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第十九話 指名依頼


 対面のソファーに座るギルドマスターのエティナは、足を組み難しい顔をしていた。

 ここに至っても相変わらず隣に座るジャンが俺の耳元で囁くのだ。


 (いやーギルマス大胆だよなー。ムッチムチの太腿がなかなか(そそ)らないか?)

 (ジャンさん……)


 「…ジャン、聞こえてるぞ…別にお前にサービスしてるわけじゃ無いんだがな」


 エティナのジト目に肩を(すく)めるジャンは、全く悪びれる様子がない。


 「…で、実際どうなんだ?」


 エティナの質問にロゼが慎重に答える。


 「ユウジ君の話だと、使われたのは多分ファイヤーボムだと思います…」

 「…となるとウイザードか…ますます雲行きが怪しくなってきたな」


 どうやら魔法を使うゴブリンがいるコロニーが相当危険らしい。

 成人したゴブリンキングは、他の魔獣や魔物をその支配下に置く威圧と支配のスキルがあり、こうなると国が滅びる可能性もあると言う。


 「…王に報告する前に確認は必要だな。もし、誕生したばかりのゴブリンキングなら倒せる!」


 エティナがタイナ嬢を見て質問する。


 「タイナ、銀星の剣の連中はサージュにいるのか?」


 タイナ嬢が首を振って答える。


 「いえ、最近発見されたフォンタラのダンジョン攻略に出てます…」

 「…そうか…すまんが現状分かっている事をメルカス伯に伝えておいてくれ」


 "わかりました"と応え、タイナ嬢が部屋を出て行った。

 エティナがソファーに座る俺達を見て厳しい顔をして言う。


 「ロゼ、すまないが現在サージュの町にいるのは君等Dランクの冒険者が最高戦力のようだ…」

 「ですね…」

 「行ってくれぬか?…」


 Dランク冒険者にはギルドから指名依頼は出来ない。だが、ギルドマスターがこう言うには切羽詰まった事情が有るのがありありと伺える。

 ロゼが溜息を吐く。


 「せっかくウルムから生き延びたのに…不幸だわ私…」

 「なんかよ、モーズラント家の馬車が襲われた事といい、今度の事といい呪われてんじゃねーのかこの町」


 ジャンが肩を(すく)め天井を仰ぐ。


 (………俺が現れてから色々起きてるとか勘ぐられたら嫌だな…)


 「行くしか無いですね…」


 ロゼ呟く。


 「すまん。パーティー編成はロゼに任せる。もし、ゴブリンキングが誕生したてなら、そのまま討伐出来る戦力を集めてくれ」


 エティナの注文に考え込むロゼが少しして視線をゆっくりと俺に向けた。


 「…ユウジ君。お願いして良いかな?」


 ロゼさんの言葉に俺は肯く。


 「当然行きますよ。場所もわかってますので…ただ、魔法が…」


 俺の心配をジャンが笑い飛ばす。


 「心配ねーよ。坊主はまだ魔法に馴れてないだけだし、ロゼがシールドかけてくれりゃあ何とでもなる」


 エティナがウンウンと何回も肯く。


 「君は単に実戦経験が少ないだけのようだしな、良い経験になると思う…だがロゼ、他は誰を誘うつもりなんだ?」

 「盾役が欲しいのでバロンドに頼んでみようと思います。駄目なら私達だけで行きます」

 「戦力的に問題ないのか?」


 エティナの心配は当然だろうと思う。


 「ギルマスはユウジ君の馬鹿らしい戦い方を見てないから心配でしょうが…あれを見たら…」

 「………………………」

 

