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第二十一話 ゴブリン


 「やはり警戒してますね…」


 コロニーから離れた茂みに(まぎ)れ、ゴブリンの様子を伺っていたロゼが呟く。


 「だが、あの様子だと俺達にはラッキーかもしれないぜ」


 ジャンの言葉に俺以外が肯く。


 「…どう言う事ですか?」


 俺の横に居たバロンドが説明してくれる。


 「成長したゴブリンキングがいた場合、コロニーが人間に見つかった時点で移動するなり攻め入る等の行動をするんだよ」

 「あーそう言う事か…」

 「もし、キングがいるとしても…生まれたばかりだな…だがそれも罠って可能性もあるのか…」


 慎重なバロンドに対して、ジャンはもう少し楽観的に考えているようだ。


 「まぁゴブリンに知恵があるのは俺も認めるが、そこまで頭回らねーんじゃないか?」

 「結局、私達がゴブリンの事を詳しく知らないって事が露呈するだけね…」


 魔獣や魔物の生態を、詳しく調べた者が居ない事がユウジには不思議だった。

 尤も種の絶滅を幾つも行なったユウジ達の世界も、似たりよったりなのかもしれない。


 「取り敢えず私がスリープでコロニー前のゴブリンを眠らせるから、ジャンとユウジは直ぐに片付けて」


 ロゼの言葉にジャンさんが親指を立てる。俺も低い声で答えるとロゼが詠唱を始めた。


 「紫衣(しい)の息吹、五色の歌姫、深き風に包まれ無限と眠れ ヒュプノシア!」

 

 ゴブリンが立ったまま全く動かなくなる。

 (…あれって本当に眠りの魔法なのか?)


 ジャンさんが茂みから飛び出したので俺もその後を追う。

 入り口に立つゴブリンをジャンさんと俺で命を断っていく。

 見張りのゴブリンを片付けると、バロンドとロゼさんが入り口迄ゆっくりと近づいて来た。


 「さて、これから本番だな…」

 「マジックシールドを張ります。二十分が限度なので、切れる前に私の近くへ集まって下さい」


 今回ロゼさんは補助魔法と回復に集中して貰う作戦だ。

 バロンド、ジャンが前衛を努め、俺はロゼさんから余り離れないように立ち回る。

 ロゼさんの詠唱と共に四人の身体を一瞬緑色の光が包んだ。


 「突入!」


 バロンドさんが盾を前にして洞窟の中へ躍り込み、そのすぐ後ろにジャンさんが続く。

 前回と同じように少し進むとゴブリン達が湧き出てきた。

 バロンドさんは盾でゴブリンを弾き飛ばしながらメイスで頭を砕く。

 ジャンさんは何時のまに手にしたのか、投石紐を振り回し的確にゴブリンに致命傷を与えていた。

 俺はその後から倒れているゴブリンに止めをさしながらロゼさんと進んでいく。


 (…確かにパーティだと早いよな…冒険者を続けるならパーティーを組むことも考えとくべきか…)


 洞窟と言う限定された空間だと、ゴブリンが襲ってくる数が制限される為、Dクラス冒険者ならある程度は狩れる。


 (…魔法さえ対処出来たら…)


 入り口から七十メートル程進んだ所で洞窟の幅が広がった。


 「バロンドさん、ジャンさん。この辺りです魔法を撃たれたのは」


 "おお!"と言うバロンド声でジャンがバロンドの影に入る。


 「!あれね!」


 薄暗い洞窟の奥に炎が現れ先頭のバロンド目がけて発射された。

 "ゴワァ"

 バロンドの盾に当たった炎が爆発する様に広がりすぐに炎が消える。

 マジックシールドの効果は魔法がシールドに接触した瞬間強制的にガナを消滅させるものだと言う。

 ファイヤーボムは本来、炎が当たった瞬間爆発する様に広がり暫く燃え続ける魔法だが、ロゼさんのシールドのおかげで炎はすぐに消えていく。


 (と言う事はそのまま当たっても大したダメージ無いのか?…少しは火傷する…かな?)


