指差す。

 

 「あれなんですかね?」


 ジャンが俺の指さした空を見上げ、目を細めた後ギュッと唇を真一文字にする。


 「グレイズの旦那!何か来る!」


 グレイズの反応は早く、騎士達に指示を与える。

 

 「防御陣張れー。ロゼ様は魔法防御でユーリヒ様を!」

 

 空に浮んでいた黒い点は次第に近付いて次第にその形を(あらわ)にする。


 「くっそー泥虫じゃねーか!岩場から離れろー!」


 その瞬間上空から大音量の鳴き声が響き峡谷の切り立った岩肌が振動で剥がれ落ちて来た。

 

 「深風の女帝サーリャに問う。遥遠(ようえん)有りて天雷に等しき道は何処(いずこ)ぞ。吾に問い応えよ。その深風を(かざ)す大いなる庇護 ラーディーン!」

 

 崩れ落ちてくる岩盤はロゼが唱えた魔法の盾に弾き飛ばされる。


 「後一回しか耐えられないわよ!何とかして!」

 

 ジャンが垂直の壁を数十メートル駆け上がり、泥虫めがけて何かを投げ付けた。

 それは泥虫をすり抜けた所で爆発する。


 ギッギッギッ


 爆風に巻き込まれた泥虫は地上に叩きつけられガサガサと蠢く。

 

 「うおぉぉぉー!!」

 

 バロンドが雄叫びを上げると泥虫の動きが鈍くなった。

 

 「ユウジやれー!」


 ジャンの叫びに呼応した俺は巨大な黄金虫のような生き物めがけ、距離を詰め首筋に刃を滑らせ振り上げた。

 ゴゥ! 

 乾いた峡谷の地面を削り取りながら、泥虫の首が胴体から離れ宙を舞う。

 まるで中身が無いような乾いた音を響かせ泥虫の首が地面に落ちた。


 馬車を護っていたグレイズがその光景を目にし、騎士達に次の襲撃がないか周りを偵察するように命令を下す。


 「…いや、凄いな…冒険者の戦い方は我々とは全く違うのだな」

 

 グレイズが感心したようにジャンに声をかける。

 

 「日頃からわけのわからん生き物を相手にしてりゃあこうなるわな」

 「ふむ、やはり冒険者を護衛に付けたのは正解だったな」

 「今更かよ、グレイズの旦那」

 

 周りを偵察してきた騎士がグレイズに報告してゆく。


 「予定を少し変更してマルガリ大坑道の中で一泊する。また泥虫に襲われたら、かなわんからな」


 騎士を先頭に再び馬車が進む。


 「ジャンさん泥虫って良く出るんですか?」

 「んなわけあるか…ありゃもともとの生息地は森林地帯だぜ?……虫使いでもいるのか?」

 「ガナの流れは無かったわね…虫使いでは無いと思うわ」


 ロゼの言葉にジャンが考え込む。


 「考えて直ぐわかるもんでも無いだろジャン」

 

 バロンドが声をかけるとジャンは肩を竦め、再び馬車を護る位置に付いて馬を進ませた。

 

 (…、なかなか護衛ってハードだな)

 

 ロゼが俺の横に馬を近付けてきた。


 《ユウジさん。ユウジさんの魔法はいざという時まで使わないでおきましょう》

 《…何故?》

 《ユウジさんの魔法は詠唱がいらないでしょ?それって普通じゃ無いのよ》

 《ああ…やっぱり…》


 薄々そうでは無いかと思ってはいたが、ライトノベルに良くある無詠唱とか反則的な魔法で"無双"だー!とかやるのは少し気恥ずかしい…少しだが…。

 

 《わかったロゼさん気をつける》


 ロゼが俺から離れ元の位置に戻って行った。

 日が傾くと峡谷の底はやはり陽の光が入らず、薄暗く肌寒い風が吹き抜けている。

 峡谷の岩肌にいくつもの鳥の巣のような物も見えていたが、騎士たちが気にしていないので害のない鳥類だろうと推測する。

 目に映る生き物がユウジにとって安全なのか害なのか、周りの人の反応を見て覚えるしかなかった。

 俺の視線の先に何か映るたびにロゼさんが俺に近付いては説明をしてくれるのは本当に助かる。

 

 (いやー気の利く娘さんだ……)


 どうも前世の年齢視点の物の言い様になってるようだ。気を付けねば変人に見られかねない…

 

 (大事な(ひと)が出来て良かったな…だから…)

 

 俺はロゼさんを失わないように改めて気を引き締める。

 

 「何とかこのペースならマルガリ大坑道に着くな…このまま障害が無ければだが…」

 「ジャン不吉な事口にすんな」

 

 バロンドがジャンに文句を付けながらも周りを警戒する。

 何時もヘラヘラとしているジャンとは違う物腰を見てバロンドも警戒心を一段あげたようだ。

 

 (んー警戒しながら進むのはかなり神経すり減るな……)


