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第二十七話 始まりの魔法


 「今更言うのもなんだけど」 

 

 岩陰に張ってあったテントから出てきた俺を見て、何を感じたのかロゼさんの第一声はそれだった。

 

 「ガナをちゃんと操作出来てるわね…どうなってんのかしら…」

 

 不思議そうに、と言うよりも怪訝そうな表情をする。

 こちらとしても流精虫が会話できる迄になるとも思って無かったし、ロゼさんの言いようからも、今の俺の状況が異常である事は何となく分かっていた。

 

 「実はですね……」


 魔法を教えてくれると骨を折ってくれたロゼさんには、正直に今の状況を話しておくべきだと思い話し始める。例えそれがこの世界の常識を逸脱していたとしても。


 「流精虫が意思を持って会話…ですか……」

 

 当然ロゼさんの額に深い溝が刻まれていた。

 

 (相当困惑してるな…こりゃ実物を見たほうが納得するかな?)

 《フェニル…外に出てくれて良いかな?》


 フェニルに問うと、快く了承してくれ、ロゼさんの目の前にフェニルが姿を現したのだが…


 《えっへへー。ユウジのイメージの精霊に変えてみましたー》

 

 そう言うフェニルの姿は間違いなく俺がイメージしてた雰囲気だった。

 それは戯曲「真夏の夜の夢」に出てくるティターニアのイメージが俺の脳内補完された姿だったのだ。

 ロゼさんは真っ青になりその場にひれ伏してしまった。


 「な、何してるんですかロゼさん!」

 「神よ…」

 「いやいやいや、神では無くて流精虫ですから。俺がフェニルと名付けましたが間違い無く流精虫です!」


 俺が説明するもロゼさんは平伏を続け、俺はそれを止めさせようと必死に説明を続けた。フェニルはニコニコと笑顔のまま、そんな俺達を見ていた。



 平伏した自分が恥ずかしかったのか、俺を睨むような視線がキツい。

 今フェニルは小さな光になって俺の周りに漂っている。

 

 「それでそのフェニルと名付けた事でユウジ君は魔法を使えるようになったと…」

 「はい…これって珍しい事なんですか?」


 ロゼさんが少し考える。


 「私が知る限りでは珍しい…と言うより多分こんな事は今迄無かったと思う…」

 

 ロゼさんは父親、つまり王宮魔術師筆頭だったキュイラス・エルザールに幼少の頃から魔法の基礎を叩き込まれた。

 神話時代、神の奇跡から、人が魔法を得る経緯を含めた基礎的な学習…だが、精霊に関する記載は、詳しい書が存在していた事実はないようで、かろうじて子供に読み聞かせる童話の類いにしか登場して無いと言う。

 ロゼさん自身、流精虫を説明する時に俺に話した精霊だが、そんな童話に描かれる様な物として話したらしく、実際精霊や妖精を見た事は無いと言う。

 

 「…では、ガナって一体何なんですか?」


 俺は当然の質問をロゼさんにぶつける。

 

 「ガナが何なのか…実の所わからないのよ…」

 「でも、人の意思に反応するんですよね?流石に話も出来るフェニルのような…とは言いませんが、もしかしてガナって精霊なのでは?」

 「…否定も肯定も出来ないわね…先ずは精霊の定義が成されていないのがその最大の原因なのだけど…」


 これはロゼさんの父親から教わった話しらしいが、原初の魔法は意味の無い音の組み合わせから始まったらしい。

 人の悲鳴や雄叫びの様なものから魔法が発生し、次第にそれは呪言のようなものへ発展していった。

 今では学問の領域に迄になっているのだが、これはどこの誰から始まったと言う話ではなく、何となくあちらこちらで同時に発生したらしい。

 アネリアから聞いた統一されている貨幣も、人が共通した取り組みをした結果では無く、この世界に貨幣の概念が生まれた時からそれはあった…

 もしかしたらこの世界は、誰かが創り上げ用意された物を、人が用意されたように使っているだけなのだろうか?


 (その辺りの事は"神たま"に尋ねてみるか…)

 

 「それでユウジ君は魔法を使う事が出来るわけよね?」

 「ロゼさんの言う魔法と同じか疑問ですが、俺がイメージした通りの結果は現れるみたいです」

 

 俺の返答に少し考えるような素振りを見せたロゼさんが、俺に自分と同じ魔法を使うように要求した。

 

 「分かりました。ただし、効果を教えて貰わないと見た目だけの魔法になるので、その辺りは説明お願いします」

 

 ロゼさんが無言で肯く。


 「今から使うのは中級水魔法ミストバレットと言う魔法です。私を中心に半径30メートルの霧を発生させると共に、無数の氷の礫で敵を攻撃する魔法です。勿論私に敵対するものだけに氷の礫は襲いかかります」

 「なる程…そう言う魔法ですか…了解しました」


 俺の中で明確なイメージが出来上がった。

 

 「万物の源となる一房の鍵、水霊の王ウスナに選ばれし白銀の鍵を持ち、開け閃撃の刃 ミストバレット!」


 詠唱と共にロゼさんを中心にミルク色の霧が発生して、その霧の中を恐ろしいスピードで氷の礫が飛び交っていた。

 

 (なる程…まぁロゼさんに聞いてイメージした通りだな…)


 霧の中に手を伸ばすが、氷の礫はユウジを避けて飛び回っている。


 (あの詠唱でこの現象を引き起こせる原理は全くわからない…ロゼさんはこの現象のイメージを明確に作り上げてるのだろうか?)