 「ジャン、奥の魔法使い潰せるか?」

 「だめだな、どうも一定の距離を取ってるようで視認できねー」


 次々撃ち出されて来るファイヤーボムに、マジックシールドがあるとは言え進むスピードは極端に落ちていた。


 「坊主、出番だ」


 ジャンが俺と立ち回りを変え後方へ下がる。

 俺は一気に前に出てゴブリンを切り裂いていく。


 「バロンドさん一気に魔法撃ってる奴殺ります!」

 「いけー!ユウジ」


 俺は切り倒したゴブリンを踏み越え、魔法が発動したであろう場所まで一気に走る。


 「ギャギャ!ギッ」


 真横からファイヤーボムが迫るが、シールドを信じて剣を真横に振り抜く。と同時に魔法がユウジの肩口に当たる。

 若干の圧力があったが直ぐに炎は四散したと同時に消える。


 「すげー!魔法ー!」


 思わず声に出たが、俺は構わずゴブリンを薙ぎ倒して行く。

 魔法を撃っているゴブリンは生意気に衣服の様な物を纏っていた。


 (知能が高いとやはり裸は恥ずかしいのかな?)


 とは言え、周りが衣服を着けてないのだから恥とは別の意味合いが有るのかもしれない。

 暫くすると魔法は撃たれなくなった。


 「このゴブリンが魔法を撃ってたのね…ふうん…」


 上下に別れたゴブリンを見ていたロゼさんが、落ちていた杖を拾い上げる。


 「…ユウジ君の言っていた魔法連発のからくりはこの杖ね…」


 ロゼが持っているやや太めの杖に、びっしりと何かの文様が刻まれている。


 「ファイヤーボム専用の魔法杖ね…何処で手に入れたのか…」

 「ファイヤーボム専用?」


 ロゼさんが肯く。


 「魔法は詠唱だけの発動と、専用の文様を刻んだ物にキーワードとなる短い詠唱を使う文様魔法が有るのよ…それがこれ」

 「それを使えば俺でも直ぐにファイヤーボム撃てるんですか?」

 「撃てるわよ?ファイヤーボムだけだけど、ガナ制御も要らないから誰でも」

 「こいつは魔道具の一種だ。ほら、火を起こす小さい奴あるだろ?あれと同じだ」


 ジャンさんが説明する。


 (ああ、そう言えばアネリアも火を起こす時に使ってたな…)

 

 「まぁ…これだと魔法を限定されるし、威力も一定だから魔法職には緊急時以外は必要無いわね」


 洞窟の奥から再びゴブリンが湧き出てくる。


 「さて、今の所ゴブリンキングの支配力は無いようだから一気に蹴散らすぞ!」


 ジャンさんが叫び、俺達は洞窟の奥へと斬り込んで行く。


 「坊主!もう思う存分やっていいぞ!」


 ジャンさんの合図で、俺は前回同様機械の様に切り倒し続ける。

 

 「…ユウジ君ってやっぱりおかしいわよね…」

 「……まぁ…」

 「手合わせしてわかってはいたが…良く体力続くな…」


 (何か後ろで言いたい放題だな…)


 そのまま洞窟を進むと巨大な空間にでた。

 その中央に子供の様なゴブリンが岩を切り出した椅子に座っていて、周りを幾重にもゴブリンが守るように固めていた。

 

 「ゴブリンキング…ですね…」


 バロンドが目を細め椅子に座る小さいゴブリンを見ながら呟いた。


 「多分そうだな…俺達にすればラッキーだったな」

 「ゴブリンの成長は早いですから…後五日遅れてたら…」

 

 ギャギャギッ!ギャ!

