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第二十話 臨時パーティー


 冒険者ギルドが宿屋を遥かに凌駕する規模の建物だったのには、ちゃんと理由があった。

 一階は受付と食事等が出来るスペース。二階は様々な事務関連と言うように区分けされている。

 今俺達が向かっているのは、地下に有る訓練場。

 地下には魔獣や魔物の買い取り所もあり、当然解体所も併設されている。

 種類こそ少ないが武器防具等も販売されているようだ。

 訓練場はテニスコート三面分の広さがあった。

 壁は煉瓦で出来ていてシールドの魔法陣が至る所に刻まれているぞ と、ジャンさんが何故か得意げに説明している。

 どうやらバロンドさんとの立ち合いは、ギルド内に直ぐに広まっていて、冒険者達が集まっていたのだが、木製のベンチには受付嬢のタイナさんと、ギルドマスター本人もちゃっかり座って何か飲んでいる。


 (…受け付けの仕事は良いんですか?…タイナさん…)


 ロゼさんが参考までにと、バロンドさんの事を大まかに教えてくれた情報によると、バロンドさんは見た目通りの鉄壁の防御と、見た目に寄らない素早い打撃を併せ持つ聖騎士並みの冒険者だと言う。

 さて、教えてくれるのは有り難いが、聖騎士がどのような者なのかわからないので、前世の知識で判断するしかなかった。

 実際のローマ帝国時代や中世ヨーロッパの聖騎士では無く、ファンタジー系のエンターテインメント物に出てくる聖騎士を基準に考えてみる。

 良く有るパラディンはどんな攻撃でも一定のダメージに変換する能力や、自己治癒能力、パーティーカバー能力等の特徴が多く見られる。

 魔法が実際に在る世界ならダメージ変換位あってもおかしくはない。

 問題はダメージ反射等が有った場合、かなり苦戦する可能性が考えられた。


 (さて、どうしたものか…強打を打ち込むのは良いが、打ったダメージを反射されたら痛いよな…)


 ダメージとは何だろう?と考えてみる。

 まさか装備品のダメージでは無いだろう…と言う事は…


 (……あー…つまり装備品だけ破壊すれば良いんじゃないか?)


 訓練場の真ん中でバロンドさんと向かい合う。


 「坊主、お前寸止め出来るか?」


 ジャンの問いに俺は自信がない事を告げる。


 「そうだよな…まぁ振り抜かなきゃ何とかなるだろう…ヤバくなったら即死じゃ無い限り、タイナ嬢ちゃんが何とかするだろう…」

 「…ロゼさんじゃなくタイナさんがですか?」

 「ああ。ロゼの回復魔法は言わば初級の回復魔法だからな…まぁそれでも凄いんだが、タイナ嬢はBishop(司教)クラスの神の奇跡を使えるから、こういった危なそうな試合には必ず居合わせるんだよ」

 「…道理で……タイナさんが仕事をほっぽり出して来た訳がわかりました」


 ジャンが俺の正直な感想に笑い出す。

 

 「まぁ、首を刎ねたり頭を割ったりしなきゃ何とかなるから、ほどほどの力で剣は振ればいい…なぁ坊主、これは俺の希望なんだが…あの時のスピードだけは見せてくれないか?」

 「…そのつもりです」


 ジャンが満足そうに肯く。


 「さて、バロンド。用意はいいか?」

 

 バロンドは金属製の鎖状の上着を着込み、大きな盾(材質不明)とメイスを持って構えていた。

 

 「何時でも…」


 互いの距離は十メートル…

 少しざわめいていた訓練場に静寂が訪れ……ジャンの声が響いた。


 「はじめ!」…と。


 "ガゴォン" 

 訓練場に響く聞き慣れない音と共にバロンドが後ろへ仰反る。

 何がおきたのか訓練場にいる冒険者の中で理解したのは、ギルドマスターのエティナだけだったろう。

 獣人族のエティナだけが、その類まれな動体視力でユウジの動きを俯瞰して見れていたのだ。

 もう一人ジャンがその影を微かながら見る事が出来たようだ。

 仰け反ったバロンドは、見失ったユウジの姿を素早く知覚して盾を構え直す。


 (何だ!何が起きた!)


 バロンドの思考はこの場に居る大半の冒険者達の思考だ。

 試合を真横から見ていた冒険者達さえユウジが何をしたのかわからなかったのだ。

 バロンドの真正面にいたユウジが、今はバロンドの右側面にいつの間にか立っていた…

 真正面に立っていたバロンドからすれば、ジャンが開始の合図をした瞬間、盾に衝撃が走りレッドバイソンにぶちかまされた様な力で真後ろに仰け反らされていた…と、言った程の状況だ。


 (こんな衝撃…魔獣でもなかなかお目にかかれないぞ…)


 バロンドが盾を構え直しユウジを睨む。


 (…今のはこの子供がやったのか?……いや、やったんだ…)


 バロンドも一流と呼ばれる程の冒険者。事実を素早く認識する…が、全くもって何がおきたのかその過程がわからなかった。

 

 (…あの盾は硬いな…()し折るつもりで当てたんだが…)


 流石に剣で切るのは、その後どうなるのか不安があったので、ユウジは剣で盾を殴ったのだ。

 チラッと剣を見ると当てた場所の刃が潰れている。


 (…あの時の衝撃波…出来るかな?)

 

 ユウジは右下段に構え直しバロンドの右側に逆袈裟切りに振り上げる。

 遅れて衝撃波が走り、その衝撃波は固められた訓練場の土台に深い亀裂を穿った。

 バロンドは自分の右横に走る亀裂を見て唾を飲み込んだ。


 (魔法か?…いや、ガナの動いた痕跡が無い…じゃあ今のは何だ?)

