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第二十二話 報告と鎮魂


 「と言うわけなのよ」


 ロゼさんの説明を俺なりに(まと)める。

 

 今から十三年前に現国王に実弟が反旗を翻した。

 王弟の名前はジェラード王子。

 俺はサージュの町しか見ていないので知らないが、他の町はかなり厳しい生活だと言う。

 これは現国王ベルモンドの圧政に起因している。

 ベルモンド王の目的は大陸の統一だとロゼさんは言う。

 ジャンさん等はベルモンドは多分世界統一を狙ってるんだと吐き捨てるように言う。

 どちらにせよ軍事に大量の予算を割くために民から税を搾り取っているそうだ。

 王弟ジェラードは王であるベルモンドに何度も苦言を呈するが、聞く耳を持たない王に次第に疎まれる様になった。

 ジェラードには固有の武力もないし、元来争い事を嫌いなジェラードが兄王ベルモンドに反旗を翻す事など誰もが想像出来なかった。

 だが、ジェラードは妻の実家であるランドルフ伯爵の後ろ盾を得て、ベルモンドに反旗を翻したのだ。

 結果ジェラードは破れ、ベルモンドは反旗を(ひるがえ)したジェラードとランドルフ伯爵家 その一族全てを処刑したのだった。

 唯一人ジェラードの妻であるシレミナ様を除いて…

 何故ベルモンド王がシレミナを見逃したのかは誰もわからなかったが、当時王宮に出入りしていた商人だったモーズラント商会当主の伴侶として降嫁(こうか)する事になる。


 「…つまり…もし反乱が成功してたらアネリアは王女様って事ですか?」


 ロゼが肯く。


 「ガッツリ政治絡みですねモーズラント家って…」

 「ベルモンド王が変わらん限り、反乱の芽は何処で育っててもおかしく無いって事だ。だからよ?今回のモーズラント家の馬車襲撃だって気が変わったベルモンド王の差金って事も…」

 「でもね、やっぱりベルモンド王がシレミナ様を見逃したのが分からないのよね…」

 「流石のあの王もシレミナ様の美貌を失うのには気が引けたんじゃ無いのか?」


 ジャンが笑いながら言う。


 「確かにシレミナ様の美しさは他国にも知れ渡っていたからなー」


 バロンドが顎を撫でながら遠い目をして呟く。

 一瞬俺の脳裏に嫌な想像が()ぎったが強引に別の事を考える。

 

 サージュの兵の後に付いて街道を進み、昼を少し過ぎた頃に俺達は町に着いたのだった。


 「一仕事終わったらバカ騒ぎしたいが…どうもそうならんな…」


 ジャンの呟きにロゼが肯く。


 「モーズラント家が喪に服すのに馬鹿騒ぎは流石に出来ないわよ」


 俺は驚いてロゼに質問をする。


 「確かに王家絡みのモーズラント家だけど町の皆にそんなに影響するんですか?」

 「ユウジ。このサージュの町がこんなに静かに暮らせるのは、メルカス伯爵の力もあるがモーズラント家の影響が大きいんだ。この町の人間ならモーズラント家に感謝してるよ」


 バロンドの重い言葉に俺は絶句する。一商会がそれ程町全体に影響を与えてる事に。

 ユウジのいた世界でもある企業があってこそ成り立っていたような町もあったのを、ふと思い出す。


 (メルカス伯爵はどう言った背景があるのかな…)


 「よし!ギルドに報告して安心してもらうか」

 「そうね、成長してるゴブリンキングだったら国が動く事態だったのですから、早く報告して安心して貰いましょう」


 俺達は大通りを抜けてギルド迄歩く。

 途中ジャンが女性に辺り構わず声をかけるのを見て俺は感心する。

 ナンパと言うよりは女性にたいしての信仰なのではなかろうか?と思わずにいられない無節操ぶりだ。

 バロンドさんは我関せず歩き、ロゼさんも何時もの事なのか何も言わずに歩いているが、やけに白けたような目を時折ジャンに向けていた。


 「なぁ坊主、女性は良いなー。お前もそう思わないか?」


 ジャンさんが俺に言葉を振ってきたが俺はそれをかわす。


 「当然思いますが、未成年の俺にはまだジャンさんみたいに"責任を持って"女性に声を掛けられませんから残念です」

 