 その辺りは後でロゼさんに聞くしか無いだろう。

 今の俺みたいにイメージが重要で、実は詠唱に意味がないなんて事は無いだろう…


 霧が晴れロゼさんが俺を見る。

 

 「再現してみて…」


 俺は肯き、直ぐにそれ(・・)を現出させた。

 ロゼさんの魔法を見た後で若干の修正を加えた魔法が発動する。

 ロゼさんの息を飲む音が聞こえてくる。

 

 「…本当に再現出来るのね…詠唱も無しに…」

 

 俺は俺の中のイメージを魔法に重ねる。フェニルは忠実にイメージを再現した。

 氷の礫と共に霧の中を白銀の稲妻が走り出した。

 俺のイメージでは、氷の粒の摩擦の静電気=雷発生だったからだ。

 イメージと言うよりは雷発生の原理を教科書通り知っていただけなのだが、この世界では雷の発生を理解出来ている者がいるか不明だが、ロゼさんの驚愕した顔を見る限り雷系の魔法は多分珍しいか、皆無なのだろうと予想した。

 

 「ユ…ユウジ君これは何!雷が…」


 ロゼさんが驚愕の余りその場にへたり込む。

 

 「折角氷の礫を作ったんでその次の現象として雷を走らせました。我ながら実に合理的な現象だと思いますよ」

 

 そう言いつつ俺はロゼさんの唱えた詠唱について考えていた。

 ファイヤーボムの詠唱にしろ先程の詠唱にしろ神や精霊を指した文言は無い。

 水霊の王が水の精霊王を示すとは、先程のロゼさんの精霊に関する説明から考えれば無いだろう。

 だとすれば水霊の王は何を意味するのか…

 

 (ん!…この香り…)

 

 ロゼさんの姿を見た瞬間俺は理解した。

 俺が知覚した匂いは間違い無く女性が興奮した時に発する類のものだったのだ。

 

 所謂フェロモンだ(笑)

 実年齢の俺だったらわからなかっただろうが、前世で五十年超えの経験値を重ねまくった俺には馴染みの香りだ。

 

 (いやいやまさか…見たことない魔法をみて欲情するとは…まぁそれだけ真剣に魔法に打ち込んできたんだろうな…)

 

 さて、このロゼさんをどうしたものか…色々女性特有の現象も現れているようで、このまま何食わぬ顔で会話に持ち込んでも良いが、説明無しに流精虫を飲まされた若干の恨みも蘇り、ある手を思い付いた。

 

 俺は明確なイメージをフェニルに伝えるとフェニルは忠実に実現したようだ。

 ロゼさんの身体がビクビクと震えだし暫くして白目を向いて仰向けに倒れた。

 おまけに失禁したようでアンモニアの香りが漂っていた。

 

 《…ねぇねぇユウジ…何でロゼは倒れたの?》

 《あーそれはロゼさんの性感帯を刺激したからだよ》

 《性感帯?》

 

 前に性別を説明して、結局理解してくれなかったフェニルに性感帯を説明するのは無理と思い簡単に、人間は気持ち良くなると失神する事もあるんだよと教えた。

 

 ふーん と納得したのかそれ以上フェニルから質問を受ける事は無かった。

 

 俺は倒れたロゼさんを抱え上げテントに運ぶと、ロゼさんの衣服を全て剥ぎ取る。

 誰にも話すつもりも無いが、他の女性が知ったら間違いなく白い目で見られる事間違い無いだろうが、濡れた衣類をそのままにするわけにもいかない。

 俺は布地とロゼさんの衣類を抱え、湧き水で衣類を洗った後布地を湿らす。

 テントに戻り、濡れた布地で簡単にロゼさんの身体を拭いて毛布に包んだ。

 まぁ初めてロゼさんの裸体を見た感想をしいて言えば、綺麗を凌駕した美しいの領域に入る程だった。

 流石に意識の無い女性を襲う恥知らずな行為を前世でも忌避していたが、ロゼさんの裸体はその忌避している俺でも、グラつかせる程の魅力があったのは事実だった。

 

 (まぁ、少し流精虫絡みの(しこり)があったにせよ少しやりすぎたかな…謝ってゆるしてくれるだろうか…)

 

 俺の知る限りの女性の性感帯を同時に刺激したわけだから、ロゼさんもひとたまりもなかったわけだが…さてどのような結末になるやら…


 俺は焚き火を切らさないようにしながら携帯端末を取り出し、今日の出来事を書き連ねた。

 この世界の成り立ちに神の関与があるのかどうかも添えて俺は発信ボタンを押したのだった。

 

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