 

 (…剣風…と言うやつか?)


 エティナがその光景を見て昔の記憶を思い出していた。

 冒険者だったエティナが当時Aランク冒険者のエインズと対峙した思い出…

 エインズの剣風は躱したはずのエティナの皮膚を切り裂いた…のだが、今目にしたユウジのそれはそんな生易しい物ではなかったのだ。


 (多分原理は同じものだろうが…)


 訓練場は一気に色めき立つ。

 

 ざわめく訓練場に立つバロンドが、メイスを下ろし首を振った。

 

 「バロンドが終了宣言をした。終わりだ坊主」


 ジャンの声でユウジも剣を鞘に納める。

 

 バロンドが近づいて来て握手を求めてきたのでユウジもその手を握った。


 「坊主…いや、ユウジ。実際何がおきたのか俺にはわからなかったが…俺がどうこう言える奴じゃないなユウジは」

 

 バロンドの唇が捲れ上がりニヤリと笑う。

 いつの間にか訓練場に入ってきたロゼが俺の前に立つ。


 「ユウジ君、ユウジ君が見た魔法…多分ファイヤーボムだと思うんだけど今から私が撃ってみるから比べてみてくれる?」

 「はい、わかりました」


 あの薄暗い洞窟の中では魔法を撃つ場面を見る事が出来なかった。

 ロゼが訓練場の中央に立ち詠唱(多分)を唱えだす。

 

 「ガナの集いし炎爆の御子 その畏き威武に栄華あれ ファイヤーボム!」

 

 詠唱途中からロゼさんの身体の周りに、火花のような赤い点が無数に舞い踊り、詠唱の最後の言葉で差し出した手の平に急速に集まった火花が一瞬で撃ち出され、練習場の壁に当たって炎の花を咲かせた。

 その光景は洞窟で見た魔法と同じ物だと俺には思えた。

 

 「どうだったユウジ君」

 「多分同じ魔法だと思います…が、スピードと威力が…」

 「あら?私の方が劣っていたかしら?」


 ロゼがゾクッとする目を向けたので、俺は慌てて首を振った。


 「いえ、ロゼさんの魔法だったら俺、今頃良くて大火傷ですよ…」


 ロゼが薄く笑う。


 (こえーロゼさん…セーフだよな…)


 俺は背中に冷たい汗が流れる感覚を久しぶりに味わった。言うまでもないが大半は女性絡みの冷や汗なのだが…。

 

 訓練場から一階に戻る途中にロゼさんが俺に話しかけて来た。


 「ユウジ君、私も実際にゴブリンが詠唱をしている場面を見た事無いのだけど、詠唱自体聞き取れた?」

 「いえ、詠唱を聞き取れませんでした。他のゴブリンが騒いでいたので…」

 「そうか…私も見てみたいわね…」


 どう言う事なのかを聞いてみると…同じ魔法でも人間とその他の種族では言語体系が全く同じとは思えないし、もしかすると火や水の捉え方一つにしても違う可能性があるにも関わらず、何故同じ魔法が発現するのか?…と言う事らしい。

 先程の詠唱でも、詠唱文を省略すれば魔法は発現しないらしい。


 (……うーん…わからん…)


 「あの…ロゼさん。俺にも魔法って使えますか?」

 「多分魔法自体は使えると思うわ…ただ…」

 「ただ?」

 「大きな魔法は、身体の中にあるガナを使うわけじゃ無くて、世界に満ちたガナを制御するの。その制御に使うのが自分の身体に内包するガナなのよ。だからガナの内包量の少ない人にはそれなりの魔法しか使えないってわけなの」

 「なる程…」

 「例えばさっきのファイヤーボムを発現出来るガナの保有者は多分五千人に一人位なの」

 「…………そうですか」

 「…魔法に興味あるのかしら?」


 ロゼさんの問いに俺は肯く。


 「そう……この一件が無事に終わったら私が教えて上げましょうか?」

 「え!良いんですか?」

 「構わないわ…ユウジ君が魔法を使える様になったら色々面白そうだしね」

 

 ロゼさんは微かに口角を上げ微笑む。


 (女性のこの表情は危険な気がする…ひょっとしてロゼさんショタ……後でジャンさんに聞いてみようかな…)

 

 その後ギルドの酒場で四人で話し合い、パーティーとしての注意点や役割を主に俺に説明し、明日の準備をする為ギルド地下に併設されている道具屋で、足らない備品を買い足した(エティナの計らいで会計はギルド持ちでした)

 

 「さぁ準備は整ったから後は身体の準備だけね。明日の為に早めに寝ておく事ね」


 ロゼの発言にジャン以外は肯く。


 「まぁ俺はもう少し飲んでから寝るわ」


 そう言い残し日も暮れだしたサージュの歓楽街にジャンは消えていった。

 ロゼがやれやれと言ったふうに首を振り、俺を見ながら怪しい笑みを浮かべる。


 「ユウジ君も早めに寝るのよ?……良かったら私の部屋に来る?魔法でグッスリ眠る経験出来るわよ?ふふっ」


 俺は一歩下がり急いでロゼの提案をお断りして逃げる様に宿屋へ帰った。


 (ふふって何?ふふって。ロゼさん男性経験無いってジャンさんが………いや、それは関係ないか…)


 俺は宿の扉を開き中へ入る。


 「お帰りなさいませ」


 俺と同年代の宿屋の娘の優しい言葉に癒される。


 (今日は色々あったな……メールでも書いて寝るか…)


 ユウジは下衣のポケットから鍵を取り出し部屋へ入るのだった。

 

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