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第二十九話 記憶



 メールを見て儂から一言。


 "お主、やるのー" じゃ。

 

 我々の領域にはお主らの言う結婚と言う慣習は無い。

 いや、だからと言って結婚に至る人の気持が解せない訳では無いのだが、如何せん我らには肉体が無いので長い時を過ごす過程で次第に肉体に付帯する様々な事が希薄になって来てるのだ。

 …のう裕司。

 我等は時に神と呼ばれ…時に悪魔とも言われた…

 儂とて長い時を経てこの身を昇華させ…いや違うか…

 裕司。儂が自らを"神たま"と自称したのは別に茶化したわけでもなくウケ狙いでも無いのじゃ。

 儂自身が儂の目指すべき頂きに未だ到達し得ないから己を"神たま"と自称したに過ぎない…

 肉体を捨て思考のみの果てに我々はそこに到達出来るのか?…

 …いや、愚痴にしかならないのー

 

 因みにお主からの質問に答えると、我々はその世界の誕生に何等関与してはいない。

 確かに儂に世界を創る事は可能かと問われれば可能じゃ。

 だが、魂を創り出す事は如何に儂でも出来ぬ……つまりそう言う事じゃ。

 さて、アプリ内の文字化けは訂正されておるので十分に今を楽しんでくれ。

 

    ちょっと忙しい神たまより。


 (…………………神たまって何なんだろう…)

 

 俺が思い描く神の概念は自然信仰的な物で、明確に人が理解できる言葉を発する訳ではなく、ただそこに有り人が畏怖すべき存在だ。

 人は言葉に依って様々な事柄を理解すると共に、己の偏見や常識と言ったこびりついた物で言葉を勝手に歪曲して捉える。

 だからと言って言葉は無力とは考えてはいないが、それ故に慎重に言葉は使わなければならないのだ。

 神と言う存在は俺が理解出来る物では無く感じる物だと定めた理由はその辺にある。

 

 いづれ"神たま"自身からその辺りの事を聞く事もあるだろう…


 日も暮れたテントの中で俺は一人携帯端末を操作する。


 「婚約したんなら一緒のテントで良くね?」とロゼさんに提案したところ真面目な顔で断わられ、一人携帯端末を操作している状況なのだ。

 以前文字が読めなかった場所は訂正されていて火と水の魔法らしい事がわかったのだが、今となってはその魔法に意味があるのか怪しい。

 フェニルのお陰でイメージをそのまま魔法と言う形に出来る為、妙な状況になっている。

 

 (まぁポイントは身体能力が上がるやつか武術的な物…いや、普段使いができるスキルも良いな…)


 ① 身体

 ② 武器

 ③ 魔法

 ④ 生活

 

 携帯端末のポイント画面を出して内容を見ていく。


 ①の身体画面では所謂ゲーム的に言うステータス的な物が表示されていた。

 この辺りを変えて行くのも有りなのだが、今の所 身体的問題点は感じていないし、変な話身体能力がかなりおかしなレベルにあるようだった。

 ステータス画面の下には謎の空欄が有るが、こいつは不明ゆえに今の所手を付ける気が無い。

 と、なると…必然的に②の武器か④の生活となる。

 ②の武器画面を開くと片手剣や両手剣、投擲武器等の様々なカテゴリー分けされていた。

 現代人の俺には遊びや授業で習ったチャンバラ(これも死語か?)剣道等、剣を持って戦う技術が武器の馴染みだったお陰で、こちらの世界に来てウルム相手に剣で闘うのに対応出来たわけだが、他の武器…例えば弓や投擲縄、鞭や投げナイフ等の武器は全く馴染み無いわけだ。

 

 (…日本じゃツーハンドソードとか持ってたら問答無用で逮捕されるしな…)


 色々悩むが④の生活のスキルを開く。


 日常生活 掃除 洗濯 料理 裁縫 修繕 菜園 会話 


 (………まぁ予想範囲ではあるな…)


 掃除…別段劣ってるわけではないだろう

 洗濯…洗濯機が無くてもやってたな…

 料理…一人暮らしでハマった時代もあったよ

 裁縫…繕いくらいなら余裕だ

 修繕…一人暮らしを舐めるな!

 菜園…これはやった事無いが必要か?

 会話…商社努めで散々経験済み


 こうして見ていくと別段必要性がない気がしないでも無いが、ひょっとしたら料理等を上げるとプロ並みになるとかだと話は別なのだが…


 結局生活に関する限りで言えば中世も近代も余り大きく変わらないのでは?と思う。

 生活、つまり人生の営みそのものだ。

 俺は寝転び目を閉じる。

 この世界に来てから何が足りなかったのかを考えると、結局の所情報なのではと結論付ける。

 今迄サラリーをしてきた経験はこの時代にも活用出来る事もある、交渉、見極め、決断は俺が現場から叩き上がっていった自負であるし、発想は別として若者に今でも渡り合える所だ。

 そこまで思考を辿り俺はふと、俺に相談を持ち掛けてきた若者の事を思い出した。

 

 長峰…


 あいつの名前を思い出せない。

 直属の部下では無かったが有能な若者だった。

 人事部の中でも彼の評価は高く、俺が知っていたのも人事考課の報告書で飛び抜けた評価だったからだった。

 