 ゲダを中心に集まったロゼ、ジャン、そして死亡したバリヤ達はサージュの町を拠点としている冒険者の中でも群を抜いた実力者が集まったパーティーだ。

 確かに 銀星の剣 と言うCランク冒険者が集まったパーティーは強いとは思うが、エティナから見れば、人間的に問題の有る者の集まりと言う側面が見て取れた。

 冒険者とは名ばかりで、ゴロツキと大差無い者が数多く存在している現実がある。

 DランクからCランクになるには実力とは別に人間性を査定されるのだが、実際人間性を査定するとは言っても猫を被った者を見抜くのは不可能だろう。

 悪い奴は証拠等残す筈が無いのだから、 銀星の剣 に問題が有りそうと噂されてはいたが、証拠が無い。つまり昇格させない訳に行かなかったのだ。

 まだDランクのロゼ達パーティーの実力と人間性は、エティナ自身が認める冒険者。

 その冒険者が戦力的に問題無いと言う…それもユウジと言うまだ若い冒険者の力をこれほど評価する。


 (……領主殿から色々ユウジの事は聞いてはいたが…)

 

 「わかった。ロゼ、君に任せる。くれぐれも無理はするなよ」


 エティナが深く溜息を吐きユウジに視線を向ける。


 「ところでユウジ。お主は何匹くらいゴブリンを倒した?」

 「コロニーに入る迄に九匹。中に入ってからは…多分五十匹程だと思います」

 「随分派手に暴れたな…」


 なる程とエティナが納得する。ゴブリン単体ならそれ程脅威になる事は無い。

 少し身体が頑丈で素早い者なら十歳程の子供でも倒せる魔物だ…が、ゴブリンが単体で行動する事はまず無い。

 奴らは言語を交わし、役割を理解する知能がある。常に数体で行動する用心深さがゴブリンの脅威と言える。


 (危険な場所で一人で出歩くのは人間くらいか…)


 「ギルドマスター。私達はそろそろ準備をしたいのでお暇します」


 ロゼが言うとエティナが肯く。


 「今回は無理な頼みを受けてもらったお詫びだ、ラザフォードの所で必要な品を持っていけ」

 「分かりました。ありがとう御座います」 


 ロゼさんが立ち上がり部屋をでていく。俺もジャンさんの後を付いて一階に降りていった。

 一階に戻ると数名の冒険者がロゼとジャンに詰め寄り、経緯を聞き出していた。


 「なる程…まだ何もわからないのか」

 「ゴブリンキング等出て来たらここら一帯戦場になるからな…」


 ある程度ランクの高い冒険者は事の深刻さが分かっているのか、難しい顔しているが、俺を含めなりたての冒険者にはゴブリンキングの脅威が実感出来ていなかった。 


 「あのジャンさん…ゴブリンキングってそんなに強いんですか?」


 俺は声を落として聞くとジャンは顎に撫でながら俺を見る。


 「本当に何にも知らないんだな…よし!俺が飲みながら説明してやろう。勿論お前の奢りだ!」

 

 "ゴン!"

 

 ロゼがジャンの頭を殴り付ける。


 (ゴンって音がしたぞ…え?あんな音するんだ…)


 「いってーな!何すんだ!」

 「あんたは十三の子供に酒を奢らせるとか、脳味噌が引っくり返ってるかと思ったから直して差し上げたのよ?優しいでしょう私」

 「………いや、奢らせるは冗談なんだが…」


 薄っすらと汗をかいたジャンを真っ白な顔をしたロゼが睨んでいる。


 「取り敢えずは酒場で飲むのは良いとして…」


 ロゼが辺りを見渡す。


 「ジャン、先に行ってて。バロンドに話を通して来るから」


 そう言ってロゼが冒険者の一団に近づいて行った。


 「よしユウジ、俺達は酒場でロゼの来るのを待ちながら、お前にゴブリンキングの事を説明してやるよ」


 俺は肯き、ジャンの後について冒険者ギルドに併設されている酒場(食事処)に入っていった。

 酒場の丸テーブルに腰を掛けたジャンは適当に注文していく。


 「ボウズは酒は無理…か?」

 「さあ?大体飲んで良い年齢なんですかね?」

 「……さぁ?俺は八歳位から飲んでたが何にも言われなかったぞ?」

 (…………………………………)