 ロゼさんが俺の応答にクスクスと笑うが、ジャンさんは何食わぬ顔で再び女性に声をかけるのだった。


 ギルドに着くと中にいた冒険者達が集まって来てゴブリンのコロニーの事を聞いてきた。

 どうやらゴブリンキング発生の情報は彼らに重い空気を蔓延らせていたようだ。

 受付に立っていたタイナ嬢が俺達を見て近づいて来る。


 「ギルドマスターへ報告お願いします。ユウジ君怪我は無いようで良かったわ」

 

 そう言うと俺の頭に手を伸ばし抱える様に抱き締められる。


 (うわっデカっ!柔らか!てか苦しい!)


 「ちょ!何してるんですかタイナ!」


 ロゼさんが一オクターブ高い声で抗議するが、タイナの嬉しい拘束は解かれない。


 「何って…何となく?」


 タイナが面白そうな玩具を見つけたように、ニンマリと笑いながら俺の頭をグリグリと胸に押し付ける。


 「ロゼ、やめとけやめとけ。タイナはお前をからかってるんだよ」

 「なっ!……」


 ロゼがタイナを睨みながら笑みを浮かべると言う芸当をしながら言う。


 「タイナさんお仕事して下さいね…ギルドマスターの部屋に案内して欲しいのだけど…」


 タイナが俺の頭を離しつまらなそうな顔をする。


 「わかりました…どうぞこちらへ」

 

 成り行きを見ていた冒険者達がホッと息を吐きだす。


 (タイナ嬢は何でロゼに絡んだんだ?)

 (いやー久しぶりに女の戦いが見れると思ったんだが)

 (あの小僧だろ?確かにいきなりDランクになったって奴)


 タイナ嬢の意味不明の行動で何故かギルド内は活気付いたのだった。

 

 余程気を張っていたのか、報告を聞き終えたエティナがソファーに深く身体をあずける。


 「生まれたばかりのゴブリンキングで助かったな…これで頭の痛い案件が一つ片付いた、御苦労だった」

 

 エティナは直ぐにメルカス伯爵に経緯を知らせる伝令を送るようにタイナに託ける。


 「ゴブリンキングの事とは別だが、今日明日はキング討伐の馬鹿騒ぎは出来んぞ?」

 「帰り道に兵士達と出くわして事情はわかってますよ」


 すかさずジャンが応える。

 "そうか"と言ったエティナが俺に視線を向けた。


 「ところでユウジはどうするんだ?」

 「どうするとは?」


 エティナが言わんとする事は何となく分かるが、モーズラント家の家格からすれば俺がどうこう判断出来る事では無い気がする。


 「多分葬儀は明日執り行われる。お主は参列しないのか?」

 「誰でも参列可能なんですか?」


 エティナが肯く。


 「確かに本宅は貴族街に有るが、葬儀は町の教会で行われるからな」


 (確かにそうだよな……正式な葬儀の服装とか有るのかな…)


 「あの…この国では、葬儀に出る服装とか何か決まり事ありますか?」


 ジャンが笑いながら手を振る。


 「無い無い。そりゃあ貴族の葬儀なら堅苦しい決まり事はあるが、モーズラント家はそんな(かせ)など取っ払ってるからな」

 「そうですか…」

 「ユウジ君が気にするなら私が場に合うような服を見繕いましょうか?」


 ロゼさんの好意に甘える事に決める。


 (あ、やっぱりあるんだ…堅苦しい枷は無いとは言っても、流石に真赤な服とかは常識と言う観点からもきっとおかしいはずだ…わからんが…)