 (…どうやら俺は死んでこの世界に転生する事になったが…彼は大丈夫だろうか…)


 俺が死んだのがあの店での病死であるなら彼の身は無事だろうが、何らかの事故の場合その限りでは無い。


 (人間何があるかわからんが、若者が死ぬのはな…)


 俺は久しく前世の記憶を辿る内に眠りに落ちて行った。



 

 

 やっほー元気かーい 儂は神たまだよー♥

 あ、儂これでも忙しいから簡単に明確に端的に要件だけ伝えちゃうねー(笑)

 

 多分予想はしてると思うがお主は死んで別の世界に転生したんだよ(爆)


 長峰は思わず手にしていた携帯端末を叢に叩きつけていた。

 

 僕は、この手の可愛らしい絵文字は嫌いでは無いが、知り合いでも無い者に伝達する文書にむやみに使う神経が気に障る。

 叢に投げ付けた携帯端末を暫くにらんでいたが、現実を考え慌てて携帯端末を拾い上げた。

 深く深呼吸をしてメールの続きを読む。



 まぁ死んだと言うより死ぬ寸前に我等が別の世界に精神転移させたのじゃが転移させた理由はヒ・ミ・ツなのじゃ、今回は神々でも予想出来ぬ事態が生じた為お主にもこの携帯端末を預ける事にした。

 冒険者の手引を開けば便利さが実感できるはずじゃ。

 まぁ色々あったがお主がこの世界に無事辿りつけた事に我等は安堵しておる。

 お主がこの世界において何者なのかは少しすれば記憶として湧き上がるだろう。

 新たな世界を楽しむも絶望するもお主次第じゃ。先の人生の記憶を我等は敢えてお主に残したのは我等の都合ではあるが、お主がそれを望まぬ場合メールでその希望を伝えてほしい。対処する事を約束しよう。

 

 

   デハデハ アデュー♥ 至高の神より

 

 (……お主にも?僕だけじゃ無いって事か……まさか高階部長も…)

 

 そこまで考えふと結婚間近だった彼女の顔が長峰の脳裏を走り抜ける。


 (…くっそー!僕は…僕は…)


 メールに書かれていた事は、周りの風景と少しづつ蘇るこの世界での自分の記憶によって確信せざるおえない。

 この世界で産まれ生きてきた自分の人生の記憶と、前の人生の記憶が頭の中でグルグルと絡み合う。

 

 長峰は叢に大の字になり空を見上げる。

 

 (…何故前の記憶が必要なんだ…僕が死ぬ運命だとしても他の世界に送ったなら前の記憶なんて混乱するだけじゃないのか?………あの世界の知識が必要…と言う事か?)


 転生系のファンタジー物の中には前世の記憶を利用して世界を変えたり救ったりする物語が多数ある。


 (………つまりそう言う事なのか?)


 長峰は上体を起し周りを観察する。

 遠くに煉瓦造りの家の集まりが在るようだ。

 胸元を弄り認識票を取り出しそこに書かれている文字を目で追う。


 リーデンス・オルタニウス 二等市民


 (…そう、僕はタティラ共和国のセベスの生まれ…家は商いを生業として成功している…)

 

 二つの人生の記憶は脳内で都合良く統合されて行き都合良く改変される。

 

 (ああ、こう言う事か……僕の人生の記憶はこの世界での生きた記憶に変重され、今迄の記憶は知識として感覚…余り気持ちの良い感覚では無いが、気が狂う程にならないように脳がバランスを取ってるんだな…)


 長峰は立ち上がりゆっくりと歩き出す、自分の居るべき場所へ…


 



 いつの間に寝たのか…

 俺はゆっくりと上体を起こし周りの気配を探る。

 ロゼさんが魔獣避けの魔石を配置したおかげか魔獣や野獣の気配は感じられなかった。

 微かに聞こえるのはいつの間にか降った雨音だけだ。

 テントの垂れ幕を上げて外の様子を伺う。


 (…朝方には止みそうだな…)


 垂れ幕を下ろし毛布に包まりながら携帯端末を操作する。

 

 (…今の所上げなきゃならないスキルは思い付かないな…必要になったら上げるか…)


 "神たま"には色々疑問があるが、前世の記憶を残してくれた事には感謝している。

 

 (転職しても前の経験を使えなきゃな…)


 知識だけでも有用だが、経験で得た人脈も自分の宝だと歳を重ねる毎にひしひしと感じたのは、人によって自分が救われた場面だ。

 若い頃は根拠の無い自信で、一人で何でもやれると思っていた、それは良い悪いでは無く若者なら皆そうだろう。

 だが何れふと気付く時が必ず来る。

 そのタイミングは人それぞれだが、出来れば死ぬ寸前のどうしょうもない時では後悔しか残らないので、早めに気付けば良いなーと思うのだ。

 

 (…うーん…何かロゼさんの人生にも責任を持つとなると妙に…)


 次の言葉が出てこないのは、人の人生を真剣に考えて来なかった俺の不徳なのだろうと自傷気味の笑みを浮かべる。

 

 ヒタヒタと降る雨音を聞きながら再び俺は眠りに落ちて行った…

 

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