 「勝手に頼んでまたロゼに殴られるのも嫌だしな…コッサでも飲むか?」


 俺は慌てて首を振る。


 「いや、あれは止めときます…何かお茶的な物を…」


 (食わず嫌いと言うか飲まず嫌いだが、あの色の飲み物は危険すぎる)

 

 暫くしてテーブルに飲み物と料理が並ぶとジャンがロゼさんを待たずに飲み始める。

 「良いんですか?ロゼさん待たないで…」

 「良いの良いの。そんな事気にしてたら冒険者やって行けねーぞ?」


 (…まぁ一冒険者ってこんな感じなのかな?)


 ゴブレットに注がれている何かを飲み干し、再び注文するジャンが肉を(つま)みながらゴブリンキングの説明をはじめる。

 「ゴブリンキングってのはな、まぁ現れたら震災クラスの災厄だな。何と言っても種族の違う魔獣や魔物全てを自分の管理下に置いちまう能力があるからな」


 ジャンが続ける。


 「考えても見ろ、今迄統率力の無い他の魔物が、ゴブリン並の集団戦をやるんだぜ?力やスピードが人間以上の化け物が人間の軍隊みたいに戦うんだからな…ヤバいだろ?」

 「…ですね」


 確かにゴブリンキングのその能力はヤバい。超人の軍隊を相手に人間の軍隊がどの程度抵抗出来るのだろうか?

 相手の何倍兵を揃えれば良いのか見当もつかない。


 「まぁ生まれたてのキングならその能力が無いからな…その時はチャンスだ」

 「そう、勝機…と言うより望みはそこだけね」


 いつの間にかテーブル脇に立つロゼがジャンの言葉に同意する。

 ロゼの隣には身の丈二メートルを優に超える大男が立っていた。


 「ようバロンド、参加するのか?」


 ジャンの言葉にニヤリと笑う大男が椅子にその巨体をおろした。


 「ロゼの頼みを断る奴はいねーよ…まぁ余所者や新人なら別だが…」 


 バロンドが俺にチラッと視線を走らす。

 ロゼも椅子に腰を下ろし飲み物を注文する。


 「さて、大方(おおかた)の説明はバロンドにはしてるから問題は無いのだけど…ほら、バロンドって妻子持ちだからユウジ君が参加するのには余り良く思って無いのよ…」

 「ああ、バロンドならそう言うだろうな…だがなバロンド、こいつを普通の子供だと思ってると痛い目みるぜ」

 

 ジャンが鋭い目付きをする。


 「ふむ…ロゼからも聞いてはいたがジャンも同じか……どうも想像出来んな。と言うより素質がある若者を俺も知ってはいるが…」


 ジャンが椅子を後ろに傾けニヤリと笑う。


 「まぁ俺も見るまで信じないタイプだからな…どうだバロンド、坊主と手合わせしてみろよ」

 「………ほう」

 

 ロゼもそれしかないと思っているようで、ジャンの提案に何も言わず料理を摘んでいる。


 「面白い。冒険者には言葉はいらんからな」


 ジャンがニヤリと笑い俺にウインクする。


 「ユウジ。実力見せてやれよ」

 「本気ですか?」

 「当然本気だ。バロンドの言った通り俺達は理屈じゃ無いんだよ。だからそれを示してバロンドを納得させてやれ」


 (実力を示すのは良いんだが…)

 

 「まぁ俺自身も、もう一度見てみたいんだがな」

 「……分かりました。バロンドさん宜しくお願いします」

 

 自分の力がこの世界でどう受け止められるのかと言う不安もあるが、今力を示さなければ納得しない者がいるのなら示すべきだと腹を括るしか無いだろう。


 (まぁ立場がヤバくなったら逃げるか…)


 こうしてユウジはバロンドと手合わせする事になった。

 

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