 《フェニル聞こえるか?》

 《聞こえるわよー》

 《以前フェニルにフェニルと同じ精霊が近くにいるか尋ねたよな?》

 《うん》

 《あれってどうやるんだ?例えば人間や他の生き物も感じられるのか?》

 《ええ、わかるわよ。詳しく把握するには、そこそこ近づかなきゃいけないけどね》

 《やり方教えてくれるか?》

 《……ユウジ、それってユウジの想像力でカバー出来ると思うわよ?探知系の魔法はガナ操作そのものだから、今からユウジがガナ操作を修練してちゃ時間掛かるわよ?》

 《…なる程…後で色々試してみるか…》

 

 峡谷の底はかなり暗くなり始め、数名の騎士が松明に火を付ける。

 暫く進んでいると先行している騎士が松明を振って合図を送っているようだ。


 「大坑道入口が見えたようだ。全員あと少しだが気を抜くな!」

 

 合図を確認したグレイズが全員に聞こえるように声を上げた。


 薄暗い峡谷の先の壁面に更に暗い穴が口を開けているのが見えた。


 (…あれって坑道なのか?洞窟と変わらない気が…)


 それは巨大な穴で、さしずめマレーシアのボルネオ島巨大洞窟のような坑道だった。

 確かに近付いて見るとちゃんと人の手が加えられているのがわかったが、何も坑道の入り口をこんなに巨大にする必要があるのかと疑問が湧いたのだった。

 



 二台の馬車の間に巨大なテントを騎士達が組み上げていく。

 その周りにもいくつものテントを円陣を組むように組み上げていた。

 騎士達はそれぞれの役目通り火を起こし食事の用意をする。

 獣避けの魔具を設置したり、やる事は多い。

 

 俺達もグレイズに指示され、ユーリヒが休むテントの隣に野営テントを設置する。

 

 「流石騎士の野営だよなー俺達冒険者とは違ってきっちりとやるわな」

 

 ジャンが感心したように肯いている。


 俺はこの巨大な坑道に圧倒され、辺りをきょろきょろと観察している。

 

 「びっくりした?ユウジさん」

 

 ロゼさんがきょろきょろしている俺を見て声を掛けてくる。


 「はい、これは凄いですね…でも何でこんなに入り口が広いんですか?」

 

 俺の質問にロゼさんが意外な話をする。


 「このマルガリ大坑道は元々遺跡だったのよ」

 「遺跡…古い時代の遺跡なんですか?」

 「残念だけど年代測定魔法は三百年を超えると測定不能になるのよ。つまりこの大坑道はそれより古いのは確実なの」

 「遺物とか発見されなかったんですか?」


 ロゼさんが肯く。


 「マルガリ大坑道を進むとメーガン領へ入る事が出来るのだけど、長い洞窟の至るところに住居跡が発見されたけど人の生活していた痕跡が無かったの」

 「…それは不思議ですね…人が暮らしていたなら何らかの痕跡は有るはずですし…」

 「そう、だから識者等は街を作る過程で何らかの問題が発生して放棄された未完成の町だったと予想する物もいるわ」

 「…なる程…元々あった洞窟を採掘場として利用したと言うわけですか」

 「ええ」


 (この世界にも色々謎があるみたいだな、例え建築途中の町でもそれを建造した人間の生活した痕跡くらい有るものなんだが…まさか一人が一瞬で作った訳じゃないだろうに…)


 グレイズ騎士長が俺達のテントの側にきた。

 

 「揃ってるな。食後兵士を迎えにやるのでユーリヒ様のテント迄来て欲しい。この護衛の詳しい情報を君等に伝えておく必要があるのでね」

 

 そこまで言ったグレイズが俺の顔を見る。


 「ユウジ殿。ユウジ殿にはシレミナ様とアネリア嬢から手紙を預っているのでお越しになった時にお渡しします」

 「…アネリアとシレミナ夫人から…わかりました」


 グレイズは一歩下がり俺達に一礼して立ち去っていった。


 ジャンが何処から出したのか酒瓶を出してバロンドの目の前で振る。

 

 「食事前に少しやるかバロンド」

 「おーそりゃ良いなー。ユウジもやるか?」

 「いえ、僕はまだ酒は…」

 「あーはっはっはっ。ユウジはまだ酒は飲めんとよ。俺達だけでやろうぜ」


 ジャンとバロンドはテントの中に潜り込み酒を飲み始めたようだ。


 「護衛中良いんですかね…」

 「あのくらいの酒でどうこうなる男じゃないわ…まぁ騎士達に気兼ねしてテントの中に入って飲むくらいの気兼ねはあるようね」

 

 (あーそりゃそうだ。騎士だと流石に護衛中に酒を飲むわけにはいかんだろうしな)


 俺は頭を掻きながら考える。

 

 アネリアはともかく、シレミナ夫人からの手紙となるとかなり重要な内容の可能性が高い。

 

 (ユーリヒ君のテントで何を聞くことになるやら…) 

 

 ロゼさんと並んでマルガリ大坑道の中に立ち、騎士等の忙しく動く姿をただ、今は眺めていた。

 

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