第十八話 魔法
洞窟に響くゴブリンの叫び声と血の臭いで、思考も次第に麻痺し、俺はただひたすら機械の様に目の前の敵を斬り殺す。
「うっ!」
薄暗い洞窟に眩い光が現れ肩口を掠めて何かが通り過ぎていく。
ユウジの後方で爆発するように炎が上がり、洞窟内を照らした。
(な、何だ?)
戦闘でヒートアップしていた俺の背筋に悪寒が走る。
洞窟の奥から低いゴブリンの声がすると、再び眩しい光が現れ、物凄いスピードで俺に向かって来たのだ。
光を何とか躱すと、それは地面に当たり弾けるように炎を撒き散らした。
(魔法?火か!)
今迄の戦闘でユウジ自身無傷とは言えなく、致命傷にはならないが無数の傷を負っていた。
(まずい…これはまずい…)
魔法の存在を忘れていた訳では無いが、ゴブリンが魔法を使うとは思っていなかった自分の浅慮に歯噛みする。
次々放たれる火球が周りを火の海に変えていくのを見て撤退を考え始めた。
(しかし、魔法ってこんなにバンバン撃てるものなのか…)
俺は、迫るゴブリンと魔法を避けながら後退していく。
(魔法…覚えられるなら覚えた方が良いな)
何より自分の魔法への知識不足が原因なのは明白だ。
だが、命が掛かっている以上、無理をする訳にはいかない。
入り口まで後退した俺は、危険を覚悟して一気にゴブリンに背を向け走り出した。
背嚢から布を出して湖の水に浸す。
濡れた布で浅い切り傷の汚れを落としながら、新しい布と血止め薬を取り出す。
(…さて、魔法をどうするか…だな)
他の冒険者達はいったいどうやって魔法に対抗してるのだろうか?
Dランク冒険者がこんな事も分からないのかと、他の冒険者が知ったら笑い者になりかねない初歩的な事なのかも知れない。
(町に戻って誰かに…ロゼさんいるかな…)
俺はため息を吐き、町へ戻る事にした。
結局湖畔で倒したゴブリン5匹の耳だけが今回の成果だった。
「……大丈夫ですか?ユウジ君…」
大した傷では無かったが、自分で治療した経験が無い俺は、小さな傷にも布を巻いていたので、見方によるとミイラ男に見えなくも無い。
「大丈夫…です。自分で巻き慣れてないのでこんななりですが…大きな傷は無いんです」
受付のタリア嬢がほっとした表情をする。
「何でそんな事になったんですか?」
「実は…」
山裾のゴブリンのコロニーに突っ込んだ話をすると、タイナ嬢の顔が真っ青になり、直ぐに真赤になる。
「ユウジ君あなた何を考えてるんですか!」
それから滾々とお小言を聞かされ、周りで俺とタイナ嬢の会話を聞いていた冒険者が笑い転げていた。
(…おかしいな…ゴブリン○レイヤーって小説ではもっと簡単に…いやあれは修練と研究の結果だったか?)
「ユウジ君?」
後から誰かが俺の名を呼んだので振り向くと、ロゼさんとジャンさんが立っていた。
「どうしたんですか…それ…」
俺の布だらけの格好に目を丸くしていて、ジャンさんといえば爆笑していた。
「あら、ロゼさんユウジ君とお知り合いなんですか?」
タイナ嬢が不思議な顔をしてロゼに聞くと、ジャンさんが経緯を話す。
タイナ嬢が暗い顔をして呟く。
「そうですか…ゲダさんの時の…」
「んで、坊主は何でそんな格好なんだ?」
ジャンの質問にタイナ嬢が説明すると、二人共何か痛ましい目を俺に向けてきた。
「……あのね…ユウジ君?言いにくいんだけど、ゴブリンとは言え、コロニーは流石に単独は無理だと思うわよ?」
「坊主…ウルム三匹は確かに奇跡的だが、数の暴力はそれとは比較ならないぞ?」
はい、御尤もです。
散々タイナ嬢にお小言を頂きました…
「ですね。まさかあんな魔法をバンバン撃って来るとは思いませんでした…」
俺の言葉にタイナ嬢、ロゼさんとジャンの表情が変わった。
「ちょっ…ちょっと待て、魔法?ゴブリンが魔法を使ったのか?」
「……はい多分…実際魔法を撃って来たゴブリンを見てはいませんが…」
「ロゼ…まさかキングがいるコロニーか?」
「……魔法を使うゴブリンがいるのならキングがいる可能性はありますね…」
どうやら周りの冒険者にも話の内容が耳に入ったのか、ギルド内がザワつく。
「ゴブリンキング………」
「おいおい…本当かよ…」
タイナ嬢が慌てて冒険者達を鎮めようと声を張り上げる。
「みなさん!まだそうと決まった訳では有りません。この件はギルドでしっかりと調査いたします。…ユウジ君、詳しい話を聞きたいのだけど良いかしら?」
何か大事になってきたようだ。
「構いませんが…」
俺はチラッとロゼを見る。
「あの…実はロゼさんに聞きたいこと有るんです」
「……私生活や身体のサイズは嫌ですよ」
真面目な顔で何を言うんだと思いながら俺は首を振る。
「実は魔法の事と、魔法に対する対処とか」
「……ユウジ君には助けて貰ったから構わないけど…どうやら本当に魔法を使ったゴブリンがいたのね…」
俺が肯くとタイナ嬢が、"お二人も一緒にギルマスの部屋へどうぞ。ゲダさんの事もギルドとして聞きたいので"と二人を誘った。
「まぁな、ゲダの事も報告しなきゃならんしな…」
ジャンが渋い顔をしながら呟く。
"ではこちらへ"とタイナ嬢の後をついて、三人は二階のギルドマスターの部屋へ向う事になったのだ。
タイナ嬢の後ろ姿を見ながら、ジャンさんが"タイナ嬢いい尻してるよな"等とどうでも良い事を俺の耳元でニヤニヤしながら囁くのにはゲンナリする俺だった。




