第二十八話 ですよねー
俺は思うのだ。
男として生まれたからには美しい女性に惹かれるのは本能だと!
故に男は、目に映る全ての美しい女性(主観)にアタックするべきだと!
そう、これは俺が中学生時代の主張だった。そしてこれは暗に漏らさず女性からは非常に白い目で見られる主張だった。
当時ヨーロッパやアメリカから発生したウーマリブ運動なる物が、一九六〇年代後半に日本にも伝わり、俺が中学生時代はかなりその主張も広がっていて、女は男の奴隷ではない!ミスコン反対!等様々な主張が展開されている中での俺の主張はまぁ、女性からは受け入れられる訳なく見事に撃沈した覚えがある。
その俺も大学を卒業し、大きくは無いが商社努めする年齢になれば、声高々の主張よりも根回しをして相手を落とすテクニック (碌でもない) で中学生時代の主張そのままに、目的の女性を落としていく楽しみを覚えていった。
しかし、やはり年齢を重ねるとどうにも美しいと言う言葉の内容も中学生時代とは違う意味合いを持ち始める。
これは資源調達部で海外に出張が多くなり、他国の女性に接触し始めてからだった。
年齢的には二十代の後半だ。
特にヨーロッパ。貴族階級の大局観のある女性と出会ってからは、女性の見方がかなり変わったのだ。
一旦変わるとアメリカ、中東、アフリカの女性と出会う度、陳腐かもしれないがその人間性に惹かれるようになっていった。
いや、何故今このような思い出を思い返しているのかと言うと、今、正に目の前にジト目をして睨むロゼさんがいるからだった。
〔結構なものを拝見しました〕等と正直過ぎる言葉を吐けば、間違い無く見たこともない魔法がぶっ放されるだろう。
中世ヨーロッパに似た世界観の女性なのだから、特にロゼさんは貴族階級の女性だった為、間違いなくある貞操観念をお持ちだろう。
いや、俺もそれを考えはしたが、悪戯っけが勝ってしまったのだ。
「…見たわよね…」
「………………はい 」〔大汗〕
「い、一応言い訳は聞いて上げるけど結果は変わらないわよ…」
(ですよねー……)
「じ、実は…」
俺は誠心誠意と言うより、ありのままの事実を並べて説明した。
「つまり、ユウジ君は失神した私の服を脱がして隅々まで拭いた…と」
「…………………まぁ、それは事実です…」
「そして私が失神した原因は私がユウジ君に言わずに流精虫を飲ませた腹いせもあって…その…私の…何と言うか…」
「はい、ロゼさんの性感帯をフェニルを使って刺激した…わけです」
ロゼさんが黙り込み恨めしそうな目を俺に向ける。
「…ねぇユウジ君…ユウジ君が前の世界で女性と……そういった経験があったろうとは思うの」
「…………はい(普通そう思うよな…)」
「その世界の男女の決まり事とか、こことは大分違うのかしら?」
「……いや…この世界での男女間の決まり事とか俺が知りたいですよ。例えば結婚前に肉体関係を持ってはいけないとか…有るんですか?」
ロゼは俺の質問に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
(……オイオイオイ……何れ程初心なんだよ…)
ロゼさんは元々貴族階級の生まれだが、貴族に生まれた女性が受ける当然の教育を受けていないのかもしれないと推測する。
(ここは素直に謝っておくのが良いな…)
「…ロゼさん…本当にすみませんでした」
「…おきたことをこれ以上言いませんが…ユウジ君には責任を取って貰いますからね」
何となくロゼさんの言う責任の意味を察した。
「あの…もしかしてロゼさんを娶れ…と」
「あ、当たり前です!は、裸を…ユウジ君は私の裸を見たのですから…」
「はぁ…良いですよ」
「え!……」
ユウジの返答に、驚きよりも当惑したような表情がロゼの顔に浮かぶ。
「ちゃんと責任を果たしますし、大体ロゼさん魅力的ですからこちらからお願いしたいくらいです」
「…………………」
「でもロゼさん、俺で良いんですか?話した通り俺 記憶曖昧だし、将来身元が判明する可能性も有るかどうか不明ですけど」
「……それは分かっています…」
「んーなら問題無いか」
アッサリと言うユウジの態度にやはりロゼは戸惑っているようだ。