 「ロゼさんお願いします」

 「あーそうか…坊主記憶があやふやなんだったな。確かに葬儀に白い服とかは用途違いだな」


 報告も一段落し、俺達は指名依頼の報酬を受け取りに受付の一階に戻ると、また冒険者達に囲まれた。

 ロゼさんがゴブリンのコロニーの説明して皆を安心させる。


 「そうか、いやーこれで安心して依頼に集中できるわ」

 「僕らなんか町を離れようか真剣に悩みましたよ…」


 まだクラスの低い冒険者のグループがホッとして胸を撫で下ろしていた。

 それ程ゴブリンキングの脅威は大きかったのだ。


 「ユウジ君、報酬を受け取ったら服を選びに行きましょう。ゴブリンの討伐証明報酬は数が多いから明日にでも受け取りに来たら良いわ」

 「わかりました」

 

 その後俺はロゼに連れられて服を選びに町に出た。

 ジャンさんとバロンドさんはギルドの酒場で控え目に祝杯を上げるそうだ。


 

 翌日目を覚ますと雨音が聞こえて来る。

 どうも俺の記憶だと、葬儀の日に雨が降っている確率が高いような気がしてならない。

 祖父母の時も両親の時も雨が降っていた。

 子供の時から仲が良かった親友がバイク事故で死んだ時もだ…

 葬儀は午前中に行うのが一般的で、昨日モーズラント家から正式に長女の葬儀を行う事がモーズラント商会の店頭にて発表されていた。

 モーズラント家の馬車襲撃の事を知らぬ者はいなかったようで、皆アリサ嬢の訃報に誰もが目を伏せた。


 宿屋の一階に降りると、ロゼさんがテーブルに着いていてお茶を飲んでいた。


 「おはようユウジ君」

 「おはよう御座いますロゼさん」

 

 宿屋の娘が朝食を持ってきてくれた。

 俺は朝食を食べながら落ち着いた色合いの服を着たロゼさんを見る。

 何時ものロゼさんは色とりどりの文様が刺繍されたローブを着けていたが、今日は黒っぽい無地のローブを着ている。

 葬儀は九時から行われ、メルカス伯爵も参列するので、それなりに兵の数が揃えられると言う。

 朝食を食べ終え、お茶を飲みながらロゼさんに葬儀のマナー的なものを教わるが、ユウジが知っているマナーと大差ないようだった。


 「時間だわ。行きましょうユウジ君」


 俺はロゼさんと教会に向かって雨の中を歩いていった。


 そこは花で覆われていた。

 教会の司祭が亡きアリサ嬢へ神の慈愛を読み上げる。

 アリサ嬢が神の身元へ迷わず召されますように…と。

 教会の鐘が鳴る。

 人々は幼くして亡くなったアリサ嬢を悼み神へ祈る。

 

 俺はロゼさんの後に続き用意されていた花を一片小さなお棺の上に落とした。

 アリサ嬢の遺体は獣達に食い散らかされ酷い姿だったと聞く。

 それでも遺体の一部でも肉親の元へ戻るのは稀だとロゼさんは言う。

 再び教会の鐘が数回打ち鳴らされた。

 

 「ユウジ様今日は有り難う御座いました」


 アネリア嬢がユウジの前に立ってお辞儀する。


 「いえ、お姉様の事、ご冥福をお祈りします」

 「御丁寧に有り難うございます」


 アネリア嬢はその後も献花に訪れた人々に御礼をしてまわっていた。

 

 葬儀の終わりにモーズラント家の現当主シレミナ婦人が御礼の言葉を述べ葬儀を終えた。

 ロゼさんと共に教会を出た所で兵士に呼び止められた。


 「ユウジ殿、ロゼ様。メルカス伯爵様があちらの馬車で御待ちです」

 「メルカス伯が…」


 ロゼさんと俺は互いに顔を見合わせた。


 「…何でしょうね」

 「さぁ?伯爵を待たせるのは失礼ですし、行きましょうユウジ君…」

 

 俺とロゼさんは兵士の後に付いて馬車置き場に向かって歩き出すのだった。


 

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