 ゴブリンの声が響き、一斉にゴブリン達が突っ込んでくる。


 「おら!仕上げだ!」


 ジャンさんの声でバロンドがロゼさんを守る位置取りをする。

 ジャンさんは剣を抜き構える。俺もそれに続いて迫るゴブリンを迎え撃つ。


 時間にして六分程で広場にいたゴブリンは全滅した。


 「意外と簡単に終わりましたね」

 「魔法対策が出来てたら、ユウジ君一人で出来たわね」


 ロゼさんの呟きにジャンさんがやれやれと首を振る。


 「冗談でもギルドで言うなよ?この数のゴブリン、普通ソロ無理だぞ?舐めた奴が挑戦しだすからな」

 「まぁ、そこまで無謀な奴はサージュのギルドには居ないと思うがな…さて…討伐証明回収するだけで一仕事だな」

 バロンドさんの言葉に、誰もがウンザリした顔になる。


 「…何匹いるんだよ…」


 俺達は文句を言いながらゴブリンの耳を切り落としていく。

 最奥の部屋から、来た道を戻りながらゴブリンの死骸から片耳を切り取り続け、やっと入り口付近に辿り着いた。

 

 「しっかし…奇妙なコロニーだよな…」


 ジャンさんが耳を切り取りながら呟く。


 「そうね…第一人間の遺体が全く無かったし、洞窟の中が綺麗すぎたわ」


 (そう言えばそうだよな…ゴブリンキング誰から生まれたんだろ?)


 「取り敢えずギルドに報告して、後はギルドマスターが判断するだろう」

 「バロンドの言う通りだな。さっさと集めて酒飲もうぜ!」


 早朝から始めたゴブリンのコロニー調査は、アッサリと片付いてしまった。


 (苦労せず終わったが、物事上手く言ってる時ほど注意をしなきゃならないのは経験上身に沁みてるからな…)

 

 些細な見落としが全てをひっくり返す苦い思い出がユウジにはある。

 だが、流石Dランク冒険者。口を開くものの常に辺りを警戒している。


 (こう言う人達でも死ぬ時は死ぬんだな…)


 俺はもう、ボンヤリとしか思い出せない線の細い冒険者を、ふと思い出していた。


 湖を周り、サージュの町へ続く街道に出ると、兵士の一団と出会った。

 顔見知りだったのか、ジャンが兵士の一人に近寄って何やら話していたが直ぐに戻ってきた。


 「知り合いですか?」


 俺が聞くとジャンさんは少し顔を顰める。


 「…まぁな…攫われたモーズラント家のアリサ嬢ちゃんの死亡を確認した」

 「!…」

 「遺体は後ろの馬車に積まれてるってよ」

 「そうですか…」


 あの時、俺が叢に伏せて見ていた惨状、一瞬だったが、赤毛の髪の長い少女の怯えた顔が蘇ってくる。


 (アリサって名前だったのか…)

 

 「グレイズの旦那が見えないが?」

 

 バロンドがジャンに尋ねる。

 どうやらあの隊長さんはまだ賊の足取りを追って捜索しているとジャンが説明してくれた。

 アリサさんの遺体だけは先に家族の元へ返そうと、兵を分けて帰還させたと言う。

 

 「このままで済むとは思えないわね」


 ロゼさんが何やら不穏な言葉を呟いた。

 

 「あの、ロゼさん。モーズラント家ってただの商家じゃ無いんですか?」

 「……そうね…ユウジ君は偶然とは言えモーズラント家のアネリア様を助けたのだから知っておいたほうが良いわね…」

 「そうだな、坊主は間違いなく冒険者として有名になるだろうし、そうなるとモーズラント家から指名依頼が掛かる可能性はあるな…」

 「公然と話せる事なんですか?」

 「公然と話せる事では無いけど、商売人や情報に敏感な人間なら皆知ってるわ」

 

 サージュの町に戻る間、ロゼさんがモーズラント家の事を話してくれるのだった。

 

 

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