勿論この世界での男の成人年齢に達っしてからの話ではあるが、色々と勉強なりして知識を得るには一年以上猶予が有るわけなので、不安と言う不安は無い。
フェニルに言われる迄も無く、前世の性格や考え方さえも微妙ではあるが変化しているのを自覚していた。
前世の記憶や知識を持ちながら、身体が若返るだけでも精神的な変化も起きるだろうが、その身体自体どうやら高スペックな可能性が高い…と言うより異常な位の身体能力が有りそうなのだ。
自惚れは身を滅ぼす原因だが、その辺りは五十三年間の人生経験がきっちりと俺の精神に刻まれているので、この世界の法を侵す事さえ無ければ結構いける気がしていた。
別にプレイボーイ(死語か?)を気取る訳では無いが、はっきり言ってロゼさんのような女性を篭絡する手立ては幾つも知っていた。
問題はこの世界の常識を知らなすぎる為、迂闊な行動は出来無い…わけだ。
俺は冷静にロゼさんの様子を伺う。
(…いや、なんと言うか本当に初々しいな…)
人生経験そこそこ積んできたが、反乱首謀者と共に戦い散った親を持つ娘と付き合った経験等ある筈も無い。
人の事情は様々ではあるが、分からぬ事は見聞きして理解するしか無いのだから、俺は俺らしくロゼさんに向かい合うしかない。
ロゼさんの過去はロゼさん自身の口から聞いたが、詳しい事迄は聞けてはいない。
「ロゼさん、俺は将来の目標をまだ決められません。仮に俺が冒険者を続けたとしてロゼさんはそれでも構いませんか?」
「私は貴族でした…だからと言うわけではありませんが、伴侶となる方に寄り添い続ける事に何の疑問も持っていません。ユウジさんが冒険者であろうと貧民街に住もうと、私は伴侶に従います」
俺はロゼさんの決意を聞き奥歯を噛み締めていた。
ロゼさんの考え方がこの世界の女性の一般的な考えなのだろうか?
少なくともロゼさんから俺への恋愛感情的な物を感じられないが、だとしたら厳格?な道徳がガッチリと染み付いているのか…
ロゼさんの言葉に少なからず俺は衝撃を受けていた。
昨今の若い女性(前世の)にはまず見かけられない考え方で、何か男としてむず痒い喜びの様な感覚を覚えるのだ。
「ロゼさんの覚悟はわかりました…あの、変な事を聞きますが、今迄ロゼさんは結婚を意識したことってありますか?」
ロゼさんはゆっくりと首を横に振る。その表情には淋しそうな色が浮かんでいた。
「あの日…王都マリを離れた時から、私には心の余裕の様な物は無かった…メルカス伯爵を頼り…だから余計に私は早く大人になりたいとがむしゃらに生きてきました。頑張って頑張って冒険者として独り立ちする事だけ目指してきたので、一般的と言って良いかわかりませんが、同じ年頃の女性のように色恋には無縁に生きてきました…」
スッと手を伸ばし、空になっていたカップを引き寄せポットのお茶を注ぎ俺の前に置く所作は、流石貴族女性と思わせるほど流麗だった。
「とは言え、頑張っている者誰もが私の様に結婚に興味を示さ無い事も無く、結構女性冒険者同士の話でもその手の話で盛り上がっていたりしますから、私が過去の経験に変な枷をかけていたのでしょうね」
興味深くロゼさんの顔を見つめていると、視線に気付いたロゼさんの白い顔に朱がさした。
「俺も浅慮な行動をしましたが、俺の気持ちだけを言うと本当に嬉しい結果になったと思ってる。流石に出会って少ししか経ってないロゼさんが俺に対して男女間の特殊な気持ちがあるとか畝ぼれてはいませんが、そうなる様に努力しますよ」
俺の言葉を聞いたロゼさんはゆっくりと瞼を閉じ肯いた。
「末長く宜しくお願いします。…出来れば住む場所は貧民街よりは平民街を希望します…」
俺は笑いながらテーブルの上のロゼさんの手を取り握る。
「あの……ユウジさんって前の世界では女性に何時もこんな感じだったんですか?」
「さぁ、どうでしょうね」
「………………………………………」
異世界に来て俺は前世でも経験の無い、婚約と言う立場を早々に手に入れたのだった。
(うーん色々都合が良すぎる展開には落とし穴がありそうだが…取り敢えず"神たま"に報告するか…)




